#01 『Sun Ra Arkestra / Swirling』
『サン・ラ・アーケストラ/渦を巻く』
text by 剛田武 Takeshi Goda
2021年サン・ラ神話拡散計画進行中。
2020年はマーシャル・アレン率いるサン・ラ・アーケストラが21年ぶりにリリースしたスタジオ録音盤『Swirling(渦を巻く)』がNew York TimesのBest Jazz Albums of 2020に若手に交じってランクインする一方で、『A Fireside Chat With Lucifer』、『Celestial Love』、『Heliocentric Worlds 1 & 2 Revisited』、『Egypt 1971』と、知りうる限りで4作のサン・ラ存命時代の過去音源の再発やコンピレーションがリリースされ、『クトゥルフ神話』や『スター・ウォーズ』や『グイン・サーガ』の異端音楽版とも呼べる、壮大なるSun Ra Mythology(サン・ラ神話)が着実に語り継がれていることが証明された。
#2038 『Sun Ra Arkestra / Swirling』『サン・ラ・アーケストラ/渦を巻く』
そして2021年サン・ラ伝道活動の皮きりとしてサン・ラ主演映画『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』の日本公開が決定している。1974年に制作されたこの映画は、当時のブラックパワーの高まりと、サイケデリック~ヒッピー幻想末期のユートピア思想、アポロ計画の余波でのSF志向を反映しつつ、サン・ラ独自の宇宙論とそれに裏付けされたコスモポリタン音楽志向に貫かれたスラップスティック・ミュージカル映画になっている。全く笑わず真顔で演ずるサン・ラの佇まいは、アーケストラのメンバーに日常的に教えを垂れる姿と同じ自然体に違いない。サン・ラの脚本による「多重性制御」「同位体瞬間移動」「トランス分子化」「周波数分極」といった専門用語は、空想癖が生んだ戯言とは次元が違う科学的根拠に基づいている。一方でサン・ラに対抗する漫画そのものの悪役をはじめ、他の出演者のずっこけぶりを、流行を追うだけの商業音楽業界へのアイロニーと捉えたら深読み過ぎだろうか。やはり特撮ヒーローやマカロニウェスタンを観るように、勧善懲悪のエンターテインメントとして楽しむのが正しいかもしれない。ニヤニヤ笑っているだけでサン・ラ神話の世界に親しめる知育映画ともいえる。メジャーな映画じゃないからこそ感染力の高い独立系映画館のクラスターから、異端音楽の経典が世界中に拡散されればいい。コロナではなくサン・ラ・ウィルスなら大歓迎だ。(2020年12月23日記)
『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』
2021/1/29 より、アップリンク吉祥寺・新宿シネマカリテほか順次公開
http://sunra.jp/