#1288 『マティアス・リンデルマイヤー/LANG TANG』
text by Kiyoshi Tsunami 都並清史
Matthias Lindermayr (tp)
Roberto Di Gioia (p)
Azhar Kamal (g)
Andreas Kurz (b: 1 to 6, 10, 11)
Maximilian Hirning (b: 9)
Andreas Haberl (ds)
1 Prolog*
2 Lang Tang*
3 Rendezvous*
4 Tago Mago*
5 Hunter (Björk )
6 Hymn*
7 Invicible*
8 You And Whose Army (Radiohead)
9 Die Neue Ehrlichkeit*
10 Limit To Your Love (Feist)
11 Troya*
*Composed by Matthias Lindermayr
Recorded by Azhar Kamal & Jan Krause at Big Bong Studios & Mastermix Studios, Munich, June – September 2014.
Mixed by Mario Thaler
Mastered by Guido Hieronymus
Producer :Azhar Kamal & Matthias Lindermayr
マティアス・リンデルマイヤーはドイツの若手トランペット奏者。いろいろ検索してみたのだが、日本語はおろか英文資料も見当たらない。ドイツ語の変換ソフトと格闘していたら深みにはまってしまったが、発見もあって楽しい時間を過ごせました。なんとなく彼のプロフィールもわかったのでご紹介します。ご専門の方、どうか誤りはご指摘下さいませ。
マティアス・リンデルマイヤーは1987年ミュンヘン生まれ。幼少時にクラシック・ピアノを学び、ティーン・エイジにはエレキギターでロックバンドにのめり込んだ。その後、ミュンヘンのHochschule für Musik und Theater München(ミュンヘン音楽演劇大学:ドイツの国立音楽大学で、音楽、バレエ、演劇、諸々の監督、メイキャップ等の学校)でClaus Reichstaller(ドイツのトランペット奏者、教育者。youtubeに演奏がアップされています。なかなか巧い人です)にジャズ・トランペットを学び、2012年にBiberacher Jazzpreis、2013年にはKurt Maas Jazz Award を獲得した。これらはともにドイツの音楽賞で、特に後者に冠されたKurt Maasはドイツのジャズ・アコーディオン奏者、教育者。バークレー音楽院に留学し音楽教育の必要性を痛感、帰国後はバークレー音楽院と連携してHochschule für Musik und Theaterの前身となる音楽学校の創始者となった。このKurt Maas Jazz Award の賞品が5週間のバークレー音楽大学留学だったようで、 マティアス は2013年夏にタイガー大越教授と出会うこととなる。
youtubeや画像を検索してみると楽器はノー・ラッカーで、ベル・チューニングになっていて分解可能な点や、マウスパイプの意匠、ベル後部の小さなヒレなどから、ロイ・ハーグローブ、ティル・ブレナーもそのフリューゲルホーンを愛用するスイスのトーマス・インダービネンのように見えるが、ウォーター・キーはマーティン・タイプなのがインダービネンでは珍しい。マウスピースはバック・タイプの深めのカップか。
この人、なにしろ中低音が美しい。楽器とマウスピースの選択からも、彼の中低域志向は窺う事ができる。この『LANG TANG』以外のアルバムではビョークのカバーも披露していて、彼の音楽的素養を垣間みる事ができるが、本作ではパキスタン出身のギタリスト、アザール・カマル、ピアニスト、ロベルト・ディ・ジオラらが醸成する不可思議なムードにのって、徹底して中低音で迫ってくる。
変拍子が自然に流れ、ダークで柔らかく丸みのある中低音でシンプルなフレイズを繰り返し、決して熱くはならずしだいに音楽の高みに登っていく。その螺旋状のバンドの動きが知的かつ内省的、静かな情念を感じさせ極めてチャーミングだ。音楽は一瞬クリスチャン・スコットを思わせたりするが、そこはアメリカとドイツの違いで、クリスチャンはやっぱり熱いラッパ吹きで、ハイノートをねじり込むように吹くのに対し、このマティアス・リンデルマイヤーはあくまでマイペースに自分の美意識のみを信じていく感じがとっても良い。「ドイツ」というと勤勉・きまじめと紋切型が出そうだが、けっして理屈っぽくも頭でっかちでもなく、どこか新しい時代のトランペット奏者だなと感じた。マイルス、フレディ、ウィントンとは相当違う所に立っていると思うし、まっすぐで性格の良いラッパという感じで好きになりました。でも、レコード会社の解説にあった「ポスト・ティル・ブレナー」ってのはちょっと違うな。(都並清史)
No.216