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CD/DVD DisksNo. 234

#1439『TON-KLAMI / Prophecy of Nue』

今月のCross Review #1 :『TON-KLAMI / Prophecy of Nue』

Text by Kazue Yokoi 横井一江

NoBusiness Records NBCD 102

TON-KLAMI
Midori Takada 高田みどり – marimba, percussion
Kang Tae Hwan 姜泰煥 – alto saxophone
Masahiko Satoh 佐藤允彦 – piano

1. Prophecy of Nue
2. Manifestation
3. Incantation

Recorded live on the 27th May, 1995 at Design Plaza Hofu, Yamaguchi, Japan by Takeo Suetomi / Concert produced by Takeo Suetomi
Mastered by Arūnas Zujus at MAMAstudios
Photos by Akihiro Matsumoto, Takeo Suetomi and Yuko Tanaka
Liner notes by Takeo Suetomi and Koji Kawai
Design by Oskaras Anosovas
Produced by Danas Mikailionis and Takeo Suetomi (Chap Chap Records)
Release coordinator – Kenny Inaoka (Jazz Tokyo)
Co-producer – Valerij Anosov


歴史的なユニットのライヴ録音がCD化された。

姜泰煥、高田みどり、佐藤允彦の3人が初めて顔を合わせたのは、1990年3月5日新宿ピットイン。その場に居た誰もがその演奏に圧倒された。その時、私は即興演奏、いやアジアのコンテンポラリーな音楽の新たな地平が拓かれたと思ったのである。

姜泰煥が1987年にトリオで日本ツアーした時に函館で高田みどりがゲストで参加して以来、二人は意気投合し、共演を重ねていた。私は彼から「ミドリはいい」という言葉を会話の中で何度か聞いた記憶がある。そこに佐藤允彦が加わるかたちでのセッション、お膳立てをしたのは故副島輝人だ。何よりも当日会場に行ってビックリしたのは、姜泰煥が座してサックスを吹いたこと。そして、姜泰煥のサックスから発せられるのは地からサウンドが立ち上がってくるような尋常ならざる音であり、3者のコラボレーションは稀に見る水準の高さだった。生涯忘れ得ぬライヴ体験のひとつで、この日のことは27年経った今もよく覚えている。

「トン・クラミ」という名前は高田みどりによって、1991年メールス・ジャズ祭に出演する時につけられた。韓国語で環を意味する。中心に居るのは姜泰煥、循環呼吸法とマルチフォニックス、ハーモニクス、微分音などを駆使した独自の奏法で、時に鵺が鳴くように、時に地を響かせるように、そのサウンドは流動的に変化する。そこに佐藤と高田がさまざまな色彩を添え、イマジナティヴな世界が循環し、中心もまた動いていく。佐藤の気を読むかの如く切り返すピアノ、高田の豊かで多彩なパーカッション・サウンドといい、この3者の交歓、環が動いていくさまを聴きながら、この歴史的ユニットを追体験しつつ、私は記憶の回廊に入り込んでいた。「トン・クラミ」自体、演奏の回を重ねることによって、その表現はより深まっていっただけに、1995年の録音が陽の目をみたのは嬉しい。それまでにリリースされた「トン・クラミ」の音盤はメールスでのライヴとネット・ローゼンバーグがゲスト参加したもう一枚のみ、いずれも廃盤になって久しいだけに、この発掘は意味がある。惜しむらくは、ジャケットをもう少しアーティスティックなものに出来なかったものかと…。

ついでに言うならば、姜泰煥の音楽の探究はずっと続いている。その深化した世界を聴きたければ、『素來花 Sorefa』(Audioguy Records) がある。ソロ・サックスでこれほどの境地に達した人は他にいない。音楽的にも、技術的にも。

【関連記事】

Reflection of Music Vol. 40 姜泰煥
http://www.archive.jazztokyo.org/column/reflection/v40_index.html

 

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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