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CD/DVD DisksNo. 226

#1377 『Emmet Cohen Featuring Jimmy Cobb / Masters Legacy Series Volume 1』

text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

Cellar Live Records CL031616

Emmet Cohen (p)
Jimmy Cobb (ds)
中村 恭士 (b)
Godwin Louis (as:5,6)

  1. On The Trail
  2. Tin Tin Deo
  3. Two Bass Hit
  4. When I Fall In Love
  5. Folk Song
  6. Interlude
  7. Flamingo
  8. If This Isn’t Love
  9. Mr. Robinson
  10. Hard Times
  11. Concerto For Cobb

Recorded by Jimmy Katz at the DiMenna Center For Classical Music, NYC on March 16, 2016.

Produced by Emmet Cohen & Cory Weeds


2011年に、弱冠21歳で『In the Ellement』でデビューを飾ったエメット・コーエンは、セカンド・アルバムではブライアン・リンチ(tp)とのコラボ作『Questioned Answer』(2013)をリリースし、着実に成長を遂げてきた。そして満を持して着手したニュー・プロジェクトが、1950年代から活躍するジャズ・レジェンドをフィーチャーする、Master Legacy Seriesだ。その第1作には、マイルス・デイヴィス(tp)のジャズ史に燦然と輝く金字塔『Kind of Blue』の唯一の生存者で、ウェス・モンゴメリー(g)、キャノンボール・アダレイ(as)、ウィントン・ケリー(p)、サラ・ヴォーン(vo)らの数々の名作に、その名を連ねてきたジミー・コブ(ds)だ。コーエンは、ニュースクール大のプライヴェート・レッスンで、コブと初めて出会ってから、共演を重ね音楽を共有することから、音源や書物では学べないジャズの伝統と歴史を学んだと語る。本作は、オーディエンスと一体になった最高のインタープレイの瞬間を捉えるために、あえてライヴ・コンサート・シチュエーションを選んで録音された。共演者には、今やニューヨークでも若手のファースト・コール・ベーシストの中村恭士と2曲グッドウィン・ルイス(as)が、参加している。

アルバムのセット・リストは、コブの華々しいキャリアを辿るように構成されている。オープニングの”On The Trail”は、ウィントン・ケリーとの共演曲だ。コーエンがケリーを彷彿させるような軽快なタッチを聴かせる。”Flamingo”は、コブが50年代にデビューしたバンドのリーダーだったR&Bサックス・プレイヤーのアール・ボスティックのレパートリー。ボスティックはジョン・コルトレーン(ts,ss)にも大きな影響を与えたことで知られ、この曲はマイルスの”Someday My Prince will Come”を思わせるワルツのベースラインと、シンバル・レガートで始まる。”Two Bass Hit”は、コブがマイルス・デイヴィスとニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでプレイした一曲。”When I Fall In Love”もコブ在籍時代のマイルス・クインテットの定番バラードだ。アルバムの中間点では、マイルスの”So What”のコードを借用した小品”Interlude”で、コブの衰えないスウィング・ビートを聴かせる。ファンキーなサウンドで一世を風靡したキャノンボール・アダレイとは、”If This Isn’t Love”をコブは共演した。ゴスペル・タッチの”Hard Times”は、コブがデヴィッド・”ファットヘッド”・ニューマン(ts)とのアルバムに残っている。ここでは、グッドウィン・ルイスがニューマンばりのアーシーなサウンドを聴かせた。コーエンは、3曲のオリジナル曲を、本作に書き下ろしている。中村のスピリチュアルなベース・ソロがイントロを執りボサノヴァ・リズムに至る”Folk Song”、アフリカ系のメジャー・リーガー、ジャッキー・ロビンソンに捧げた”Mr. Robinson”は、メロウなバラードからミディアム・スウィングへと変貌するコブのリズムがしなやかだ。エンディングはコブに敬意を表した”Concerto For Cobb”が飾る。ジミー・コブが偉大なる先達から受け取ったジャズの伝統の松明が、コーエン、中村、ルイスへと手渡された瞬間が克明に記録されたドキュメントとも言える作品である。

1月19日のジャズ・アット・リンカーン・センターのジャズ・クラブ、ディジース・クラブ・コカコーラにおけるリリース・ギグでは、中村に変わりラッセル・ホール(b)が参加した。翌日の1月20日には88歳を迎えるとは思えない、コブの矍鑠たるスウィングは、孫ほどに歳の離れたコーエンたちをジャズの王道へ導くように響いた。エメット・コーエンは次作ではジミー・ヒース(ts)、そしてバリー・ハリス(p)とのデュオ・ピアノ作も企画しているそうである。モダン・ジャズのトラディションは、21世紀にも脈々と受け継がれている。

関連リンク : Emmet Cohen Website  http://emmetcohen.com/

 

 

 

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。2017年4月、29年のニューヨーク生活を終えて帰国。翌年2010年以降の目撃してきたニューヨーク・ジャズ・シーンの変遷をまとめた『New York Jazz Update』(小学館、2018)を上梓。現在横浜在住。デトロイト・ジャズ・フェスティヴァルと日本のジャズ・フェスティヴァルの交流プロジェクトに携わり、オフィシャル・フォトグラファーとして毎年8月下旬から9月初旬にかけて渡米し、最新のアメリカのジャズ・シーンを引き続き追っている。Official Website : https://tokiwaphoto.com/

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