#948 喜多直毅クアルテット~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~
2017年4月15日(土) 東京・幡ヶ谷アスピアホール
Reported by 齊藤聡 Akira Saito
喜多直毅クアルテット:
Naoki Kita 喜多直毅 (vln, music)
Satoshi Kitamura 北村聡 (bandoneon)
Shintaro Mieda 三枝伸太郎 (p)
Kazuhiro Tanabe 田辺和弘 (b)
1. 疾走歌
2. ふるさと
3. 焦土
4. 峻嶺
5. 残された空
ヴァイオリンの喜多直毅をリーダーとして、バンドネオンの北村聡、ピアノの三枝伸太郎、コントラバスの田辺和弘の4人からなるグループ。喜多のオリジナル曲を一気呵成に1時間演奏し、ワンステージで劇的な音楽世界を創り出すスタイルだ。
そのサウンドは精緻であり、また自由でもあるという、まるで相反する印象を与える。
北村のバンドネオンや喜多のヴァイオリンは物語を諄々と聞かせるようであり、そこからは、人生の避けられない試練のようなものがイメージとして立ちのぼってくる。三枝のピアノが、ときに、その物語を鮮やかに下から弾き上げ、またときに結晶の中で光を乱反射させた。そして、田辺のコントラバスは、その胴体全体を浮かせるほどの力によって、音楽を揺り動かし続けた。
「疾走歌」では、循環するように繰り返され発展する旋律が興奮を呼び起こす(ジプシー音楽のリズムパターンを使ったのだという)。「ふるさと」では、ヴァイオリンのヴィブラート、一転して静かな空間におけるバンドネオンやピアノの独奏の響きが、懐かしさの琴線に触れる。苦難の道のりを経て、吸い込まれるような夜の空を思わせもしたのちにスペクタクルへと至る「峻嶺」。そして1時間のドラマの締めくくりとして、聴き手を慰撫するように、「残された空」が演奏された。
時間を追うごとに伝わってくるドラマ性に身を任せているうちに、この興奮は、枷と自由との対立に起因してもいるのではないかと思えてきた。喜多の曲とクアルテットによる演奏のルーツのひとつは、アルゼンチンタンゴである。喜多によれば、演奏者がタンゴのリズムを縦ノリで守り、アクセントとスタッカートを多用することにより力強いビートが生み出される一方で、それは自由な即興への制約にもなってしまうという。しかし、クアルテットはそれに挑戦するように、即興でスイングする横ノリを繰り広げる。この相克自体もドラマであり、それにより聴き手が覚える軋みのようなもの、安寧からの逸脱、それらがサウンドの大きな駆動力にもなっている。
喜多は、今後、クアルテットにアジアやアフリカの音楽要素を取り入れたいと語る。また、アメリカの作曲家ヘンリー・カウエルによるピアノのトーン・クラスターにも大きな関心を示している。喜多直毅クアルテットはどのように発展していくのだろう。
なお、喜多直毅クアルテットは、『Winter in a Vision』(Song X Jazz、2014年録音)に続く第2作となるアルバム『Winter in a Vision 2』(Song X Jazz、2016年録音)をこの2017年5月にリリースする。また、コンサートツアーを、奈良、尾道、広島、東京で行う。現在進行形の目が醒めるようなサウンドが生まれる場に立ち会う幸運な者が、ひとりでも増えて欲しいと思う。
>> WINTER IN A VISION 2 喜多直毅クアルテットコンサート 2017(2017/5/27 奈良、5/28 尾道、5/29 広島、6/10 東京)
(文中敬称略)