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Concerts/Live ShowsNo. 312

#1294 武本和大 THE REAL “Departure”

2024年3月1日 東京・南青山 BAROOM

text by Kazune Hayata 早田和音
photo by Kanako Fujitani 藤谷香菜子

武本和大 THE REAL “Departure”
武本和大(p) 佐藤潤一(b) きたいくにと(ds) 岡本健太(perc) 吉田篤貴(1st vln) 西原史織(2nd vln) 末廣彩風(va) 飯島奏人(vc)

1st. SET
Freakin’ Ray of Sunshine
Vol d’un Papillon
Power of Believing
Determination

2nd. SET
Tranquility
I Pray
Departure
A Place

enc. On the Way


Departureの音楽が急速に進化している。それを実感したライヴだった。Departureというのは、ジャズ・ピアノのライジングスター、武本和大が2022年にスタートさせた新プロジェクト。佐藤潤一(b)&きたいくにと(ds)を擁する自己のトリオ“THE REAL”を核にして、若手トップ・パーカッショニストの岡本健太と、吉田篤(vln)、西原史織(vln)、末廣彩風(va)、飯島奏人(vc)の4人から成るストリング・クァルテットを加えた独特の編成を持つラージ・アンサンブルだ。2023年5月に旗揚げライヴ、同年11月に第2回公演を開催。今回、僕が訪れたのは3月1日に南青山のBaroomで行なわれた第3回ライヴだ。Baroomの特徴である擂り鉢状になった客席は、期待に目を輝かせるオーディエンスでぎっしり満員。Departureライヴの一音たりとも聴き逃したくないという思いが充満している。

最初にステージに姿を見せたのは、武本、佐藤、きたいの3人から成るピアノ・トリオ THE REALだ。武本が紡ぎ出す澄み切った音色のピアノと、オールドスクールな円やかなトーンを具えた佐藤のベースが奏でる軽やかなユニゾン、そしてそれをクッキリと浮かび上がらせるきたいの巧みなドラミング。「Freakin’ Ray of Sunshine」の高揚感豊かなトリオ演奏がライヴの口火を切った後は、すぐに岡本、吉田、西原、末廣、飯島の5人が登場する。前回ライヴでは、第1部がトリオ+パーカッションの演奏で、Departureが揃っての演奏は第2部のみだったが、今回は第1部2曲目からの全員集合。新曲2曲も披露されるとのことで、Departureのレパートリーが増えてきたことを実感する。そしてその幕開けとして演奏されたのが「Vol d’un Papillon」と「Power of Believing」の2曲だった。ストリングスのミステリアスなアンサンブルからスタートし、16ビートとスウィングが交錯する躍動的なリズムの中でカラフルなアンサンブルが織り上げられていく前者「Vol d’un Papillon」。そして、佐藤のアルコ演奏が加わったストリング・クインテットによるふくよかで優しげなサウンドがフィーチャーされた後者「Power of Believing」。味わいの異なる2曲の演奏によって、バンドのコントラストの豊かさを伝えた後は、力強いラテン・リズムの中でピアノとストリングスがダイナミックなコール&レスポンスを繰り広げる新曲「Determination」を披露し、オーディエンスからの喝采を浴びる。

ヴィオラのピチカート・アルペジオを起点にして展開される、繊細なアンサンブルを冒頭に持つ「Tranquility」からスタートした第2部はさらにドラマティックな展開。優しげな響きの2曲目「I Pray」、Departureプロジェクトを築きあげる中で武本が経験してきた苦しみから喜びまでの過程を投影させた3曲目「Departure」、そして今回披露されるもうひとつの新曲「A Place」までが、まるでひとつの組曲のような大きな音楽ドラマを描き出す。その中で僕が驚かされたのが、バンドのダイナミクスが格段にアップしていることだった。「I Pray」で聴かれるピアニシモの音はその純度と輝きを増し、「Departure」で描かれる苦悩の感情は、聴く者の胸をこれまで以上に深く抉ってくる。そして、オーディエンスを深い安らぎの世界へと誘う最終曲「A Place」、アンコール曲「On the Way」まで、聴く者の心の奥まで沁み込んでくる演奏が展開された。Departureの次回ライヴは5月21日に渋谷・公園通りのボディ&ソウルで開催されるとのこと。ピアノ・トリオ+パーカッション+ストリング・クァルテットの編成で描き出される感動的な演奏を体感する絶好の機会となるだろう。

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#281 武本和大・インタヴュー
https://jazztokyo.org/interviews/post-96551/


武本和大 THE REAL “Departure”公演情報

日時: 5月21日(火) 18:30開場 19:30開演
会場: ボディ&ソウル 渋谷公園通り(渋谷区宇田川町2-1 渋谷ホームズB-15)
料金: ミュージック・チャージ6000円
出演: 武本和大(p) 佐藤潤一(b) きたいくにと(ds) 岡本健太(perc) 吉田篤貴(1st vln) 西原史織(2nd vln) 末廣彩風(va) 飯島奏人(vc)

早田和音

2000年から音楽ライターとしての執筆を開始。インタビュー、ライブリポート、ライナーノーツなどの執筆やラジオ出演、海外取材など、多方面で活動。米国ジャズ誌『ダウンビート』国際批評家投票メンバー。世界各国のメジャー・レーベルからインディペンデント・レーベルまで数多くのミュージシャンとの交流を重ね、海外メディアからの信頼も厚い。

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