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Jazz à la Mode 竹村洋子No. 240

ジャズ・ア・ラ・モード #9:ビリー・ホリデイとシンプルなクルーネックセーター

9. ビリー・ホリデイとシンプルなクルーネックセーター

Billie Holiday in simple crew neck sweaters
text by Yoko Takemura 竹村洋子

photos : Used by permission of the University of Missouri-Kansas City Libraries, Dr. Kenneth J. LaBudde Department of Special Collections

 

ビリー・ホリデイ(Billie Holiday, 1915年4月7日 – 1959年7月17日)。『レディ・デイ』。その稀有な生い立ちと共に、人種差別、麻薬、アルコール依存症と戦いながら壮絶な人生を送った音楽史上に残るジャズ・シンガーだ。ジャズファンならずとも、多くの音楽ファンにも知られ、多くのミュージシャンたちに影響を与えた。

1930年代、10代で禁酒法下のハーレムのナイトクラブに出入りするようになり、クラブで唄い始める。1933年にコロンビア・レコードのジョン・ハモンドにその才能を見出され、以後、数多くのジャズミュージシャンと共演するようになる。絶頂期にはデューク・エリントンやライオネル・ハンプトン、カウント・ベイシー楽団と共演し、ビリーはニューヨークのジャズスターの一人となっていった。

ビリー・ホリデイ、というと誰もが髪に挿した白いガーディニア(梔子)の花を思い浮かべるだろう。
ビリーは黒人らしからぬ顔立ち。美しく、スタイルも良かった。彼女がステージで着るドレスは彼女の1930〜50年代に亘るジャズシンガー生活を通し、一貫してそのスレンダーな体型をより美しく見せるような、特に上半身にフィットしたローブ・デコルテが多い。髪にはガーディニアの花を飾り、そんな姿がビリー・ホリデイのイメージとして定着している。ガーディニアは彼女が人種差別にプロテストするために意図的に白い花をつけたとか、ショウの出番直前に髪をカールするコテで髪を焦がしてしまい、その時一緒にいたシンガー(カーメン・マクレエという説がある)が、急遽クラブの花売り娘から買ってつけたとかいろんな説があるが、彼女が子供の時の写真を見ると、髪に花をつけていて、単純にガーディニアの花が好きだったのではないか、と察する。

私がビリーのもう一つの側面、彼女のオフ・ステージのファッションセンスの良さに改めて気付かされたのは、20年程前にアメリカの友人が送って来たグリーティングカードにあったビリーの写真からだ。
白いシルクのオープンカラーのシャツにタイトスカートという姿。シャツは上襟、ヨークと袖が身頃と色違いのツートンカラー。一歩間違えれば、どこかの事務員のようなスタイルだが、とても新鮮で素敵だった。
その後、同じ友人から送られて来たカードには、ビリーのシンプルなセーター姿があった。髪はポニーテールにしっかりとまとめ、ノーアクセサリー。1957年にスタジオでカウント・ベイシー楽団と共演している様子を、ベース・プレイヤーのミルト・ヒントンが撮った写真だった。私はこのビリーの写真がとても好きで、今でも手元にある。

カジュアルなシーンに於けるビリーはシンプルなセーターとスカートという、ごくありふれたスタイルが好きだったようだ。特にニットのツイン・セーター姿はよく見かける。
ツイン・セーターとは、半袖、もしくは袖なしセーターにクルーネックかVネックのカーディガンを組み合わせたもの。同素材、同色のアンサンブルが多い。このスタイル、特にビリーの晩年の50年代に多く見られる。
写真もかなり残っているが、1957年のCBSスタジオで録音された<Fine and Mellow>の映像にもにその姿を見ることができる。また、<I Love You Porgy>ではシンプルなニットドレスをノーアクセサリーで着ている。

1950年代は、第2次大戦後、ファッションがオートクチュールからプレタポルテ(既製服)に移行し、カジュアル化していった。それ以前よりも若い世代がファッションリーダーになっていった。
ニットのツイン・セーターも1950年代半ばに登場し、ポピュラーになっていったアイテムだ。
現在も多くの女性の定番必須アイテムとして根強い人気があり、ファスト・ファッションのユニクロでも売られている。ほとんどの女性が持っているだろう。素材もアクリルからウール、カシミアまで。カラーも色々ある。カシミア製ならばノーアクセサリーでも着られるほど存在感のあるアイテムになる。

私はビリー・ホリデイについては、彼女が晩年よく着ていたシンプルなニットセーターがゴージャスなドレス姿よりもさらに彼女を美しく素敵に表現していると思う。特に、ネックホール( 首ぐり)が詰まったクルーネックセーター姿は清楚で知的だ。ネックホールが詰まったというのは、着る人の清楚感を出すポイントでもある。
普段着も含めて、オフの時のファッションはその人の姿がよく見える。そして、服はシンプルであればある程、着る人の内面が出る。

ビリーのシンプルなニット姿を見る度に、なんて素敵なんだろう!といつも思う。『素敵』以上に素敵な言葉はない。時に彼女の人種差別と戦う強い女性であったり、時に男に捨てられて泣き崩れるようなか弱い女性の一人だったり、こちらの気持ちの持ち様で、その時々でビリー・ホリデイから違った印象を受ける。

 

*1957年のCBSスタジオで録音された<Fine and Mellow>

https://www.youtube.com/watch?v=SThGnrorGW8

*<I Love You Porgy>

 

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に2016年から不定期に寄稿。

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