JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 9,032 回

CD/DVD DisksNo. 313

#2313 『サラ・アルデン Sara Aldén /There is no Future』

text by Kazune Hayata 早田和音
photo by Maja Lindgren

Prophone PCD312

サラ・アルデン Sara Aldén (vo, arrangement-M2,8)
アウグスト・ビョーン August Björn(p, arrangement-M2,4,5,8,9,10)
ダニエル・アンデション Daniel Andersson (b, arrangement-M3,9,10)

<Guest>
マーリン・シェルグレン Malin Kjellgren(harp)
ユーハン・ビョークルンドJohan Björklund(ds)
ハンネス・ベンニクHannes Bennich(sax)

1. There Is No Future(Sara Aldén)
2. Misty(Erroll Garner / Johnny Burke)
3. Someday My Prince Will Come(Frank Churchill / Larry Morey)
4. I Would Only(Sara Aldén)
5. Somewhere over the Rainbow (for Sven-Olof)(Harold Arlen)
6. To Let Go(Sara Aldén)
7. In Between(Daniel Andersson & Sara Aldén)
8. I Don’t Know(Sara Aldén)
9. They Can’t Take That away from Me (George Gershwin / Ira Gershwin)
10. What a Wonderful World (Bob Thiele as ‘George Douglas’/George David Weiss)

Recorded at Studio Epidemin on March 20, 24 & 28, 2023

ディスクのスタートと同時にスピーカーから聴こえてくる、そっと奏でられるピアノと、“There is no future”というショッキングな歌詞を口ずさむ澄んだ声に心を鷲掴みにされた。絶望を嘆くかと思われたその歌は徐々に力強さと明るさを増し、こちらの胸にそっと染み入ってくる。声の主の名前はサラ・アルデン。ヴェステロースの音楽高校、ストックホルムの王立音楽大学、ヨーテボリのアカデミー・オブ・ミュージック・アンド・ドラマで音楽やヴォーカルを学び、さらにヨーテボリ大学でジェンダー実践の修士号も取得している気鋭のジャズ・ヴォーカリストだ。本作は、2022年にミニ・アルバム『A Room of One’s Own』を発表した彼女がリリースする初のフル・アルバム。

4曲のオリジナル曲と6曲のスタンダード曲という構成になっているが、驚くべきは、そのすべてに彼女の確固たる音楽性と個性が発揮されているということ。前述の「There Is No Future」や、フォーキーな響きの中にポジティヴな気持ちを忍び込ませた「To Let Go」、自分の心の中に在る愛情に真摯に向き合った「I Don’t Know」などのオリジナル曲は勿論のこと、「ミスティ」、「いつかは王子様が」のような有名曲までもが“彼女の歌”として耳に飛び込んでくる。そこにあるのは、曲のメロディと歌詞をしっかりと咀嚼したうえで、曲の奥に隠された痛切な感情を浮かび上がらせようとする彼女独自のアプローチ。今後、彼女の活動によってジャズ・ヴォーカルの歴史に新たな1ページが書き記され、スタンダード曲に新たな生命が吹き込まれていくような期待さえ抱かせるアルバムとなっている。

早田和音

2000年から音楽ライターとしての執筆を開始。インタビュー、ライブリポート、ライナーノーツなどの執筆やラジオ出演、海外取材など、多方面で活動。米国ジャズ誌『ダウンビート』国際批評家投票メンバー。世界各国のメジャー・レーベルからインディペンデント・レーベルまで数多くのミュージシャンとの交流を重ね、海外メディアからの信頼も厚い。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください