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よしだののこのNY日誌No. 213

よしだののこのNY日誌 第6回

text and photos by 吉田野乃子 Nonoko Yoshida

段々と寒くなって参りました、みなさまお元気でしょうか?

今回のNY日誌では、私の音楽の師匠の1人でありますジョン・ゾーン氏の、最近のコンサート活動の一部についてレポートしたいと思います。

<World Premiere of John Zorn’s Bagatelles @ The Stone>

2014年7月から、“バガテルシリーズ”と称して、The Stoneにて、毎週日曜日の午後3時に新しいコンサートシリーズが始まりました。

Bagatelle(バガテル)とはクラシック音楽の用語で短い楽曲のことを言うようですが、ゾーン氏が2014年の3月から5月までに書いた300曲の短編楽曲集の名前だそうです。(これより前に書かれた500曲以上が収録されている楽曲集が、有名な“マサダ”ブックです。ジャズプレイヤーで言うところのスタンダードナンバーが収録された楽譜集、“リアルブック”や“フェイクブック”のようなものですね。)

マサダブックからの楽曲は、ゾーン氏自らサックスを吹いて参加しているジャズ色の強いカルテット『マサダ』での演奏が最も有名ですが、他にもエレキ楽器が参加した大人数編成の『エレクトリック ・マサダ』、ヴァイオリン、チェロ、ウッドベースによる『マサダ・ストリング・トリオ』、室内管弦楽団風の『バル・コクバ』、女声アカペラグループ『ミカレ』など、様々な編成のバンドで演奏され、アルバムも多数リリースされています。最近では、パット・メセニーが“マサダ”の曲を演奏するアルバムが話題になりましたよね。

ジョン・ゾーンのツァディックレーベルのページより
>> Pat Metheny – Tap: The Book of Angels vol. 20

バガテルもマサダブックと同様に、楽譜は至ってシンプル。ジャズスタンダードのスコアにも似て、数行のメロディー、たまにコードやその他即興の指示等が書かれたようなものです。なので、演奏するグループによって、様々なアレンジが可能なのです。

バガテルシリーズのコンサートでは、ゾーン氏の監修のもと、毎週、違ったグループが世界初公開の曲を演奏しています。観に行ったコンサートをいくつか紹介いたします。

■ 2015年8月23日(日)
THEATRE OF OPERATIONS
Shanir Blumenkranz (bass) Kenny Grohowski (drums) Brian Marsella (keyboards)

第4回目の私の『NY日誌』でご紹介しました、パーカッショニスト、シロ・バティスタ氏率いるBanquet of the Spiritsにも参加しているベーシスト、シャニーアと、キーボード奏者ブライアン、そして、元々はハードコアロックやメタルのシーンで大活躍しており、最近ゾーンファミリーのプロジェクトにもいろいろと参加しているケニーが、新たにトリオを組んでのライヴでした。3人の、ロック寄りのボキャブラリーをフィーチャーした、ディストーションをゴリゴリ効かせたヘヴィーなセット(もちろんバスドラはツインペダルです!)に、お客さんもノリノリでした。

しかし、歌うような美しい旋律も多く登場するマサダブックの楽曲とはひと味違って、バガテルは、atonal(無調性)の複雑なメロディーや、とんでもない数学的な変拍子も多く登場します。演奏する方は大変だろうなぁと思いながら聞いていました。 (変拍子ロックにノル方も大変ですが。)

全く同じメンバーではありませんが、ベースのシャニーアのAbraxasというバンドを参考音源としてご紹介いたします。キーボードのブライアンはいませんが、ドラムのケニーが在籍、エレキギターが2人、入っています。

>> Shanir Blumenkranz’ Abraxas at Aperitivo in Concerto – Teatro Manzoni, MI
この動画では、シャニーアはギンブリという楽器を弾いています。

■ 2015年8月30日(日)
TRIGGER
Will Greene (guitar) Simon Hanes (bass) Aaron Edgcomb (drums)

Triggerの三人は、私と同世代の20代。彼らは、前衛音楽教育にも力を入れている、ボストンのニューイングランド音楽院の出身で、この日は大学時代の友達もたくさん見にきているようで、同窓会のような雰囲気でした。こちらも、前の週のトリオと同様、ロック色の強いユニットでしたが、前週の中堅ミュージシャンの安定感のある迫力とは少し違うパワーとエネルギー、勢いを強く感じました。同世代のミュージシャンの活躍はとても嬉しいです。無名有名、年齢に関係なく、頑張っているミュージシャンにチャンスを与えてくれるゾーン師匠に感謝です。

Trigger のライヴ映像。少々古いものですが、ジョン・ゾーンの曲を演奏しているそうです。

>> TRIGGER @Deep Thoughts JP
(前半4分ほどまでがTrigger、その後は違うバンドの演奏です。)

■ 2015年9月20日(日)
MEPHISTO
Sylvie Courvoisier (piano) Ikue Mori (electronics) Jim Black (drums)

NY前衛音楽シーン、ゾーンファミリーでも重鎮的なピアニスト、シルヴィーさん、ラップトップエレクトロニクスのイクエさん、そして、いつもはスージー・イバラさんがドラムを担当している、MEPHISTAというトリオ。今回はドラムにジム・ブラック氏を迎え、MEPHISTOという名前でのライヴでした。

大注目は、普段はエレクトロニクスで不思議で素敵なサウンドを作り出していらっしゃるイクエさんが、このプロジェクトでは、五線譜に書かれたメロディーやベースラインも演奏されるところなのです。これには、長年イクエさんの演奏を聴いていらしたダウンタウンミュージックシーンのみなさんもびっくりで、ライヴに来ていた他のミュージシャンの方々も演奏終了後に「誰がベースラインを鳴らしているのかと思ったらイクエだったのね?!」と大絶賛のコメントを伝えていました。ジムさんの迫力満点のドラミング、うねるようなグルーヴに、シルヴィーさんの十八番、プリペアドピアノも絶妙なタイミングで繰り出され、大盛り上がりのライヴになりました。

>> Sylvie Courvoisier Solo – Schaffhauser Jazzfestival 2013

■ 2015年9月27日(日)
JON IRABAGON
Jon Irabagon (sax) Matt Mitchell (piano) Drew Gress (bass) Nasheet Waits (drums)

NYジャズシーンでも大活躍のサックス奏者、ジョン・イラバゴン氏のカルテットも、バガテルを演奏してくれました。ゾーン氏は、それぞれのグループの一番得意とするスタイルでの演奏を求めているため、このグループは<テーマ、ソロ回し、後テーマ>というようなオーソドックスなジャズのスタイルを基本に各楽曲を演奏。イラバゴン氏の、ソロにおけるテクニックとフレーズの“歌い方”は圧巻でした。最後には、その週の夜にストーン・レジデンシーを行っていた、トランペットのピーター・エヴァンス氏がゲスト参加しての、スピード感溢れるパフォーマンスで締めくくられました。

今後もバガテルシリーズのコンサートはつづきます。様々なシーンのミュージシャンが登場しますので、 日曜日の午後3時にはぜひストーンにお越し下さい!

さて、私事ですが、前回お知らせさせていただいたサックスソロアルバム『Lotus』が完成いたしました。自主販売をしておりますので、ご購入ご希望の方は下記の販売用メールアドレスまでご連絡をいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします!

>> Nonoko Yoshida – Sax Solo Album “Lotus” (アルバムサンプル動画)

吉田 野乃子

1987年生まれ。北海道岩見沢市出身。10歳からサックスを始め、高校時代、小樽在住のサックス奏者、奥野義典氏に師事。2006年夏、単身ニューヨークに渡る。NY市立大学音楽科卒業。ジョン・ゾーンとの出会いにより、前衛音楽の世界に惹かれる。マルチリードプレイヤー、ネッド・ローゼンバーグに師事。2009年、前衛ノイズジャズロックバンド"Pet Bottle Ningen(ペットボトル人間)"を結成し、Tzadikレーベルより2枚のアルバムをリリース。4度の日本ツアーを行う。2014年よりソロプロジェクトを始動。2015年10月、ソロアルバム『Lotus』をリリース。現在、活動拠点を北海道に移す。

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