「ありがとうな、ありがとうな」by 立石太郎
「ありがとうな!」が口癖の人だった
杉田さんが昨年亡くなっていたと知り、ただただ驚いている。そして本当に悲しい。
杉田さんと長年濃厚な付き合いをされたミュージシャン、出版関係者等は沢山おられると思うし、その中には激しくぶつかった方もいらっしゃるだろう。
以前からそのような話も時々聞いていた。
だが、僕自身は杉田さんとはものすごく楽しく付き合わせて頂いたという思いしかない。
杉田さんと知り合ったきっかけだが、 記憶力には滅法自信のある僕が何故かどうしても思い出せない。
横浜近辺で様々なイベントを仕掛けていたMさんの紹介だった気もするし、たまたま白楽に来た際に杉田さんの経営するライブバー「ビッチェズブリュー」を見つけ入ったのかもしれない。
とにもかくにも杉田さんとの付き合いが始まり、特に2010年近辺の数年間は、二人で頻繁に会い、猛烈な量の話をした。
僕が近藤等則や阿部薫、高木元輝等の「評論家間章とその周辺の音楽」が大好きなこともあり、杉田さんと彼らとのエピソードを根掘り葉掘り聞いた。
彼等と行動を共にしていた杉田さんでしか知りえない話の洪水で面白過ぎた。
それにしてもビッチェズブリュー店内にさりげなく飾られた間、阿部、近藤等とのポートレートでの若き杉田さんのお洒落さ、カッコ良さには参った。
ちなみに杉田さんから言わせると「お金持ちの坊っちゃんでなかなか良い奴」だった間章の文章に関しては「やさしく語れることを小難しく長々と語っているが、中身は薄い」と少々辛辣であったが、同意。ただ間の行動力に関してはとても評価しており、そちらも同意。
杉田さんの写真に関して言えばオーネットコールマンやアンソニーブラクストンら「伝説」を撮った時の数々のエピソードも聞かせて頂いた。
僕に様々な話をする時の杉田さんはとにかく上機嫌。とっても嬉しそうで、そんな時に時々「しかし君は本当に楽しそうに話を聞いてくれるし、どんどん熱い質問をしてくるので話のしがいがあるよ」と言って頂いた。
でも、その言葉は僕は杉田さんにもそっくりそのまま返したい。
杉田さんの方が、比べ物にならぬほどの経験と歴史の証人なのに、僕の話もいつもすごく楽しそうに聞き、どんどん熱い質問をしてくれた。とにかく僕の話を聞きたがった。
特に僕が杉田さんに紹介した音楽に関しては、自分の感想も熱く語り、ピンときたものがあるとすぐにそれを「実際に買って」手に入れており、驚かされた。
音楽や本を紹介したその場では良い感想を言ったり褒めたりするものの、それをすぐに実際に買う人はほとんどいないので、杉田さんのその行動力に関してもとても嬉しかった。
杉田さんの訃報を知り、以下の四枚を繰り返し聞いている
坂田明&ちかもらち『ちかもらち空を飛ぶ!』2011年。
「ビッチェズブリュー」での坂田明7日間連続ライブ(同じミュージシャンで連続プログラムを組む杉田さんの確固たる思いについてはミュージシャンのどなたかが書いて頂けると思う) 終了後に坂田さんにサインを頂いたもの。2012年4月19日の坂田さん署名入り。 杉田さんが一緒だからか 坂田さんからも思いがけない話も伺えたし、坂田さんが帰られた後に杉田さんと2人で話した内容がとても印象深い。
ジョンハッセル『パワースポット』86年。
超個性派トランペッター、ジョンハッセルのECMからのアルバム。ブライアンイーノ&ダニエルラノア制作。
「君のオススメ音楽をかけるイベントをビッチェズでやろう」という杉田さん発案の会でかけたものだが、杉田さん猛烈に反応し、即ネットで購入されていた。
ルーリード、ジョンゾーン、ローリーアンダーソン『ストーンベネフィットライブ』2008年。
ふたりでのお喋り時に「ビッチェズ」でかけたら、杉田さん大興奮!!既に品薄だったが苦労してすぐに手に入れ、jazztokyoの自分のコラムでも紹介されていた。
菊地雅章トリオ『サンライズ』2012年。
杉田さんはプーさんこと菊地雅章がとにかく大好きだったのだと思う。杉田さんからプーさんの話は本当に良く聞いた。
ちなみに僕もプーさんはダントツで世界一好きなピアニスト。
このアルバムについては 発表されるだいぶ前から 「長年紆余曲折あったけど、いよいよECMからプーさんのアルバムが出る」ということで杉田さんが心待ちにし、サンプルが届き即座に杉田さんと二人で何度も何度も聞いた。
最後に、杉田さんと言えばやはり「ありがとうな」という口癖を思い出す。
僕が会いに行ったり話をしたりすると杉田さんはいつも「ありがとうな!」を連発していた。
その中でも特によく覚えているのが都心でエルメートパスコアルを見て猛烈に感激!杉田さんにその感動を伝えたくなり、夜遅くビッチェズを閉める直前の杉田さんに会いに行った時のこと
「ありがとうな!興奮をワクワクしながら伝えに来てくれて本当に嬉しいよ!ありがとうな!ありがとうな!
今のエルメートがまたとっても面白くなってるっていうのすごく伝わったよ。とにかくありがとうな!」
杉田さんと僕は音楽に対する姿勢など似た部分が多くあったし、波長が合ったのだと思う。
そんな僕に対しては 杉田さんは素直に素朴に肩肘張らずに付き合えたのではないかと思う
僕自身も杉田さんに対しては 何も遠慮しなかったしとっても素直に付き合えた。
杉田さんありがとうございました。心からご冥福をお祈りいたします。
立石太郎 Taro Tateishi
ジョン・ゾーンを追っかけまくり、近藤等則に怒鳴られつつ今日に至る。たーさま 名義で仲間と以前立ち上げた雑誌「Overground」では前衛芸術中心に紹介。副島輝人氏に紹介された庄田次郎氏との再会をきっかけに久々に演奏も再開。最も聞いたアルバムは、キング・クリムゾン『ディシプリン』じゃがたら『ニセ予言者ども』。最も好きなミュージシャンは、ブライアン・イーノと林栄一。