ありがとうございました、悠さん! コントリビュータ 竹村洋子
text and photo by Yoko Takemura , 竹村洋子
全く畑違いのただのジャズ好きの私が、稲岡編集長に誘われてJazz Tokyoに投稿者としての参加を決心したのも、悠さんが主幹でいらしたから、と言っても過言ではない。悠さんとのお付き合いは2006年からなので、この業界にいらっしゃる方々と比べると長くはない。
Jazz Tokyoに参加するまで、私はジャズ批評なるものにほとんど無関心だったのだが、悠さんの本だけは面白くて、ほとんど読んでいた。理屈ではなく、ご自身がアメリカで体験された実践に基づいて書かれた内容がとてもリアリティがあり興味深く読んだ。今でも本棚にあり、時々読み返したりしている。
そんなこともあって、私も一人でカンザスシティへ通い出したのかもしれない、と今になって思う。
私のカンザスシティ通いに関しても、いつも面白がって下さった。河出書房ムック『チャーリー・パーカー』に寄稿したコラムについて「これまでKCに格別の情熱を注いできた竹村さんならではの内容で、あなた以外には書けないリポートや労作で、感心しました。あなたが書いたパートが僕には一番面白かった。知らないことだらけでした。」という旨のメールを頂いた。他の寄稿者の方々は皆プロ中のプロ。女性ライターは素人の私のみという構成の本だった。悠さんのメールは私にとって大きな励みになった。
そのチャーリー・パーカーについて、カンザスシティで仲良くなったミズーリ大学カンザスシティ校のディレクターで歴史家、詩人でもあるチャック・へディックス氏が評伝を出版した。日本語版は川嶋文丸氏の翻訳で、『バード:チャーリー・パーカーの人生と音楽』として出版された。日本語版のレビューを悠さんはJazz Tokyoに以下のようなことを書いて下さった。「この新刊書の冒頭で思いがけなくも友人の名前を発見して嬉しくなった。『バード チャーリー・パーカーの人生と音楽』に続いて全7章の目次があり、第1章に入る前に著者自身による序文がある。(中略)著者による謝辞。たった1ページだが、何となく気になった。著者が本書を書くにあたってお礼を申し述べたいと断り書きをした中に、この伝記をあらわすにあたり、このプロジェクトとカンザスシティ・ジャズを熱心に支援してくれた人として竹村洋子の名を載せていたのだ。著者チャック・ヘディックスが僕らのジャズ仲間である友人、竹村洋子の名を掲げてくれたことに格別に嬉しい思いを味わうことになった。」これは本当に嬉しかった。この業界の大先輩である悠さんに『僕らのジャズ仲間である友人』と公の場で認めて下さったことが私には大きな驚きと喜びだった。
悠さんに初めてお会いして以来、何度かライブやコンサートにもご一緒させて頂いた。悠さんは、いつも30分前には待ち合わせ場所についていらっしゃる、という稲岡編集長からのアドバイスで、待ち合わせ時間30分前に間に合うようにダッシュして行き、どちらが先に待ち合わせ場所に着いていたか、と編集長に報告したりした事もあった。
稲岡編集長から悠さんの訃報を受け取ったのが10月17日。その日、私はなぜか偶然、悠さんのことを考えていた。3年前の10月16日に池袋芸術劇場のコンサートにご一緒したことを、つい昨日のことのように思い出していたのである。11月1日はお誕生日...などと思いを巡らしていたのだ。
悠さんの偉業についてはここでは省かせて頂く。
悠さんは事あるごとに私を励まし、引っ張り上げて下さった。この励ましが私の大きなモチベーションとパワーになったことは間違いない。
個人的な話ばかりで恐縮だが、私が大病を患い闘病中も、ご自身が癌を克服されたこともあり、励ましのメールを頻繁に下さった。私の知る悠さんは、とても思いやりのある紳士だった。
私だけではなく、多くの方々が色々な形で悠さんに励まされたことと思う。
そして、悠さんはお洒落だった。冬場になると、よくお気に入りのクリーム色や白のタートルネックのセーターを着ていらして、綺麗な白髪によくお似合いだった。その姿が私の悠さん像として、鮮明に残っている。
最後に、3年前の2020年10月16日の写真をアップして追悼としたい。この写真はフェイスブックにも投稿した。この時、お召し物が素敵だったので、「写真を撮りましょうよ!」と私が申し出たところ「えっ?!」と照れ臭そうに「じゃ、マスク外すね。」と、満更でもなさそうでいらした。
これがお元気でお会いした最後の姿だった。
今はただ、感謝の気持ちでいっぱいである。
『Jazz A La Mode番外編』
悠さん、昨夜もお洒落で素敵でした!ダークブルーのブレザー・ジャケットの下にはクリーム色のシャツ。グレンチェックのパンツをコーディネート。ニット帽も素敵です!『山下洋輔 meets ベートーヴェン』@池袋芸術劇場
謹んでご冥福をお祈り致します。合掌