#1452『Tim Berne’s Snakeoil / Incidentals』
text by Masanori Tada 多田雅範
ECMレーベルの新作を聴くシリーズ2017秋 #3
ECM 2579
Tim Berne Alto Saxophone
Oscar Noriega Clarinet, Bass Clarinet
Ryan Ferreira Electric Guitar
Matt Mitchell Piano and Electronics
Ches Smith Drums, Vibes, Percussion, Timpani
David Torn Electric Guitar (track1, 3)
01. Hora Feliz
02. Stingray Schuffle
03. Sideshows
04. Incidentals Contact
05. Prelude One / Sequel Too
Recorded at Clubhouse Recording Studios in Rhinebeck, NY, December 2014
Engineer: D. James Goodwin
Mastered at MSM, Muenchen by Christoph Stickel
Produced by David Torn
「アンサンブル恐竜・蛇油、が、ギター轟音怪人DTと合体超合金化!」
ECMレーベルの新作を聴くシリーズ2017秋、第三打席、ECMレーベルはジャケを見れば深度がわかるのだ、画像プリントが剥げて黄金色に異次元化しているのだ、
90年代最強のサックス奏者、熱波ティム・バーン(1954-)、63さい、ジョン・ゾーンやルイ・スクラヴィスの1つ下、この最新作が最高傑作ぶりを聴くのだ、
ティム・バーンが12年にECMレーベルへ本格参入したユニット”スネイクオイル”、4作目、前作でギターのライアン・フェレイラが加わり、今回はギタリストの怪人デヴィッド・トーンがプロデューサーとなり、演奏に加勢までしている、もとよりスネイクオイルの音楽は音響構造なのだが、おれにはエリック・ドルフィーのDNAが組み込まれているように聴こえる、不穏が謎を持続させている、一度オーディオにセットすると逃れられない謎の構造、エナジーの充填過多密度、本当は力道山より強かった木村政彦の柔道とはこのようなものではなかったかと空想するようなアンサンブルの強度、を、1、2曲目で申し分なく披露している、
もちろん、1曲目の冒頭の残響音を満たしながらステージを呈示するところから、彼らは演奏するアンサンブルではなく「演奏を聴く」アンサンブルでもあることを念押ししているわけだが、
3曲目「Sideshow」26分03秒、5分過ぎにスローと今にも止まりそうな響きをリレーしてゆく、11分にはまったく異なったサウンド時空に漂いスペイシーな音響に至る、チェス・スミスはトランス状態になってはいないか?いつの間にプロデューサー席から怪人デヴィッド・トーンがそこに現れているではないか、
ああ、そうか、1曲目のイントロはデヴィッド・トーンの轟音ワールド、ミーツ、スネイクオイル、の図、
この新作ではとりわけチェス・スミスの活力が著しい、
ティム・バーンがその圧倒的な熱量でグルーヴしていた90年代00年代、自身のスクリューガン・レーベルでの諸作を懐かしむ声もあるが、サウンドを推進するドラムがジム・ブラックでもあったこと、タイコがチェス・スミスとなりプロデューサーにより骨格を顕わに晒されることで現在がある、(かつてジム・ブラックはなにゆえに独歩したのだろう)、
彼らの演奏を聴くと、モダンジャズは歌謡曲のようにわかりやすい、鼻歌になるに過ぎないではないかと憤る、
スネイクオイルが持つ一度始まってしまうと逃れられない磁力、タイトな各奏者の連携構造、には、明らかに覇王ヘンリー・スレッギルのアンサンブルを視ている、楽器編成も語法も異なるにせよ、
スネイクオイルにはティム・バーンの分身ピアニスト、マット・ミッチェルが脇を固めていて揺るがない、ここではソロがどうこうビートがどうこうという追いかけは通用しない、素材を走査する聴取パラダイムが要請されているのだ、