#1309 『Sergio Krakowski / Pássaros : The Foundation Of The Island』
Ruweh 002
Sergio Krakowksi (pandeiro)
Todd Neufeld (el-g)
Vitor Goncalves (p)
1. Founding Chart
2. Carrossel de Pássaros / Migration 3322_22322
3. Path of Roses / Migration 434_323
4. Choro de Baile / Migration 332_223
5. Wayfaring Stranger – Ostinato
6. Unveiling Chart
Recorded May 2014 at Cooper Studio
Engineered by Vinicius Castro
Mixed by Ryan Streber
Mastered by Luis Bacque
セルジオ・クラコウスキが駆使するパンデイロは、ブラジルのタンバリンである。とても技巧的なリズムパターンは驚くほど繊細であり、また同時に強い推進力を持っている。クラコウスキが次々に提示するリズムに耳を奪われていると、別の方角から、抒情的にも思えるピアノと、太く印象的なギターの即興が介入してくる。
トッド・ニューフェルドのギターは押し出しが強い。思索の結果紡ぎだされてくる音の列は、意外なほどメロディアスでもある。グラント・グリーンさえも思わせる太い音は、また、魅力的な残響も伴っている。
ピアニストのヴィトー・ゴンザルベスは、ブラジルの巨人エルメート・パスコアールの弟子筋にあたる。ときに爛漫に踊り場で浮かれるようであり、簡単にはメロディーやコードには回収されないピアノを弾いている。
パンデイロという「完璧なハンド・ドラム・キット」を用いるクラコウスキは、2013年にブラジルからニューヨークに進出してきた。それ以降、シロ・バプティスタ、エドマール・カスタネーダら中南米の音楽家とも、ダニー・マッキャスリン、デイヴィッド・ビニーらNYジャズ・即興の音楽家とも共演している。主流の代名詞的なジャズ・アット・ザ・リンカーン・センターのステージにも、前衛的なザ・ストーンのステージにも立っている。この幅広さと越境の身振りが、彼の面白さのひとつではないだろうか。
本盤は、この背景も経歴も異なる3人の音楽家が創出した作品である。一聴すると、パンデイロのリズムが強烈すぎて、その振動する鼓の上で繰り広げる演奏のようにも思えるのだが、耳を傾けてゆくと、全員が全員に別々の形で影響を与えているようにも聴こえる。それぞれが自分自身のタイム感で音を繰り出し、また有機的に絡まりもする不思議さがある。
また、これは、2015年の蓮見令麻『UTAZATA』を皮切りに活動しはじめた「ルーウェ・レコーズ」の第2弾である。「ルーウェ」とは、アイヌ語で「足跡」の意味だという。確かにこの2枚のユニークさは、レーベルの名前に相応しいように思われる。
同レーベルは、次の作品として、ラファエル・マルフリートのデビューアルバムを2016年9月にリリースするという。ベルギー・アントワープを拠点に活動するベーシストであり、本盤と同じくトッド・ニューフェルドのギター、そしてカルロ・コスタのドラムス・パーカッションとのトリオのようだ。来日演奏も予定されている。今後、「ルーウェ・レコーズ」が、どのような足跡を残してゆくのか、とても興味深い。
(文中敬称略)
セルジオ・クラコウスキ