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よしだののこのNY日誌No. 210

よしだののこのNY日誌 第3回 ~番外編、カナダ・ソロ・ツアー~

text & photos by 吉田野乃子 Nonoko Yoshida

みなさま、こんにちは、ののこです。6月に、約1週間のカナダ・ソロ・ツアーに行って参りました。せっかくなので、今回はその時の様子をレポートしようと思います。

今年1月、モントリオールに住むアレックスという青年からメールが届きました。彼は、数年前、NYに遊びに来ていたときに偶然私の演奏を聞き、どうやら気に入ってくれたようで、6月に行われるフェスティバルに参加しないか、という連絡をくれたのでした。アレックスの関わっているモントリオールのSuoni Per Il Popolo(以下、スオニフェス表記)というフェスティバルは、3週間に亘って行われる、実験音楽、フリージャズ、前衛パンクなど、面白い出演者がたくさんの音楽のショーケースとのこと。もう15年も続いているのだそうです。こんな素敵なオファーを断るわけにはいきません。アレックスとあれこれ相談した後、去年から本格的に始動した私のソロ・プロジェクトでの出演が決まり、さらに、彼に助けてもらい、他の街でもいくつかライヴをブッキングし、トロント、ハミルトン、モントリオール、オタワを回るソロ・ツアーを行うことになりました。カナダに行くのも初めてでしたが、ソロ・ツアーも初めて。ドキドキのカナダ遠征が始まります。

♪ 6月16日(火)トロント

ニューヨーク、ラガーディア空港から、運良く見つけたエアカナダの格安航空券で、トロントへ向かいます。ライヴ会場“Burdock”は、最近オープンしたばかりのレストラン兼ライヴハウス。でも、レストランと演奏スペースは完全に仕切られているため、ご飯を食べながらライヴを見る感じではありません。地元のミュージシャン2組(好演!!)を迎えての、3バンド対バン形式。トロントには比較的大きな前衛音楽のコミュニティが存在するようで、ノイジーな表現にもみなさん慣れっこのよう。大変良い反応をいただき、良いツアー初演を終えました。

♪ 6月17日(水)ハミルトン

トロントから少し西へ移動し、ハミルトンという少々小さな街へ。この日の会場は若いアーティスト達が集まって、アートギャラリーやリハーサル場所として使っているスペース、“HAVN”です。この日も楽しい3バンド対バン。地元の面白いこと好きな人たちがたくさん見に来てくれて、素晴らしい夜となりました。私のソロ・プロジェクトでの演奏曲は、個人的な経験や感情に基づくもの、「誰かに捧げる曲」のようなものも多いのですが、この日、対バンをしてくれたミュージシャンが「君の妹と、妹の旦那さんのための曲を聞いて、彼らには会ったことがないけれど、どんな人たちなのかわかったよ。」と言ってくれたのがとても嬉しかったです。

♪ 6月19日(金)モントリオール

18日に、ハミルトンからトロント経由でモントリオールまでバスで移動し、翌日はモントリオールで、スオニフェス関連のライヴが2つありました。

まず一つ目は、お昼の部、なんと病院の屋外で演奏です。スオニフェスが始まってからずっと、共同運営という形で続いている野外フェスに参加しました。音楽療法士としてこの病院に35年も勤めている、主催のブライアン氏は、実はフリージャズのサックス奏者。「全ての音楽は癒しだ。」と、この病院での野外フェスに、容赦なく(笑)前衛的なミュージシャンを出演させているのです。お医者さんや看護士さん、入院中の患者さんなどがお昼休みにふらっと外に出て来て、なんとなしに、めちゃくちゃなノイズサックスを聞く光景は、笑ってしまいそうでしたが、ブライアン曰く、「最初はみんな逃げ出した」とのことで、彼の『一般には浸透しにくい音楽』を『特段、音楽ファンではない、普通の病院関係者』に提供し、フェスティバルを継続させている努力に脱帽しました。どれだけ耳に痛いノイズをやっても、みなさん「ふーん、またブライアンが変なのを連れて来たのね」くらいに見てくれたのだと思います。

(YouTubeリンク)
JGH Jazz – 2015-06-19 – Nonoko Yoshida

そして夜の部は、いよいよスオニフェス本編です。スオニフェスは、隣接する3つの会場で様々なライヴが行われますが、私が出演したのは“Casa Del Popolo”という会場です。この建物は、カフェ、ライヴハウス、フェスの事務所、宿泊施設が揃っていて、私もこの日、ライヴハウスの上の階にあるお部屋に泊めてもらいました。(ライヴ終了後1分足らずで自分のお部屋に帰れるのはとっても便利!)このフェスティバルは、ボランティアの人がたくさんいて、ミュージシャンの移動の手助けや、会場で入場料を集めたり、物販を売るのを手伝ってくれたりするのです。「だって、とても面白いフェスだから。」と、ニコニコしながら様々なお仕事をこなすボランティアのみなさんには大変お世話になりました。

この日、この会場では、私と、シカゴ在住のフリージャズ・サックス奏者、ケン・ヴァンダーマーク氏のソロという、ダブルサックス・ソロライヴが行われました。ケン氏は、パワフルでテクニカルで、私の憧れのサックス奏者の一人なので、前座のような形で出演できたことは大変光栄でした。私がループステーションを使って、作曲されたハーモニーなどを演奏するソロアクトなのに対し、ケン氏はマイクすら使わない、完全アコースティックで、テナー、バリトンサックス、クラリネット、バスクラなどで即興演奏を。オーネット・コールマンや、ブラクストン、モハメド・アリなど、ケン氏の人生に影響を与えた人物たちをテーマにした即興は、とても美しく、エネルギーに溢れるもので、圧倒されました。これはもう、まともに戦って、敵う相手ではありません。演奏後にケン氏にご挨拶に行ったところ、「君は君らしい良いソロだった、僕のソロとは全く違って、良いコントラストになり、大成功のライヴだったと思う。」と言ってもらえました。私をカナダに呼んでくれた張本人のアレックスにも会うことができ、彼もとても喜んでくれたので安心しました。

次の日はオフだったため、昼はモントリオール市内を観光、夜は、たまたま同時期にモントリオールに来ていたNYの友人のコンテンポラリー・ダンスと、こちらもちょうどモントリオールにきていた昔のバンドメイトの現代クラシックのコンサート、そしてスオニフェスでは、ノルウェー出身のドラマー、ポール・ニルセン・ラヴの11人編成のラージ・ユニットと、3つイベントをはしごしました。(夏のモントリオールはイベントが盛りだくさんですね!)ラージ・ユニットのライヴは初めて見ましたが、作曲された部分と即興部分、グループでの演奏とソロ、様々な要素が絶妙なバランスで構成されており、なるほど、これは人気なはずだ!と思いました。

♪ 6月21日(日)オタワ

最終日はカナダの首都オタワにて演奏です。首都とはいえども、街自体は小さく、さらに政治経済関係の施設が多いようなので、日曜日はいろいろなものが閉まっていました。

会場は、“Black Squirrel Books & Tea” という、とても素敵なカフェ兼本屋さんです。本に囲まれて演奏できるなんて、大変贅沢なステージ・セットでした。地元の即興演奏ミュージシャン・グループの方々がオーガナイズしてくれて、彼らとのコラボレーションもあり、実に刺激的なライヴになりました。そのまま、その夜の夜行バス(長かった!)でNYまで戻り、初めてのソロ・ツアーは無事に終了しました。

今回のソロ・ツアーに終始同行してくれた、NYでの大親友、中塚まゆこちゃんに感謝します。本当にありがとう!どこの街でも、音楽に情熱を燃やして、面白いイベントを創っていこうとするアーティストや、シーンを支える人たちの暖かさに触れることができました。各地でお世話になった全ての方に深くお礼を申し上げます。素晴らしい経験をさせていただいて本当にどうもありがとうございました。もっと良いプレイヤーになってまたいつかカナダを訪れたいと思います!

吉田 野乃子

1987年生まれ。北海道岩見沢市出身。10歳からサックスを始め、高校時代、小樽在住のサックス奏者、奥野義典氏に師事。2006年夏、単身ニューヨークに渡る。NY市立大学音楽科卒業。ジョン・ゾーンとの出会いにより、前衛音楽の世界に惹かれる。マルチリードプレイヤー、ネッド・ローゼンバーグに師事。2009年、前衛ノイズジャズロックバンド"Pet Bottle Ningen(ペットボトル人間)"を結成し、Tzadikレーベルより2枚のアルバムをリリース。4度の日本ツアーを行う。2014年よりソロプロジェクトを始動。2015年10月、ソロアルバム『Lotus』をリリース。現在、活動拠点を北海道に移す。

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