JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 915 回

Concerts/Live ShowsNo. 322

#1344 ヤンネ舘野ヴァイオリン・リサイタル 2025

2025年1月16日(木)@東京文化会館小ホール
Reported by Kayo Fushiya 伏谷佳代

出演:ヤンネ舘野(ヴァイオリン)Janne-Yuki Tateno (violin)
有吉亮治(ピアノ)Ryoji Ariyoshi (piano)

プログラム:
フランツ・シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ(ソナチネ)第2番イ短調D.385 op.137-2
レオシュ・ヤナーチェク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
アルベルト・ヒナステラ:パンペアーナ第1番 op.16
エドヴァルド・グリーグ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第3番ハ短調 op.45


ヤンネ舘野による50歳の節目を記念してのリサイタル。まず、否応なく目を引くプログラムである。ロマン派の粋であるシューベルトにはじまり、土着の文化をふんだんに採り込みつつも内なるロマンティシズムを発露させたヤナーチェク、そして情景は一気に大西洋を越えてアルゼンチンのパンパへと飛び、締めは凍土のなかに熱き血潮のうねりを垣間見るグリーグへ―。

ご存知フィンランドと日本にルーツを持ち、クラシック音楽だけにとどまらずジャンルレスな活動をつづけてきた舘野ならではの洞察力に満ちたパノラマ。このプログラムの起点が、夢と現実のあわいがシームレスに交錯するシューベルトであることも興味深い。舘野の音楽が体現している広大なスケール感や「あるがままの鷹揚さ」とも称したくなる衒いのなさは、シューベルトの時空を超越した魅力の核と相通じるものに感じるからだ。音楽を音楽たらしめる、言葉では届かぬ「あわい」であるとしか言いようがない。終始一貫してのびやかで跳躍力に富む音色、安定感、その包容力。十分に感情的でありながら、作為的なところは微塵もない。構築性と場面切り替えに秀でつつも、聴き手を構えさせない。つまり、その演奏は最良の意味で垣根がなく、グローバルであるのだ。

舘野のヴァイオリンが類まれな柔軟性で表面張力を一身に担うとすれば、その内堀に堆積してゆくかのような有吉亮治のピアノは何層にもわたるニュアンスを時空へ付与してゆく。豊富なグラデーション、深浅自在なタッチ、リズムを瞬時に図形のように描き分ける視覚的和声。ヴァイオリンとピアノは、ときに浸食し合いときに互角に頭角を現わしながら、縦糸となり横糸となって、無限のディメンションを開示してゆく。とりわけ、個性的なリズムや奏法が頻出するヤナーチェクやヒナステラでは、それぞれの楽器の醍醐味も随所に濃厚に盛り込みながら。

エキセントリックな軸に振り切ろうと思えばいくらでも「スタイル」らしきものを提示できる選曲ながら、舘野も有吉もそうしたエゴとはひたすら無縁である。音楽に深く没入し、音に込められた作曲家の肉声に耳を澄ます。真摯でありナチュラルな音には、確かな生の実感がこもっており、清澄なる貫禄に満ちていた。(*文中敬称略)


関連リンク:
https://jannetateno.com/
https://ryojiariyoshi.com/

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。欧州に長期居住し(ポルトガル・ドイツ・イタリア)各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評(月刊誌/Web媒体)、演奏会プログラムやライナーノーツの執筆・翻訳など多数。

コメントを残す

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.