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CD/DVD DisksNo. 218

#1311 『グンジョーガクレヨン / Gunjogacrayon』

text by 剛田武 Takeshi Goda

P-Vine / Pass Records PASS-04 定価:¥2,700+税

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1. sabinezu
2. hai ao
3. hisoku
4. aoni
5. huta ai
6. tomekon

All Compositions by Gunjogacrayon

Gunjogacrayon
Tadashi Kumihara guitar
Takashi Maeda bass
Atsushi Miyakawa drums

Guest Musician
Takayuki Hashimoto (.es) sax

Recorded by Hideaki Hayashitani at Nana Hari
Mixed by Yoshitaka Goto and RQlab
Mastered by Takayoshi Manabe at Crown Mastering Studio

Produced by Yoshitaka Goto

A&R Direction by Yoshiaki Ando

Art Direction by Yoshitaka Goto
Cover Photo by Takehiko Nakafuji
Designed by Rosa Yemen

Special Thanks to Satoshi Ito, Shoichiro Mori

Pass Records 2016


西の果てにはグンジョーあり

1979年、組原正(g)を中心に結成されたグンジョーガクレヨンは、吉祥寺マイナーなど地下音楽の震源地で活動し、1980年PASSレコードから5 曲入LP『GUNJOGACRAYON』でデビュー。硬質なビートとフリージャズ的な即興演奏を融合したスタイルでポスト・パンクの象徴となった。その後、方法論を完全即興演奏に変化させ、1987年、2nd『gunjogacrayon(2nd album)』(DIW)、1994 年、3rd『グンジョーガクレヨンIII』(日本カセット・テープ・レコーヂング)をリリースした。各作品の方法論やテイストは異なる感触を持つが、ライヴ空間に於けるスタイルは、結成以来37年間、大きく変わっていない。彼らのスタイルとは、演奏者自身の肉体と感性をギリギリまで削り落として音と一体化し、演奏の場にグンジョー色の「結界」を創り出す、と表現すればいいだろうか。

結界とは、仏教や神道用語で、清浄な領域と不浄の領域とを区切ることである。グンジョーの「結界」の内側が、果たして清浄なのか、はたまた不浄なのかは別として、彼らの結界を破り、内側へ入り込むのはかなり難しい。それはこれまでグンジョーとセッションやコラボを試みたミュージシャンの多くが口にしてきた。ある演奏家は「インプロヴァイザーとしての柔軟性を備えていない」と語り、別の音楽家は「彼(組原)はまったく他人の音を聴かない。その徹底ぶりは尊敬に値する」と語る。

37年に亘るグンジョーの歴史に於いて、初めて「結界」を突破し、一回り異なる世代の差をモノともせず、第四のメンバーのように交歓したのが大阪の即興ユニット.es(ドットエス)のリード奏者、橋本孝之である。西から来たこの若者は、まさか風水の力で不浄と清浄のバリアを非武装化したのだろうか? ヒントとなるのは、筆者も立ち会った組原&前田(グンジョーガクレヨン)と橋本の初共演となった2014年7月23日阿佐ヶ谷Yellow Visionでのセッションライヴである。仕事の都合でその春に東京に転居した橋本、前年に活動を本格的に再開し、精力的に対外セッションを始めたグンジョー。運命の神の気まぐれで交差した二者の邂逅は、ケバケバしい女装の組原と寡黙な銀髪の前田の異形の二人が、左右から橋本に激しい演奏を浴びせる折檻めいた夜になった。1時間を超える長時間ライヴは生まれて初めてという橋本は、二人の攻撃に一歩も怯むことなく応戦し、鬩ぎあいはいつしか艶かしい睦みあいに変わっていった。その夜Yellow Visionに出現したのはトライアングル(三角形)の結界ではなかったか? 70分に亘る演奏の終わった後の三人の笑顔には、この関係を一夜限りのアバンチュールで終わらせたくないとする密かな思いが滲み出ていた。

その思いを胸に、翌年宮川を加えた4人で八丁堀のライヴスペース七針でレコーディング・セッションが行われ、新生グンジョーの新作が結晶となった。PASSレコードらしいポストモダンなジャケットに収められた銀色のCDには、群青色を表す日本古来の色の呼び名が付けられた6つの楽曲が収録されている。Yellow Visionの夜を思わせる阿鼻叫喚の鬩ぎあいで始まるtrack 1「錆鼠(さびねず)」では、殺し合いではなく、無垢な子供がじゃれ合う幸せな光景が目に浮かぶ。track 2「灰青(はいあお)」〜track 3「秘色(ひそく)」の静寂が支配する緊張感は、4人の関係がまだ成熟しきっていないことを露にする。抑えきれない感情が爆発するtrack 4「青丹(あおに)」を経て、ギターとサックスが野合するtrack 5「二藍(ふたあい)」のロマンスもそこそこに、4者が最大限に歓びを歌いあげるtrack 6「留紺(とめこん)」に至って遂にグンジョー色の結界が外へ向かって啓かれる瞬間を目にすることになる。

仏法の教訓に「西の果てには日本国あり」という言葉がある。世界のありかたは円環状である。だから輪廻を続けるうちに同類が集まってくる。 釈迦仏は東方、即ち大日本村にて弥勒に会おうと往生した。 そして日本人は西方極楽浄土を目指すが、インドを通り過ぎ、何度もグルグル回ったのち、 最終的には日本にたどり着く。だから心から阿弥陀を信じる者は、 西へ行こうが東へ行こうが、最後は一場に会して弥勒の説法を受けることができるという。つまりグンジョー色の求道者は、37年間音楽の輪廻を彷徨ったのちに、西から同類の求道者を迎え入れ、創造の神の霊感を再び受けて、音楽シーンに真を問うのである。即ちこれが<西の果てにはグンジョーあり>の理(ことわり)である。
(剛田武 2016年5月25日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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