#1534 『Cory Smythe & Peter Evans / Weatherbird』
text by 定淳志 Atsushi Joe
Cory Smythe & Peter Evans / Weatherbird
(more is more records)
Cory Smythe – piano, compositions
Peter Evans – trumpet, piccolo trumpet, compositions
- Weatherbird (Armstrong) – 03:25
- Weatherbird Wave (Smythe) – 05:53
- Bsntbls (Evans) – 05:35
- Weatherbirdhouse (Smythe) – 03:04
- Bls (Evans) – 07:21
- Weatherbird (Armstrong) – 04:17
Recorded September 12 & 13 2015
9月に待望の来日ツアーが決まった、当代随一のトランぺッターの一人、ピーター・エヴァンス。近作の一枚は、現代音楽畑出身ながらタイショーン・ソーリーら名うてジャズミュージシャンとの共演経験も豊富なピアニスト、コリー・スマイスとのデュオ作品だ。テーマは、1928年に吹き込まれた、ルイ・アームストロングとアール・ハインズの歴史的デュエット『Weather Bird』。今年がちょうど90周年の節目、ということになるが、本作品の録音は2015年とのことなので、記念作品というわけでもないようだが、同じ楽器の偉大な2人のレジェンドの事績に敬意を表する演奏には違いない。
ピーターのトランペットというと、これは楽器に対する一種のフェティシズムと言ってもよいと思うが、サックスの世界であればエヴァン・パーカーやジョン・ブッチャーらに通じる超絶技術による拡張的奏法に、ついつい目を(耳も)奪われがちだ。しかし、先日発刊された別冊ele-king『MUTANT JAZZ』の小特集「変容するニューヨーク、ジャズの自由」におけるディスクガイドでも書かせてもらったし、以前から折りに触れて主張してきているように、彼のプレイには、ちょっとしたシークエンスやあるいはたった一音の中にさえも、ジャズ・トランペットの豊饒なる歴史が凝縮されているのだ。
アルバムは、冒頭と最後に<Weatherbird>のカバーを配置し、合間にピーターとコリーが2曲ずつ、<Weatherbird>の“変奏”というか、“返歌”というべきオリジナルを持ち寄って、サンドウィッチする構成となっている。タイトル曲では、スウィングスタイルを早回ししたような出だしから、ジャズに擬態しつつジャズの粋を尽くし、時にジャズを飛び越え、しかし猛烈にスウィングするプレイに唸るしかない。それぞれのオリジナル曲も含め、現代的な装いをまといつつ古典とも地続きである確かな感触がある。アルバム自体が『Weather Bird』の“返歌”というべきだろう。