#01 『グランギニョル / Gran Guignol』 剛田 武
text by 剛田武 Takeshi Goda
CD:2024 SUEZAN STUDIO SSZ4004 / Original Release LP: Pinakotheca (PRL#9) 1982
グランギニョル:四方葦人:Vo.、角田大龍 (角享介):Key.、戸塚弘道:G.、望月隆志:B.、小松博吉:Dr.、長嶌宏:Sax
- バクテリア・マーチ / Bacteria March
- スパイラル・ナイト / Spiral Night
- エドワルダ / Edwarda
- シノ / Sino
- チック / Tic
- ダンス / Dance
- ラスト・キャナリィ / Rust Canary
- ベビー・フェイス / Baby Face
Recorded, Mixed and Mastered at Purusha Studio 1981
昭和の暗黒とバブルの熱狂の狭間に咲いた異形のロック今再び
1977年に東京造形大学の学生を中心に音楽・映像・照明・衣装・チラシのデザインや声明文まで包括したアート集団として結成され、音楽イベントのみならず、地下演劇や暗黒舞踏の場を舞台に白塗り姿でドグラマグラな猟奇的パフォーマンスを繰り広げた異形のロックバンド「グランギニョル」。筆者はそのステージを体験したことはないが、幸運(それとも不運?)にも目撃できた者に、異端・悪趣味・非日常のサブリミナルで一生涯消えることのないトラウマを植え付けたと噂されている。
バンド名は、19世紀末~20世紀初頭のフランスはパリの夜の歓楽街ピガールに存在したグラン・ギニョル劇場(Le Théâtre du Grand-Guignol)に由来する。そこでは夜な夜な、狂気・恐怖・残酷・猥褻・混沌をテーマにした大衆芝居や見世物が披露され、退廃的なパリジャン&パリジェンヌの間で人気を博した。フランス語で「グラン・ギニョル」とは大きな指人形という意味だが、その劇場の名前から猟奇・残酷劇やそのようなセンスを指す言葉になった。日本でも演劇や小説や映画のタイトルやキャラクター名で使われたり、音楽界にも類似した名前のバンドが複数存在する。しかし、筆者の知る限りでは日本のロックバンドで「グランギニョル」を名乗ったのはこのバンドが最初だと思う。
本作は彼らの活動末期の1982年にピナコテカレコードからリリースされた唯一のリリース作品。エログロ嗜好を天使マークのオブラードに封印し、流行りのニューウェイヴに擬態したサウンドを聴かせ、往年のファンに「本当のグランギニョルではない」といった戸惑いと失望で迎えられたという。活動初期に色濃かった観念的なアートや演劇の要素が、年を経るにつれて音楽中心に変わり、機械的なテクノサウンドに至る流れは、演劇音楽の制作から始まったヒカシューやプログレ・バンドから転身したP-Modelに似ているが、その背景には第一次オイル・ショックの不況からバブル景気へ至る途中の70年代末~80年代の社会的風潮の変化があるに違いない。
リリースから42年経ち、不死鳥(それともゾンビ?)のように復活した問題作を今の耳で聴くと、表面的なポップさと軽快な録音の裏に漂う不気味な歌詞や不穏な楽器の音色に、昭和の日本の陰鬱とした空気を濃厚に感じる。当時の日本の地下音楽を象徴する自主レーベル「ピナコテカ」がハンドメイドで制作した、ゴールドインク印刷ジャケット+プリント付きビニールカバーの特殊パッケージが再現されているのも嬉しい。
年月をかけて発酵・醸造された猟奇的アングラ嗜好が、封印された暗い欲望を攪乱・拡散・覚醒する歓びに浸る。(2024年12月19日記)
地下音楽、new wave、ピナコテカ、プログレッシヴロック、アングラ、underground rock、暗黒舞踏、Pinakotheca