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特集『私のジャズ事始』

『リズム&ブルース・スター・パレード第4集』 原田和典

原田和典は旭川市の山田産科婦人科で生まれたらしい。「らしい」というのは、無論、本人にその記憶がないからだ。当時の原田一家は札幌市の中島公園近くに住んでいたのだが、母の実家が旭川だったこともあって、勝手知ったる街で出産することにしたのだ、と後からきいた。
昭和40年代の途中から、父はススキノのキャバレーや真駒内の米軍キャンプで演奏していたはずで(それまでは東京でザ・レインジャーズなどと対バンをしていた)、和典の記憶に残っているのは、家の中がとにかくレコードだらけだったということ。『リズム&ブルース・スター・パレード第4集』というLPが家にあり、和典は言葉を覚える前に先にサム&デイヴ、オーティス・レディング、アレサ・フランクリン、ソロモン・バーク、ジョー・テックス等の歌を聴いてしまった。ほか、歌のない音楽ではベンチャーズ、ハービー・マン、ラムゼイ・ルイス、キャノンボール・アダレイ等。その中のどれがジャズと呼ばれ、どれがジャズとは呼ばれないのか、当時の和典は知らない。
義務教育にかすめとられて間もない1976年、アメリカ建国200年を記念したテレビの特別番組があって、それを見て和典は「この音楽が好きだなあ」と再認識した。放送に登場したのは、大ベテランのトランペット奏者であるロイ・エルドリッジと、バリバリの若手だったトランペット奏者のハンニバル・マーヴィン・ピーターソン。同じジャズ、同じトランペットなのに、こんなに広がりがあるのかと大感激した。ハンニバルが演奏した曲名も覚えている。「讃美歌23番」、ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル・イン・ニューヨークの中継録画だったはずだが、レコードになっているのはドイツ・ベルリンのライブ(『ハンニバル・イン・ベルリン』)である。
ジャズは常に動いている音楽で、今が第一に面白く、なによりも今を追っていくべきものだと私はますます思って今日に至っているのだが、自分の細胞に深く刻まれたハンニバルやビリー・ハーパーのサウンドは永遠だ。


原田和典 はらだ・かずのり

1970年北海道旭川市生まれ。音楽評論家、編集者、DJ。雑誌「ジャズ批評」の編集部に勤務、2000年から2005年は編集長。2005年に独立、フリーランスとして活躍開始。2019年、米ジャズ誌「ダウンビート」国際批評家投票のメンバーに選出。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。ジャズ、ロック、ブルース、歌謡曲などのポピュラー・ミュージックに精通し、多数のCDの解説、監修を行なう。父親は元ドラマーの原田季雄、いとこにサックス奏者の原博巳がいる。著書に『コテコテ・デラックス』( ジャズ批評社 1995年)ほか多数。最新作に『モダン・ジャズ (アルバム・セレクション・シリーズ)』(ミュージックマガジン 2023年)。

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