Interview #178 ギドン・ヌネス・ファズ
Gidon Nunes Vaz
Photo by Govert Driessen
ギドン・ヌネス・ファズ
Gidon Nunes Vaz (trumpeter, composer)
1991年オランダ、アムステルダム生まれ。5才の時に初めて聴いたディジー・ガレスピーのトランペットの音色に魅了され、ジャズに引き込まれる。8才よりトランペットを習い、2010年アムステルダム音楽院(Conservatorium van Amsterdam) に入学。2013年に渡米しフィラデルフィアのテンプル大学Boyer CollegeでTerell Stafford 、John Swanaの指導を受ける。2015年アムステルダム音楽院修士課程を卒業。
2015年に発表したファーストアルバム『Tribute to K.D.』で、ケニー・ドーハムを彷彿とさせる音色とハードバップに徹した演奏スタイルが話題を呼ぶ。自己のクインテット、セクステットの他、サイドメンとして、またビッグバンド(Dutch Concert Big Band, Jazz Orchestra of the Concertgeboiw, BvR Flamenco Big Band, Northern European Jazz Orchestra)のメンバーとして活躍しながら正統派の若手ジャズ・トランペッターとして注目されている。
http://gidonnunesvaz.com/
Interviewed by Atzko Kohashi at Barça in Amsterdam on September 15, 2018
Photos: Courtesy of Gidon Nunes Vaz, unless otherwise noted
ジャズが多様化しクラシックやワールドミュージックとの融合が当たり前になった昨今だが、ヨーロッパはその流れの先駆けといえるだろう。米国と異なり小国が隣り合う立地条件があり、ヨーロッパではCross-border、beyond the border と称して早くから民族音楽をジャズに取り入れてきた。オランダのジャズシーンでもシリアやイランなどイスラム圏のミュージシャンとの共演は珍しくない。ECMの本拠地ミュンヘンから遠くないこの国では、ECMサウンドを崇め追い求める者は多いし、音楽学校出身のエリート・ミュージシャンたちは、高度な音楽理論に基づいた難解な音楽を重視する傾向が強い。最近ではスピリチュアルなものに傾倒し、魂の安らぎを求めて静けさをアピールした環境音楽的ジャズも増えてきた。このようなジャズを巡る多様な状況の中で、ケニー・ドーハムを敬愛し、ストレート・アヘッドに徹し、ジャズの本質を追求し続ける27才のトランペッター、ギドン・ヌネス・ファズは特異な存在だ。特にフリー,エクスペリメンタル、アヴァンギャルドの分野で世の注目を集めてきたオランダのジャズ界では、ストレート・アヘッドへの評価が厳しい。
――ではなぜ今、ギドン・ヌネス・ファズはストレート・アヘッド・ジャズなのか?
A: 小さい頃からジャズに親しんでいたそうですが、初めて聞いたジャズのアルバムは何でしたか?
G: ディジー・ガレスピーとスタン・ゲッツの『Diz & Getz』、僕が5才の時でした。ディジーのトランペットの音に圧倒された、なんて素晴らしい音なんだ!ってね。それ以来、あの音が耳から離れなくなってジャズに興味を持つようになりました。誕生日やプレゼントをもらう機会がある度にジャズのCDをねだるようになりました。僕にとってはそれが何よりも嬉しかったから。
A: その後すぐにトランペットを始めたのですか?
G: 当時はヴァイオリンを習っていたけれど、すぐにでもトランペットを吹きたくなってミュージック・スクールに相談したら、まだ早すぎるからとしばらく待たされ、8才になってやっとトランペットのレッスンを始めました。待っている間にいろいろなCDを聴いてトランペットの音色やジャズについて自分なりに研究しました。誕生日に買ってもらったマイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』 や『Porgy & Bess』をよく聞いたな…今でも大好きなアルバムです。チェット・ベイカー、グレン・ミラーなどビッグバンドもよく聞きました。
A: 幼稚園児が『Kind of Blue』、周りの子供たちとは全然話が合わなかったでしょうね。8才からミュージックスクール入学ということですが、そこではどんなことを学びましたか?
G: 基本的な音楽理論、テクニカルなこと、それからジャズの楽しみ方。11才の頃、ジュニアビッグバンドのメンバーになってノースシー・ジャズフェスティバルに出演したのはよい経験でした。ビッグバンドの面白さを教えてくれたその当時の恩師Peter Guidiは、その後もずっと僕の良き相談相手でしたが、残念なことについ数か月前に亡くなりました。子供の頃からの師匠であり僕のメンターでもあるトランペッターのRuud Breuls とは、今でもよく連絡を取って音楽の話をしています。
A: ケニー・ドーハムはあなたの最も敬愛するミュージシャンと聞いていますが、ケニー・ドーハムのどこにそれほど惹かれるのでしょうか?
G: ケニー・ドーハムのプレイを聴いたのは15才くらいの時でした。彼の音を初めて耳にして、それまでに知っていたどのトランペッターとも全く違うと思いました。マイルスとも、ディジーとも違う。何と言ったらいいか、マイルスの音は外側に響いていくような感じがするけれど、ケニーの音は僕の内側に届いてくるようだった。彼の音は素直で、人柄がそのまま現れている気がする。音楽と彼の間に何の隔たりもない、音楽が彼自身のように思えます。
A: ファースト・アルバムの『Tribute to K.D.』(2015年)はアムステルダム音楽院を卒業して2週間後のレコーディングですね。このアルバムではケニー・ドーハムの曲を4曲もとり上げ、さらに彼の愛奏曲<My Ideal>も演奏しています。それだけでなく、あなたのトランペットの音色やフレージングまでもが彼に似ているように感じます。個性豊かなアートも模倣からが生まれるということはジャズの歴史で証明済みですが、「ケニーの真似をしている」と言われるのは嬉しくないのでは?
G: 僕がケニー・ドーハムが好きだからと言ってそれをそのまま真似しようとしたわけではない。彼のプレイが大好きで何度も聴いているうちにその秘密を探ろうとフレージングを解析したり、アーティキュレーションを研究したりしました。彼のソロは自然に聞こえるけれど、実は驚くようなアプローチをたくさんしている。ブルースの3,4小節目でトライトーンを使って斬新なフレーズを編み出したり…、そんな分析をしているうちに自然と僕も彼のようなフレージングをするようになったのだと思います。音色に関しても、その当時はいつも彼の音が頭の中で鳴っていたので、僕のトランペットの音がそのイメージに近づいたのかもしれない。それに僕の卒論のテーマはケニー・ドーハムだったから、2年かけて彼についてじっくりリサーチをした後だったので。
A: ケニー・ドーハムの他にあなたの好きな、影響を受けたトランぺッターは?
G: マイルス・デイヴィス、フレディ・ハバード、チェット・ベイカー、モーリス・アンドレ…、現存している人ではトム・ハーレル、ジョン・スワナ、ライアン・キソール、ルード・ブリュルス…もちろんもっと他にもいますが。
A: トランぺッターのジョン・スワナとテレル・スタッフォードに習ったそうですね。彼らは、*クリスクロス・レーベルの2大トランペッター。どういう経緯で彼らに学ぶことになったのですか? (*クリスクロスCrissCross はオランダ発のジャズのレコード・レーベルで1980年の創立以来NYのジャズシーンを中心に活躍する若手ミュージシャンらを起用して数々のレコーディングを行っている。)
G: アムステルダム音楽院在学中に米国留学プログラムに志願し、2013年にフィラデルフィアのテンプル大学に半年間留学するチャンスを得ました。幸運にもジョン・スワナとテレル・スタッフォードの二人が僕の先生でした。それまでの僕の人生で一番刺激を受けた期間だった。テレル・スタッフォードは主にリズムに関して、ジョン・スワナは演奏のディテイルをという具合にバランスよく二人から学ぶことができました。ヨーロッパでは得ることのできない貴重な体験でした。
A: フィラデルフィアは大勢の有名ジャズメンの出身地すね。リー・モーガン、フィリー・ジョ―・ジョーンズ、ジョン・コルトレーン、マッコイ・タイナー、ヒース三兄弟、それにビリー・ホリデイやベニー・ゴルソンの生まれたのも確かフィラデルフィアでした。そんなジャズ・シティで他にどんな出会いがありましたか?
G: テンプル大学のワークショップにジミー・ヒースとアルバート・トウッティ・ヒースがやって来たことがありました。ジミー・ヒースはケニー・ドーハムと一緒にプレイしていたことがあるから、何か話が聞けるかもしれないと彼にインタビューを申し込んだんです。NYのブルックリンの彼の自宅を訪ねると奥さんのモナさんも歓待してくれました。その時に、ジミー・ヒースがこう言ったんです。「ケニーが僕のところに譜面を持ってやって来たが、なんとその2日後に彼は亡くなったんだ。<No End>というタイトルの曲だったよ」と。ジミー・ヒースは彼の『Turn Up the Heath』というアルバムでビッグバンドにアレンジしてこの曲を吹き込んでいます。No End…何かを暗示したようなタイトルでしょう? 僕は最近この曲を新しいカルテットでレコーディングしました。彼の書いた曲を僕がカルテットとして初めてレコーディングしたことになる!
A: それにしてもここオランダで、ストレートアヘッド・ジャズがあまり評価されない傾向があるこの国で、あなたのようなスタイルを貫くのはリスクが多いでしょうし、かなり勇気がいることだと思います。「今の時代に、ノスタルジックに古いハードパップをやり続けることに意味はあるのか?」という声も聞かれますが、批評家のコメントは気になりませんか?
G: 気にならないと言えば嘘になるけれど、それがかえって自分の音楽の方向、信念を再確認させることもあります。去年ロッテルダムのINJAZZというフェスティバルに僕のセクステットで参加した時、僕たちだけがストレート・アヘッド・ジャズを演奏するグループで、他はみんな ”新しいタイプ” の音楽を演奏していた。後日、批評家から「学校の教科書からでてきたような退屈なハードバップ。自発性のない無意味な音楽」と散々こき下ろされました。でもこの後、落ち込むどころかどうして僕がこの音楽をやりたいのか自分自身で納得しました。辛口レビューも時にはありがたい、もちろん褒められればうれしいですけどね。
A: あなたがそこまでハードバップにこだわる理由は?
G: 僕は音楽のジャンルやカテゴリーにこだわっているわけじゃない。ハードバップの持つブルース・フィーリングとスイング感、この二つが僕にとってはスピリチュアルなもので不可欠な要素です。音楽を知らない小さな子供でもあの音楽に合わせて体を動かす。それはなぜだろう? このことは誰にも説明できないし教えられない。どうやったらスイング感が出せるのか、どの本にも書いてない。とにかく毎日のように聞いて聴きまくる、そして自分で演奏してみるしかない。それだけです。
A: 変な言い方かもしれませんが、その ”新しいタイプの音楽” には興味はありませんか? 例えばECMアーティストの一人で今評判のトランぺッター、アヴィシャイ・コーエンの演奏はどう思いますか?
G: う~ん、確かに彼の演奏は凄いけど僕の探してるものとは違います。でも、数年前にアヴィシャイ・コーエンの演奏をアムステルダムのビムハウスで聴いたときは感動しました。ステージに上がって吹き始めた最初の曲が<April in Paris>、素晴らしいプレイだった…彼がジャズの原点を大切にしているのが伝わってきました。
A: オーネット・コールマンや彼の仲間たちも、パーカーの愛奏曲だったバラードをよく取り上げていますね。「僕たちの原点はここにあり」と言っているかのように。私たちジャズミュージシャンはジャズの伝統と歴史を学び、過去のミュージシャンたちの優れた演奏をひたすら聴いて、それに近づこうとする。でも、そうしながらも既存のスタイルに拘泥せずに、オリジナリティのある新しいスタイルや新しいサウンドを求めていく。それがいつの時代もジャズを続けるために大切なこととは思いませんか?
G: ジャズって新しい曲、新しいスタイル、新しいサウンドを聴く音楽なのかな? 僕には、「What to Play 」よりも「How to Play」の方が大切に思える。僕はどうやってその曲を演奏するかに興味があります。ジャズはそれぞれ違った演奏のやり方、アプローチを楽しむ音楽なのではないでしょうか? 例えばブルースが良い例で、テーマが違うだけでコード進行は全く同じ。それでも毎回僕たちはエンジョイできる。これは凄 いことです。プレイヤーごとに違うアプローチが聞けるのはもちろんですが、同じ人が同じ曲をやってもリズムやテンポの違い、共演者が誰かによって毎回違う演奏になる。その時の瞬時のやりとりで音楽の方向が変わる。その、「How to Play」を聴くのがジャズの面白さだと思います。そういう意味では、演奏する側も聴く側も新しいスタイルやサウンドというものにこだわる必要はないと思う。ジミー・ヒースのアルバム『The Quota』でのフレディ・ハバードの演奏を聞いたことがありますか? フレディがジミー・ヒースの曲を吹いていますが、いつ聞いても本当に素晴らしく新鮮だ!
A: 音楽のスタイルが新しいか古いかということではなく、その瞬間に生み出された演奏はエネルギッシュで新鮮な驚きがあるということ、そしてストレート・アヘッド・ジャズがあなたにとってはその「How to ~」をより自由に表現できるということなのでしょうか?
G: もちろん音楽の好のみ、スタイルは人それぞれだから尊重すべきだと思うし、新しいものを創り出すことは素晴らしいことです。ジャズは自由な音楽だから。だけど僕にとっては、ストレート・アヘッド・ジャズのスタイル、つまりコード進行があり、ハーモニー、リズムの制約のある音楽をどうやって自分らしく自由にプレイするか、それがチャレンジングであり楽しみなんです。制約があるからこそ自由を欲するというように。ジャズの演奏はその時の頭と心のバランスから生まれるから、そこにいつも違った「新しい発見」がある。それがオリジナリティに繋がっていくんだと思っています。一方で、僕は自分で曲を書くことによっても自分の個性を作品に反映させていると思っています。
A: 2作目以降のアルバムではオリジナル作品が多く演奏されていますね。どの曲もとてもユニークで、ハードパップのエッセンスをたっぷりと含んでいると思いますが、作曲やアレンジは学校で学んだのですか?
G: ほとんど独学、耳で聞いて学びました。曲はいろいろな時に思いつきます。<City Lights>はシャワーを浴びている時に、<Night Train>はモスクワからセントペテルブルグに向かう列車の中でした。メロディと一緒にハーモニーも聞こえてくる。それを急いで書きとめようとシャワールームから飛び出したこともあったり…。
A: レコーディングについてですが、すごく短時間で録り終えるそうですね。ほとんどが2テイク、エディットもしないと聞いていますが本当ですか? デジタルレコーディングだから編集も簡単ですし、テイクを重ねて後から編集することも容易でしょうが、ミスを修正したりしないのですか?
G: 僕は昔のミュージシャンのやり方が好きなんです、ジャズは即興の音楽だから、レコーディングには集中力を持って挑む。たいていが2テイク、多くても3テイク、それ以上はやらない。でも、テイク1が一番の出来であることがほとんどです。ミス? それも自分の音楽のひとつ、僕は完ぺきな人間じゃないし、パーフェクトな人生なんてないのと同じ。だからなるべく自然な流れでレコーディングして、それを聴いて欲しいと思っています。
A: 最近のアルバム『Carry it On』はクリス・クロス・レ―ベルの専属エンジニアだったマックス・ボールマンの録ったアナログ方式のレコーディングですね?
G: そう、彼は引退後にベルギーの自宅のリヴィングルームに録音スタジオをつくったんです。素晴らしいアートワークに囲まれたリラックスした雰囲気のスタジオで、大きなコンソールがある。そこで僕たちの音楽に合った方法でということで、マックスがアナログで録ってくれました。
A: クリス・クロスでの彼の録った音も特徴がありますね。特にホーンの音はエネルギーが迸り出ているような感じでストレート・アヘッド・ジャズの雰囲気にピッタリの気がします。これも短時間でのレコーディングでしたか?
G: ほとんどが1テイクか2テイクだった。マックスも喜んで、『それじゃあ最後にアップテンポでグルーヴィーなのをやろう』と言うので、予定していなかった<Steeplechase> を演奏することになりました。アナログだから、もちろん後から編集もしない。緊張したけれど、とても楽しいレコーディングでした。このアルバムのカバーデザインは日本のグラフィックデザイナ—の藤岡宇央さんにお願いしたんですが、オランダでもとても評判がいいです。
A: 今までの自分のアルバムを振り返って聴いてみて、自分の演奏をどう思いますか?
G: これは難しい質問だ。僕は毎回レコーディングの度にいろいろトライしながら自分自身のサウンドを探っている。まだ発展途上だから、トランペットの音もアルバムごとに変わっているはずです。だから後で聴くのはちょっと難しいなあ。
A: 最近また新しいレコーディングをしたそうですが、どんな内容ですか?
G: カルテット編成で、新しいリズムセクションをフューチャーしています。特に今回は、僕の大好きなバラードを中心に取り上げています。女性ボーカルが加わったものが4曲。ケニー・ドーハムの曲も2曲、さっきお話しした<No End>という曲と<Scandian Skies>を演奏しています。
A: あなたはケニー・ドーハムやチェット・ベイカーのように自分で歌うことはしませんか?
G: 僕は歌うのはダメ。ケニー・ドーハム のデビューアルバム 『Kenny Dorham Quintet』(Debut Records)に2つボーナストラックがあって、そこで彼の歌を聴くことができるのを知っていますか? リリース当初はレーベル・オーナーだったチャーリー・ミンガスによって歌っているこの2曲はカットされたんですが、再発された時に<Chicago Blues>と<Lonesome Lover Blues>の2曲がボーナストラックとして加わった。ケニー・ドーハムの歌はトランペットのプレイとそっくり、素直で自然な響きです。歌心が演奏にどれほど大切かがよくわかります。僕はジャズ歌手のように曲にアプローチしたいと思っているので、ボーカルもよく聴くし、歌詞も理解するように努めています。歌詞を考えながら吹くと絶対にテンポが速くならないしね。
A: なるほど。で、歌手では誰が好きですか?
G: ビル・エヴァンスと共演しているトニー・ベネット、そしてフランク・シナトラが好きです。シナトラの声の伸ばし方、声の最後のヴィブラートのかけ方がすごくいい。タイムの取り方もすばらしい。僕もあんなふうにトランペットで吹けたらなあ…。多くの器楽奏者たちが彼の影響を受けたはずです。それからシャーリー・ホーンも好きです。チャーリー・ヘイデンのカルテット・ウエストのアルバム『The Art of the Song』 は最高! 彼女の歌は、まるで前の日に起きたことをそのまま歌詞に綴って歌っているかのようにとても新鮮に聞こえる。歌にスピリットがあるからでしょうね。
A: 近頃はあなたのような世代のミュージシャンはジャズボーカルを聴かない人が多いように思いますがどうですか? 特に音楽学校出身のインテリ・ミュージシャンたちは歌心よりテクニック重視の傾向が強く、その上難解な曲で知的レベルの高さを誇るような傾向があるのでは?
G: 確かにそうですね。音楽がどんどん複雑化しているような気もします。でも僕はシンプルで分かりやすいものが好きです。聴く人に強さを与えるようなもの、そして自然と身体が動き出すような演奏がしたい。
A: オランダにもいろいろなコンペティションがありますが、参加したことはありますか?
G: ずいぶん昔に参加して何度か賞をもらいましたが、今はコンペティションには興味がありません。僕はジャズで人と競おうとは思わない。ジャズをそんなふうに使いたくない。トランペットは肉体的な必要条件が多い楽器だけに体を鍛えることが必須。だから走ったり、泳いだりして腹筋を鍛えます。集中力を養うことも大切です。そういうことに時間を使いたいし…。
L to R;
photo by Pavel Korbut / photo by Gerard Groenendijk / photo by Cindy Heijnen
A: あなたはオランダ国内だけに留まらず、楽器を携えていろいろな国や街を放浪しているそうですね。
G: オランダにいるのが一番楽チンなのは言うまでもありません。でもミュージシャンとして成長するにはもっといろいろな経験が必要です。昨年から今年にかけてリスボン、パリ、モスクワ、セントペテルブルグ、そして日本にも行きました。異なる文化・習慣、初めて出会うミュージシャン、いつもと違うリズムセクション、聴衆の反応の違い…、そういった不安定な環境に身を置くことが、新しい自分の発見へと繋がっていく。ジャズは安定の音楽じゃないですしね。
A: 日本の印象はどうでしたか?
G: 音楽をしっかり聴こうとする人がたくさんいて感激しました。日本人はジャズへの理解がとても深いように思います。滞在中に東京でセッションに参加させてもらったり、大阪でハードバップ研究会というのに参加したこともあります。日本には素晴らしいミュージシャンがたくさんいる、Kondo Kazuhiko, Moriya Junko, Shiina Yutaka, Miki Toshio…。僕は来年も日本に行く計画を立てているところです。
A: 最後に、あなたにとってのドリームバンドとはどんなメンバーでしょうか?
G: 理想のバンドを夢見ることよりも、僕はその夢を使ってチャーリー・パーカーの演奏しているクラブに行って彼の演奏を生で聴いてみたい。彼がどんなふうに演奏していたのか、それをこの目で、この耳で確かめられたらなあ...。