#1181 住谷美帆/Saxophone Revolution vol.1~アドルフに捧ぐ~
2021年10月22日(金)トッパンホール
Reported by Kayo Fushiya 伏谷佳代
〈出演〉
住谷美帆 (sax)
AKIマツモト (piano)
〈プログラム〉
ビゼー:「アルルの女」第2組曲 間奏曲
シューマン:幻想小曲集op.73
ベッリーニ:優雅な月よ
—休憩—
デュクリュック:ソナタ嬰ハ調
ドビュッシー:ラプソディ
ロバ:サンバ エチュード第31番
吉松隆:ファジーバード・ソナタop.44
新進サックス奏者として注目を浴びる住谷美帆のコンサート・シリーズ第一弾。サックスの開祖であるアドルフ・サックスへのオマージュを掲げ、副題の「呼吸、革命」も目を惹く。共演ピアニストはAki マツモト。一曲ごとに住谷本人が曲への想いやバックグラウンドを自分の言葉で語り、プログラムは19世紀から現代まで推移してゆく構成。サックスという楽器の進化にともない表現が解放されていく過程を聴き手も追体験することになる。クラシックという文脈でのサックスは筆者にとっては新鮮なのだが、やはり曲が現代のものに近づくにつれて馴染みが増してくる。確かな修練と基礎体力に裏打ちされた循環奏法やタンギングは豊麗な音色と共存し、遠近感に満ちた音風景を練り上げる(サンバ・エチュード)。終章にアドリブも採りこんだ「ファジーバード・ソナタ」では、ダイナミクスの両極を行き来する大胆なサックスの咆哮、ピアノの音色の華やかさも全開に。ベッリーニやシューマンなどのロマン派で見せるしっとりとした歌心、ドビュッシーやデュクリュックなどでの多層にわたる音色の揺らぎにも、住谷ならではの安定した「呼吸」がいきわたりプログラム全体に一本筋の通った軸を感じさせる。その呼吸はまた、住谷というアーティストの強靭な意志の湧出であり、この日の物語性の根底をなす。Akiマツモトとの掛け合いもシームレスで柔らかな音の綾が心地よい。柔硬自在なマツモトのピアノは、楽曲との対峙感が皆無で、内側から入り込み、寄り添い、開示してゆく「海抜ゼロ」からの切り口が新鮮。サックスという楽器の振れ幅のみならず、ふたりの若きアーティストのジャンルレスな未来を予見した一夜。続編も期待したい。(*文中敬称略)
関連リンク:
http://www.concert.co.jp/artist/Miho_Sumiya/
https://www.kingrecords.co.jp/cs/artist/artist.aspx?artist=45676
https://www.aki-matsumoto.com/