JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 689 回

Concerts/Live ShowsR.I.P. 坂本龍一No. 321

#1341 伊藤ゴロー + ジャキス & パウラ・モレレンバウム
~Tribute to RYUICHI SAKAMOTO~

12月6日(金):ビルボードライブ横浜

Text by Minako Ukita 浮田 美奈子
Photo by Hayato Watanabe

ジャキス・モレレンバウム (Cello)
パウラ・モレレンバウム (Vo)
伊藤ゴロー (Gt)
小川慶太 (Dr, Perc)
佐藤浩一 (Pf)
角銅真実 (Perc)
伊藤彩 (Vn)

  1. As Praias Desertas /A.C.Jobim
  2. Amor Em Paz/A.C.Jobim
  3. Fotografia – Photograph/A.C.Jobim
  4. Bibo-No Aozora/Ryuichi Sakamoto
  5. Rain/Ryuichi Sakamoto
  6. M.A.Y. in The Backyard/Ryuichi Sakamoto
  7. Glashaus/Goro Ito
  8. O Grande Amor/A.C.Jobim
  9. Sabia/A.C.Jobim
  10. Tango/Ryuichi Sakamoto
  11. Fragments/Goro Ito ※新曲
  12. Águas de Março/A.C.Jobim
    -encore-
  13. Merry Christmas Mr.Laurence/Ryuichi Sakamoto
  14. Sayonara/Ryuichi Sakamoto

伊藤ゴロー+ジャキス&パウラ・モレレンバウム JAPAN TOUR 2024~Tribute to RYUICHI SAKAMOTO~のライブ・レポートをお届けする。これはMontreux Jazz Festival Japan公演のプログラムの1つとして行われた。
今回のツアーは坂本龍一に捧げるプログラム「TRIBUTE TO RYUICHI SAKAMOTO」(横浜、静岡、大阪、福岡)と、他に「METROPOLITAN JAZZ VOL.6」として、アントニオ・カルロス・ジョビンに捧げるプログラム(東京)があった。詳細はこちらの記事を参照されたい。

ブラジルのチェリスト、ジャキス・モレレンバウムはECMではエグベルト・ジスモンチのアルバムへの参加、妻のパウラと共にアントニオ・カルロス・ジョビンのレギュラー・グループ、バンダ・ノヴァのメンバーとしても活動。また彼は坂本龍一との長いコラボレーターだった。坂本とジャキスの共作『CASA』(2001年)はアントニオ・カルロス・ジョビンの作品集で、ジョビンが生前に愛用していたスタジオと楽器を使ってレコーディングされた。

坂本にとってジョビンは憧れと尊敬の対象だった。また、ボサノヴァ・ギタリスト/コンポーザーの伊藤ゴローは坂本の紹介でジャキスと知り合った。伊藤とジャキス夫妻の接点は坂本龍一とジョビンなのだ。伊藤はジャキス夫妻、今回のライブにも参加している小川慶太(ds & perc)とともに伊藤ゴロー+ジャキス・モレレンバウム名義でジョビンの曲を中心とした『ランデヴー・イン・トーキョー』(2014年)を発表している。

オープニングはジョビンの「AS PRAIAS DESERTAS」。これは坂本とジャキス夫妻の2001年の日本ツアーの『Morelenbaum2/Sakamoto: Live In Tokyo 2001』の最初の曲でもある。ピアノとチェロの印象的なイントロで、ああ、これは坂本とジャキス夫妻にとってのジョビンなのだと思う。

パウラの歌声は優しく甘いが透き通っていて爽やかだ。ジャキスのチェロは、クラシック奏者と比べてビブラートは浅めであっさりなのだが、少し渋めのその音にはなんとも言えない色気がある。非常に控えめでさりげない演奏スタイルがボサノヴァの心地よさにマッチする。俯瞰的な目線から音楽全体を支え、全員が共有する表現のイメージを自然な形で引っ張っていく。坂本は、ジャキスが譜面ではなく、耳で聴いてすぐに相手の音楽を理解し、どんなスタイルの音楽でも即興的に表現できる順応性の高さを非常に信頼していたようだが、それはライブを見ると理解できる。こういう人がバンドにいると、共演者はとてもやりやすいし頼れるだろう。

伊藤ゴローのギターは静かで柔らかいが繊細で精緻なギター。とても自然な呼吸で刻む彼のギターは、ゆるやかなリオ・デ・ジャネイロの時間の流れと澄んだ空気感を強く感じる。伊藤の曲「Glashaus」は大変美しい曲だ。少し捉えどころがないメロディと転調の繰り返しに、伊藤が坂本の曲で最も聴いたというYMOの曲「Perspective」からの影響を感じた。

  

今回他のメンバーも実力派揃いで、自己の存在をアピールする訳ではなく、あくまでもその場の音楽を構成する自分の役割をしっかり果たす。坂本の「Bibo-No Aozora」では、パーカッションの角銅真実の歌声が大貫妙子ばりでとても素晴らしかった。この曲の世界を本当に良く表現していたと思う。少し驚いた。また、この曲はピアノ・ソロもいいが、坂本とジャキスとバイオリンのトリオによるアルバム『THREE』(2012年)に収録の、ピアノがテーマのメロディーを奏でる上を弦が違う調性で即興的なフレーズを奏でる対比が恐ろしく美しいバージョンがある。今回のライブでは当然そのバージョンが披露された。

あと後半、パウラの坂本の曲「Tango」の思い出のエピソードの紹介。彼女は最初にこの曲を坂本から聞かされた時、あまりにも美しい曲だったので、すぐさま名前を質問。すると坂本から「Tango」だと言われ、「え?何でタンゴ?これボサノヴァじゃなのに!!」となったそうだ。これはブラジル人なら誰しもそういう反応になるだろう話で、笑わせて貰った。この曲は坂本が「Tango」という言葉から触発され、坂本が考えるタンゴの「雰囲気」を表現した曲であって、曲はどう聞いてもボサノヴァなのだ。

       

本編最後のジョビンの「Águas de Março」もとても良かった。今回の公演は「TRIBUTE TO RYUICHI SAKAMOTO」の名前にとても相応しく、ジャキス夫妻と坂本によって結ばれた音楽家たちの強い絆を感じさせるものだった。ジョビンや坂本の曲のような素材がいい曲は、これからも様々なミュージシャンの様々なアレンジや解釈を許すだろう。そういった新たな人たちの手による新しいバージョンによって、これからも彼らの音楽が生き続ける事は、本当に素晴らしいことだと思う。

浮田 美奈子

クラシック音楽教師の家庭に育った一級建築士。自身も2歳半からピアノとフルートを学ぶ。同時に13歳で洋楽ロックやJAZZにも傾倒し、バンド活動を行う。JAZZとECMとの出会いはキース・ジャレットの「ケルン・コンサート」。 どんな音楽ジャンルも問わずに聴くが、基本的に実際に会場で聞かなければ真価は解らないと思っている。現在ドミニク・ミラー本人の承認の元、Dominic Miller_Fan Page JAPANを運営。https://dominicmillerjapanfan.com

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください