#1355 柳原由佳、馬場孝喜、沢田穣治 at 大阪・天満「バンブークラブ」
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
柳原由佳、馬場孝喜、沢田穣治
2025年2月4日 19:30 大阪・天満「バンブークラブ Bamboo Club」
柳原由佳 Yuka Yanagihara: piano
馬場孝喜 Takayoshi Baba: guitar
沢田穣治 Jyoji Sawada: contrabass
1 やさしい雨 (柳原由佳)
2 過ぎ去りし者 (沢田穣治)
3 練馬・新宿・宇宙 (馬場孝喜)
4 水が集まりガラスになる (沢田穣治)
5 新曲2025.02.01 (柳原由佳)
6 2 de Fevereiro, 2024 (沢田穣治)
7 29 de Janeiro, 2024 (沢田穣治)
8 Silence (柳原由佳)
9 Sohno e Selvagem (馬場孝喜)
10 Memories of Tomorrow (Keith Jarrett)
色彩豊かな音世界を描き出すピアニスト柳原由佳とギタリスト馬場孝喜。サウンド的に近いところに居ながらこれまで不思議に共演がなかった。ふたりと親交のある鬼才 沢田穣治を交える形で大阪で初共演が行われ、本人たちと観客の想像さえ超える衝撃のインタープレイが生まれた。あまりに好評のため4月20日(日)14:30より下北沢「No Room for Squares」での東京公演も決まっている。
出会いの場となったのは、柳原と沢田がしばしばライヴを行なってきた大阪・天満の「バンブークラブ」。JR大阪環状線 天満駅からちょっとディープな飲み屋街を抜けた先に静かに佇む南国風古民家カフェだ。竹で作られた天井、昔ながらの形を残した懐かしい家に帰ってきたような空間で不思議と和む。意外と言っては失礼だが、ECMをリスペクトするミュージシャンたちも多数出演し、不思議と癖になるジャズクラブであり、耳の良さそうな常連も集っている。本公演は関西での期待も高く満席を超え、楽屋スペースに臨時席が増設されたほどだった。
柳原由佳はバークリー音楽大学出身、2023年にはデトロイト・ジャズ・フェスティヴァルに「Khamsin」で出演しスタンディングオベーションに、3月にはフランス公演を敢行したなど海外へ活躍の場を広げる。最新作はフランス・シャモニーで録音したピアノソロアルバム『sonvisibilité』。馬場孝喜は京都出身、ニューヨーク〜ブラジルに渡り、身に付けた卓越したテクニックと斬新なサウンドで、ジャズ界のレジェンドからJ-Popのスターにまで重用されて来たギタリスト。2023年には『Nobie & 馬場孝喜/おわりとはじまり』をリリースしている。その接点にいたのが兵庫出身の音楽家 沢田穣治。沢田は馬場を最も信頼するギタリストとして共演し続けてきた。柳原とは「sonora do silêncio」で出会い、3年目を迎えて共同作業が本格的になってきている。沢田はショーロクラブで35年以上活動し、映画音楽・沖縄島唄・現代音楽・音響系作品の制作や、J-POPアーティストのプロデユース、アレンジなど多種多様な音楽制作に携わってきた。
最初の曲、柳原の<やさしい雨>では3人が親密に絡み合うイントロから始まり、馬場がメロディーに入る瞬間に1曲目の冒頭にしてもう魂を持って行かれた感じさえした。この曲は『柳原由佳&古市響平/The Quartet』に収録されている。沢田の<過ぎ去りし者>はフリーなタイム感に浮かび上がる世界。馬場の<練馬・新宿・宇宙>は美しく情熱を秘めたワルツ。沢田が掃除中に思いついたという<水が集まりガラスになる>も沢田ならではの怪しい美しさを魅せる。
後半はこの共演を前に柳原が作曲した<新曲2025.02.01>。移ろうコード進行を淡々と表現する柳原と自由に舞う馬場のギターソロの対比が美しい。昨年の作曲になるが沢田の<2 de Fevereiro, 2024>と<29 de Janeiro, 2024>、要するに1月と2月のその日の作曲ということなのだが、沢田独特の一筋縄ではいかない曲調にタイトルに縛られないどこに行くかわからない三者のやりとりがどこまでも深化していった。
柳原の<Silence>は”終わりの前の静けさ”を意識した切なく美しい一曲。本編最終曲の馬場作<Sohno e Selvagem>は”夢と野生”の意で『Nobie&馬場孝喜/おわりとはじまり』に収録されている。ここまでの流れともまた違ったファンク的な盛り上がりまで3人のグルーヴを魅せ、それぞれの全く違った表現力が引き出され渾然一体となり、今後への無限の可能性を最も感じさせてくれる演奏となった
鳴り止まない拍手にアンコールはキース・ジャレットの<Memories of Tomorrow>。この題名で作曲され1975年1月24日『The Köln Concert』のアンコール<Köln, January 24, 1975, Part II c>として世界に知られた。ケルンでの事件からちょうど50年後、キースを敬愛する3人の演奏は本当に美しく、名残を惜しむように親密なやりとりを続け静かにライヴを終えた。観客も3人も想像していなかったケミストリーが起きた奇跡のライヴ。親密なインタープレイから今までに知らなかった音が曝け出され美しく溶け合う。鳥肌も立ちながら優しく心地よい音響に包まれた。
4月20日(日)14:30より、東京・下北沢のジャズクラブ「No Room for Squares」で待望の東京初公演がある。このハコは壷阪健登、中村海斗、Taka Nawashiro、馬場智章のような気鋭から、大友良英のような巨匠までが出演し、ミュージシャンの本気スイッチが入る東京におけるジャズの最重要拠点の一つだ。この特別なハコで3人の奇跡の出会いを体感して欲しい。詳細と予約はこちらを参照されたい。
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