#1327 『BRÖTZMANN / PARKER / DRAKE – SONG SENTIMENTALE』
text by 剛田武 Takeshi Goda
OTOROKU ROKU016 LP/CD
PeterBrötzmann(ts, b-flat-cl, tarogato)
William Parker (b, guembri, shakuhachi, shenai)
Hamid Drake (ds, vo)
LP
A. Song Sentimentale 22:16
B. Dark Blues 18:49
CD
1. Shake-A-Tear 11:40
2. Stone Death 26:17
3. Dwellers In A Dead Land 24:58
Recorded Live at Cafe Oto on the 27th, 28th and 29th January 2015
Recorded by James Dunn
Mixed by John Chantler
Mastered by Andreas (Lupo) Lubich at Calax
Photocollage by Dawid Laskowski
Artwork by bro
Design by Uniet/bro
ロンドン先端音楽のメッカで交歓する野性トリオの狩猟ドキュメント
ロンドンを拠点に活動する日本人4人組サイケデリック・ロック・バンドとして世界的注目を浴びるBO NINGENのTaigen Kawabeは、執筆した沖至『しらさぎ』の再発CDのライナーノーツでロンドンのフリージャズ/実験音楽の状況について次のように書いている。
(英国の)フリーJazzも筆者が渡英する10年前まではJazzと同じく、アンダーグラウンドとしてロンドン各地に点在し雲隠れしていた印象である。しかし東ロンドンのDalstonという若者やアーティストに人気のお洒落エリアに2008年に出来た”Cafe Oto”という名のVenueの存在によりロンドンのフリージャズシーンは大きく変貌する。数年経たないうちに各地に点在していたロンドンの実験音楽家、イベントが集結しだし文字通り実験音楽のセントラルとなった。(中略)その功績は(中略)シーンを活性化させただけではない。その土地柄もあり、世間、特に流行もの好きのロンドンの若者に向けて、フリーJazzの認知度を大きく高めた点にあると思う。「何をやっているのか分からない難しい音楽」と、無視又は耳にも留まらなかった音楽が、真剣に向き合ってもらえるようになったのは素晴らしい事である。
Taigenが語るように、ヨーロッパや米国だけではなく、日本やアジア、南アメリカ、アフリカを含む世界各地の先端的ミュージシャンが数多く出演するCafe Otoが、今や目が離せない音楽創造の聖地であることは、当サイトのサブタイトル「Jazz and Far Beyond」の後半部分に関心を寄せる読者には説明する必要もあるまい。
Cafe Otoで創造された音楽を記録(record)として残し、少しでも多くの人に伝えようと2012年に設立されたのがOTOROKU(音録)というレーベルである。記念すべき第一弾は、ドイツ生まれの”サックスのヘラクレス”ペーター・ブロッツマンが英国のリズムコンビ、ジョン・エドワーズ(b)& スティーヴ・ノーブル(ds)と2010年1月30日に初共演した際のライヴ・アルバム『The Worth The Better』(2012 / ROKU001)だった。全力疾走のハードコア・ジャズが炸裂する爽快感は、この新しいトリオが、新しい会場で、新しい観客と交歓する新鮮な息吹とを伝えている。三人はそれ以来イギリス/ヨーロッパを中心に活動し、ペーター・ブロッツマンUKトリオと呼ばれるようになる。
それから丸5年後の2015年1月末、何度目かのCafe Oto出演でブロッツマンが共演したのは、NYのベテラン・リズム隊ウィリアム・パーカー(b)& ハミッド・ドレイク(ds)。1993年に近藤等則(tp)とともにDie Like A Dogとして結成され、FMPレーベルに4枚のアルバムを残したカルテットから派生したこのトリオは、ペーター・ブロッツマンUSトリオと呼ばれる。UKトリオと異なり長年周知の仲だが、それだけにインパクトやショックだけではない、奥の深いサウンドワールドを創造している。
同タイトルのLPとCDには内容の異なる演奏が収録されている。全5曲トータル104分は、三日間に亘るCafe Oto公演の半分に過ぎないが、業師揃いのトリオの表現形態のダイバーシティーの片鱗を味わうことが出来る。とりわけCDトラック3「Dwellers In A Dead Land (死の土地の居住者)」で聴けるドレイクのフレーム・ドラム(大型のタンバリン)と歌、パーカーのギンブリとシェーナイ、ブロッツマンのテナーとターロガトーによるエスニックなセッションは、即興音楽の原点にある野性のトライバリズムを暴き出す試みであり、ゲルマン民族であるブロッツマンに狩猟民族の血が流れていることの証である。野生動物の嗎を思わせるブロッツマンのサックスは、太古の狩猟の記憶を呼び起こす角笛なのである。狩るものと狩られるものの響宴、これ以上にセンチメンタルな歌があるだろうか。
今年3月に75歳の誕生日を迎えた鉄人の音楽の狩猟の旅は、まだまだ続くに違いない。
(2016年7月29日記 剛田武)