#10 『Alexander Hawkins – Sofia Jernberg / MUSHO』 横井一江
Intakt CD 420
Sofia Jernberg: Voice
Alexander Hawkins: Piano
1 Adwa (trad. Ethiopian, after Ejigayehu Shibabaw)
2 Mannelig (trad. Swedish, after Lena Willenmark)
3 Gigi’s Lament (trad. Ethiopian, after Ejigayehu Shibabaw)
4 Groung trad. Armenian, after Zabelle Panosian)
5 Y’shebellu (Aster Awake)
6 Correct Behaviour (Sofia Jernberg)
7 Willow, Willow (trad. English, after Katheleen Ferrier)
8 Muziqawi Silt (Girma Bèyènè)
Arrangements by Sofia Jernberg and Alexander Hawkins, except “Correct Behaviour” by Sofia Jernberg.
Recorded on September 26, 2023, at Atlantis Studios, Stockholm, SE, by Niclas Lindström
Mixed and mastered in December 2023 in London by Alex Bonney
Produced by Sofia Jernberg – Alexander Hawkins and Intakt Records
Published by Intakt Records
エジプトで生まれ、スウェーデンで育った歌手ソフィア・イェルンベリを知ったのは2013年、西麻布にあったスーパーデラックスでの SOFA Night だった。SOFA は即興音楽をリリースしているノルウェーのレコード・レーベルで、その前年も同タイトルのイベントを行なっている。イェルンベリのソロ・パフォーマンスでは、会場に響く声、その場にいる聴衆を引き込む表現力に圧倒された。さまざまな唱法を駆使し、声を器楽的に扱って構築された世界は、いにしえの大地をも想起させるランドスケープのようでさえあり、強い印象が残る。このようなヴォイス・パフォーマーと出会ったのはサインホ・ナムチュラク以来だ。それから十年余り、彼女は現代曲からマッツ・グスタフソンの「ファイアー!オーケストラ」まで歌手として、また作曲家として多彩な活動を続けてきた。共演者には ピーター・エヴァンス、エヴ・リセール Eve Risser、キム・ミール Kim Myhr、ハイナー・ゲッペルスなどがいる。
本作はロンドンの即興音楽シーンで注目されているピアニスト、アレクサンダー・ホーキンスとのデュオによる作品。ホーキンスはエチオ・ジャズのレジェンド、ムラトゥ・アスタトゥケのバンドでも10年以上に亘って演奏しており、昨年共に来日した。他方、イェルンベリはハイル・メルギアとの共演経験を持つなど、両者ともエチオ・ジャズにも繋がりがある。タイトルの Musho はアムハラ語(エジプトの事実上の公用語)で哀歌を意味する。ここで取り上げられている曲はエチオピア、スウェーデン、アルメニア、エリザベス朝イングランドのトラディショナルに加え、エチオピアの歌手アスター・アワク、そして自身の作品。美しく透明感があって柔らかく響く声、メリスマや伝統的な唱法、特殊唱法も交え、その歌世界を拡張した声による表現を融合させる。哀調を孕んだ声は耳を捉え、歌の世界に引き込む。ホーキンスのピアノは抑制的でありながらも時にドラマチックで、内部奏法も用いる場面も含め、イェルンベリの歌世界を引き立たせている。
ソフィア・イェルンベリ、Sofia Jernberg、Alexander Hawkins、アレクサンダー・ホーキンス