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特集『私のジャズ事始』

全てはジャズ喫茶のお陰 岡崎 凛

ジャズを聴くようになった理由は、ジャズ喫茶で過ごすことがカッコいいと思っていたからである。大阪の実家から通える距離の京都の大学に入り、ジャズ喫茶を回りたいという思いがあった。姉もそんな学生生活を送っていたので、自分もそうしたいと考えた。実は大学で何の勉強をしたいかは決まっておらず、1975年頃の学生文化や、市内のあちこちにあった薄暗い空間に憧れていた高校生だった。聴いていた音楽はロックばかりだったのだが、大人になればジャズも聴くだろうという安易な気持ちで、何も分っていないのにジャズを聴く日々を楽しみにしていた。
ある年齢から歌謡曲への興味がゼロとなり、フォークかロックばかり聴き、ジャズの知識はなかった10代の終わりごろ、大学生という気楽な身分を得て、ジャズ喫茶を訪れてはレコードジャケットを眺め、少しずつプレイヤーの名前を憶えていく。
ある日河原町三条近くの「ZABO」という店に入ると『チャーリー・パーカー・オン・ダイアル』がかかっていた。正しくは『Charlie Parker On Dial Volume 1』 だろう。しかし記憶に残ったのは、あの有名なジャケットの顔写真と大きく印刷された文字だけだった。
プレイ中のアルバム・ジャケットは、客席から見やすい場所(ハシゴのような台)に飾られていた。その日には、全く目にしたことのない名前が並ぶレコードが登場した。ヤン・ガルバレクの『Sart』である。光沢ある白地にアルバム名とJan Garbarek, Bobo Stenson, Terje Rypdal, Arild Andersen, Jon Christensenの文字が並ぶだけのデザインには、異様な力強さがあった。必死で聴いたが、けっきょく何だか分からず、呆気に取られて終わった。ジャケットに並ぶ文字は謎めいていて、大半の読み方が分からない。今ではよく知るヤン・ガルバレクという読み仮名を、その時は全く想像できなかった。だが、馴染みのない名前のうちボボ・ステンソンだけは覚えて帰ったと思う。(担当楽器は知らないままだった。)
このアルバムの5人がどれだけ重要か、今だから分かるが、当時は何を調べたらこのグループの詳細が分かったのだろうか? ZABOの店員さんに訊けば分かったのかもしれないが、当時の自分は何をどう質問すればよいのか分からなかった。まだジャズのレコードを1枚も持っておらず、ただ行き当たりばったりにジャズを聴いて過ごしていた。
しばらくしてから、油井正一氏のラジオ番組「アスペクト・イン・ジャズ」を聴くようになった。しかし依然としてジャズ喫茶が一番の情報源だった。店によっては「スイングジャーナル」誌のバックナンバーを揃えていたので、人気ジャズ・プレイヤーの顔と名前を知るようになる。キース・ジャレットの『ザ・ケルン・コンサート(The Köln Concert)』を初めて聴いたのも京都のジャズ喫茶だった。その時は、分かるとか、分からないとか考えることなく、ただ感銘を受け、頭を垂れて聴き入った。

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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