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CD/DVD DisksNo. 227

#1383『Yotam Silberstein / The Village』

text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

jazz&people JPCD813007

Yotam Silberstein (g)
Aaron Goldberg (p)
Reuben Rogers (b)
Greg Hutchinson

  1. Parabens
  2. Milonga Gris
  3. Nocturno
  4. The Village
  5. Stav
  6. Fuzz
  7. Albayzin
  8. Changes
  9. O Vôo da mosca
  10. October
  11. Lennie Bird

Recorded by Michael Brorby at Acoustic Recording, Brooklyn NY on January 10th, 2015.

Produced by Yotam Silberstein


 

1990年代から活躍する、アナット・コーエン(ts,ss,cl)、オメール・アヴィタル(b)、イーライ・ディギブリ(ts)らイスラエル出身のアーティストは、今やニューヨーク・ジャズ・シーンの重要な一翼を担う存在となった。2005年にニュースクール大の全額奨学金を獲得してニューヨークにやってきた当時21歳のヨタム・シルバーステイン(g)は、彼らに続く新たな世代のイスラエル出身のアーティストだ。ニュースクール大在学中から注目を集め、ジェイムス・ムーディ(ts,fl,vo)に抜擢されて、その晩年に行動を共にした。ヒース・ブラザース、フランク・ウェス(ts,fl)、パキート・デリヴェラ(as,cl)、モンティ・アレキサンダー(p)らジャズ・レジェンドから、ロイ・ハーグローヴ(tp)、ジョン・パティトゥッチ(b)、ディジー・ガレスピー・アルムナイ・オールスターズにも起用され評価を高める。ヨタム・シルバーステインは、ラーゲ・ルンド(g)、カミーラ・メザ(g,vo)、同郷のギラッド・ヘクセルマン(g)、ニール・フィルダー(g)らとならんで注目される、ジャズ・ギターのニュー・ウェイブの一人である。5枚めのリーダー作である『The Village』は、長年共演しているアーロン・ゴルドバーグ(p)、リューベン・ロジャース(b)、グレッグ・ハッチンソン(ds)を招集。奇しくもジョシュア・レッドマン(ts,ss) ・クァルテットのリズム・セクションの3人だが、ジャズ、ブルースから、ブラジリアン、中近東音楽、フラメンコ、アルゼンチン、ウルグアイの音楽がブレンドされながら、ケニー・バレル(g)、ウェス・モンゴメリー(g)、グランド・グリーン(g)らに連なるジャズ・ギターのトラディションの王道を往き、レニー・トリスターノ(p)の音楽理論を踏襲したアルバムである。

アルバムは、北部ブラジルのリズム、バイアンに乗ったブルース”Parabens”で、オープニングを飾る。シルバーステインが2年前の誕生日に書いた曲で、タイトルはポルトガル語で「おめでとう」を意味する。”Milonga Gris”は、シルバーステインが大きな影響を受けたアルゼンチンのアーティスト、カルロス”ネグロ”アギーレ(p,g)のカヴァー曲。静かなる音楽と異名をとるアギーレのサウンドが、友人でアルゼンチン出身のアンドレ・ベエウサエルト(p)のアレンジの協力を得て、シルバーステインのカラーに染められ、グルーヴィーに躍動する。シルバーステインの前作は、ブラジル音楽にスポットを当てた作品だった。”Nocturno”は、前作でロイ・ハーグローヴ(tp)、トニーニョ・オルタ(g,vo)と共演した曲の再演である。ミニマルな音数の珠玉のバラード・プレイが、心に沁みる。タイトル・チューンの”The Village”は、ジャズ・クラブが立ち並びシルバーステインが大きな刺激を受けた、ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジに捧げたスウィング・チューンであるが、インターネットやSNSの普及で、世界中の異なったスタイルの音楽や演奏者が、一つのヴィレッジにいるようになったことへのダブル・ミーニングとシルバーステインは語る。”Stav”はヘブライ語で、秋を意味する。シルバーステインが映画のサウンド・トラックに書いた曲だが、残念ながら発表されなかった。オリジナルでは、チェロのために書かれたメロディ・ラインをリューベン・ロジャースが、美しくアルコで聴かせる。ミディアム・バラードの”Fuzz”は、イスラエル出身のテナー・サックス・プレイヤー、アサフ・ユリアに捧げられた曲だ。アーロン・ゴールドバーグのドラマティックなソロに触発されて、シルバーステインもストーリー性豊かなソロをとる。”Albayzin”は、スペインのグラナダを訪れた印象で描かれたフラメンコにインスパイアされた曲だ。2014年2月のパコ・デ・ルシア(g)の逝去を悼み、パコに捧げられた。リューベン・ロジャースがフィーチャーされたジャズ・チューンの”Changes”を挟み、ブラジルのショーロを代表するマンドリン・プレイヤー、ジャコ・ド・バンドリンの”O Vôo da mosca”へ至る。グレッグ・ハッチンソンが絶妙なサポートを聴かせてくれる。”October”は、ブルックリン、プロスペクト・パークの秋晴れの美しい1日を描いたリリカルな一曲だ。エンディングは、3曲めのカヴァー曲”Lennie Bird”は、やはりシルバーステインに大きな影響を及ぼしたレニー・トリスターノ(p)のオリジナル曲。スタンダード・チューンの”How High the Moon”のコード進行を借用している。アップ・テンポのスウィング・チューンで、シルバーステインは、ゴールドバーグとスリリングなソロ交換を聴かせ、ジャズ・ギタリストとしての矜持を示した。

2月8日のジャズ・スタンダードにおけるリリース・ライヴは、またアルバムとはテイストの異なる、リズム・セクションが集結した。若手のグレン・ザレスキ(p)、マット・ペンマン(b)、エリック・ハーランド(ds)というファースト・コール・メンバーで、ペンマンとハーランドはジョシュア・レッドマンのユニット、ジェイムス・ファームのメンバーでもある。グルーヴィーなアルバムに、ハーランド、ペンマンによって更に繊細な要素が加わったと思わせるインタープレイであり、シルバーステインのヴァーサタイルな作曲が光る。ヨタム・シルバーステインらの世代による、ニューヨーク・ジャズ・シーンへの新たなイスラエリ・インヴェイションは、まだまだ続く。

関連リンク
Yotam Silberstein http://yotammusic.com/

 

 

 

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。2017年4月、29年のニューヨーク生活を終えて帰国。翌年2010年以降の目撃してきたニューヨーク・ジャズ・シーンの変遷をまとめた『New York Jazz Update』(小学館、2018)を上梓。現在横浜在住。デトロイト・ジャズ・フェスティヴァルと日本のジャズ・フェスティヴァルの交流プロジェクトに携わり、オフィシャル・フォトグラファーとして毎年8月下旬から9月初旬にかけて渡米し、最新のアメリカのジャズ・シーンを引き続き追っている。Official Website : https://tokiwaphoto.com/

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