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Concerts/Live ShowsNo. 224

#923 ロシア・ピアニズムの継承者たち第12回/ユリアンナ・アヴデーエワ プロジェクト2016 [第1回]リサイタル

2016年10月28日(金)すみだトリフォニーホール

Reported by 伏谷佳代 Kayo Fushiya
Photos by 星ひかる Hikaru Hoshi

ユリアンナ・アヴデーエワ Yulianna Avdeeva (ピアノ)

〈プログラム〉
J.S.バッハ:イギリス組曲第2番イ短調BWV 807
ショパン:バラード第2番ヘ長調op.38
:4つのマズルカop.7
:ポロネーズ第6番変イ長調〈英雄〉
リスト: 悲しみのゴンドラS.200/1
: 凶星! S.208
: リヒャルト・ワーグナー〜ヴェネツィア S.201
: ピアノ・ソナタロ短調 S.178

*アンコール
ショパン:ノクターン第20番遺作
リスト:リゴレット・パラフレーズS.434
ショパン:ワルツop.42

 

久方ぶりにアヴデーエワを聴いた。前回はショパン・コンクールの覇者という印象がつよく、どうしてもコンテスタントを見るような感覚で聴いたものだったが、コンクール・フィーヴァーを敢えて突き放したような落ち着き払った物腰は、より貫禄を増したようだ。演奏する自分の解釈よりも何よりも、ステージでの主役はあくまで楽曲であるといわんばかりに、女性性を封印した、中性的ともいえるフラットなスタンス(いつもパンツスーツである)、ひたすら作品に奉仕するストイックさから生まれでる濾過されたような音色の美しさは孤高の境地である。硬質だがみっしりとした粘度の音色、最弱から最強までのひと筆書きのようなダイナミズム。とりわけ左手の舵取りの素晴らしさはさすがショパン弾きたる証のようだ。プログラムをみれば一目瞭然であるが、音でつむぐ時代考証のようなステージングである。ショパンが尊敬する大バッハと同時代を生きたリスト、その義理の息子ワーグナーが絡まりあっては濃厚なユニヴァースを形づくる。アヴデーエワのピアニズムに固有なのは、その全方位的な音の伸びだろう。何よりも縦にバウンドする力がある。音が単に伸びるのではなく「立ちのぼる」。砂塵に巻かれるようなリアリティの撹拌を聴き手は味わうのである。フレーズにならずとも単音単位ですでに雄弁なのだ。リストのソナタロ短調にあっては、かつて批評家ハンスリックが酷評したという壮大すぎて「支離滅裂な様式」が、無骨で巨大な骨格のようにそのまま突き出される。スムースな流れを妨げる曳きの強い単音、その逡巡。エキセントリックなリストはどこにもなく、老作曲家が波乱に見満ちたその生涯を回顧している姿に立ち会っているような錯覚に襲われる。紋切り型のアプローチではないからこそ、これまで看過されていたハーモニーの美しさに気づかされたりもする。こうした意外なリストを受け入れるか否かは好みの問題だ(筆者としてはどちらかというと激情型の演奏を好むが)。しかし、この若さのピアニストが、自らの信念を盤石の重みをもって貫いていることに、並外れた凛々しさを感じることは間違いない。(文中敬称略。10月末日記。伏谷佳代)

© Hikaru Hoshi
© Hikaru Hoshi

*関連レヴュー
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report300.html

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。欧州に長期居住し(ポルトガル・ドイツ・イタリア)各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評(月刊誌/Web媒体)、演奏会プログラムやライナーノーツの執筆・翻訳など多数。

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