トゥーツ・シールマンス @ベルリンジャズ祭2004
Text & photo by Kazue Yokoi 横井一江
2004年のベルリン・ジャズ祭は、40周年を記念して久々にフィルハーモニーを会場に初日の幕を開けた。飛行機の到着時間の関係で、会場に到着した時は既にリシャール・ガリアーノとミッシェル・ポルタルとのデュオの演奏が始まっていた。この日、ガリアーノはもうひとつのプロジェクト、ニューヨーク・トリオでも出演。そのゲストがトゥーツ・シールマンスだった。
シールマンスが登場し、ハーモニカを吹き始めるとフィルハーモニーの空気がやわらいだ。楽しみながらも音楽をきちっと受け止める雰囲気から、肩の力を抜いてサウンドに身を委ねる心地よさに。ちらりと見せるバップ・フィーリング、スウィートな映画音楽やポップスでも、決してセンチメンタリズムに陥ることなく、馥郁たるロマンチシズムを薫らせる。色彩感溢れ、どこまでも情感豊かに聴かせる息のあった名コンビぶりからは、とても2度目の共演とは思えない。ミュージシャンシップの高さがなせる業である。当時82歳とは思えないシールマンスの演奏は観客を魅了したのだった。
演奏の合間にシールマンスがベルリン・ジャズ祭にまつわる思い出として語ったのは、ジャコ・パストリアスのことである。後に一緒にツアー、録音した彼とは、1979年のベルリン・ジャズ祭で知り合ったのだという。そして、さらっとジャコのフレージングをなぞるという心憎さ。フェスティヴァルはミュージシャン同士が知り合うよい機会だが、この二人がここで出会ったとは。資料を調べたところ、その年はシールマンスが自身のカルテット、ジャコがソロで出演していた。ジャコの『ワード・オブ・マウス』にはシールマンスが参加していたこと思い出し、帰国してからLPを引っ張り出したことが記憶に残っている。
温かで、時に胸の奥をキュッとさせるサウンドがなつかしい。ウィットとユーモアが音から溢れる希有の才能は天がもたらしたものなのだろう。彼はジャンゴラインハルトの時代からジャズを知る生き証人でもあった。どうか安らかに。
トゥーツ・シールマンス、Toots Thielmans、ジャコ・パストリアス