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カンザス・シティの人と音楽 竹村洋子No. 203

40. カンザスシティ・ロイヤルズ 〜 私を野球に連れて行って!

“Kansas City Royals 〜 Take Me Out To The Ball Game” text by Yoko Takemura 竹村洋子

Photo by DJ Sweeney, Christopher Leroy Burnett- American Jazz Museum, Coutesy of Kansas City Royals, The Kansas City Symphony, Kauffman Performing Center of The Arts and Kansas City Star

 

♪2014年、カンザスシティ・ロイヤルズの活躍

カンザスシティ・ロイヤルズが、2014年メジャーリーグベースボール (MLB) で29年ぶりにワールドシリーズ出場を果たした。チームは最終戦で惜しくも破れ、ワールドチャンピオンの座を逃したが、このチームの活躍がこれ程カンザス・シティの人々を熱狂させ、街を活気づかせた事を、シーズン開幕当初に誰が予想しただろうか?

カンザス・シティと言えば、《バーベキュー、ジャズ、野球》の3つが名物と言われている。野球に関して言えば、近年アメリカンフットボールにその人気をすっかり持って行かれている。この街をホームとするロイヤルズも1985年に1度ワールドチャンピオンになったが、その後は長い低迷期にあった。友人達に何人か野球ファンはいるが、話題になる事はあまりなかった。私自身も多少の野球の知識はあるが、特に野球ファンでもなく、このところの日本のプロ野球もMLBにもほとんど興味はなかった。 この9月、チャーリー・パーカー・セレブレーションが終わり一息ついた頃、カンザスの友人、ディーン・ハンプトンが、「僕は野球はそんなに興味はないけど、ロイヤルズが頑張ってるみたいだよ。日本の選手でAiok(とか、なんかそんなスペルだった)っていう、英語は全くダメだけど、凄く優秀な選手がいるみたいだよ!」と言って来た。私はこの時初めて、ロイヤルズが久々に調子が良く、快進撃を続けている事を知った。その頃からフェイスブックでもロイヤルズ関連の投稿が目につき始めた。フェイスブック上の自分のプロフィール写真をロイヤルズのチームロゴに変えたり、「Go Royals!」「I beleive Royals!」とか「Take the Crown!」、また、ロイヤルズをサポートしたりお祈りをしたりする人達が日に日に増えてきた。

MLBはアメリカン・リーグとナショナル・リーグにそれぞれ西部地区、中部地区、東部地区と5チームずつ計30チームあり、ロイヤルズはアメリカン・リーグ中部地区に属する。6月頃まで地区シリーズでもパッとしなかった様だが、8月頃から何故か俄然元気が出てきた様だ。地区シリーズでは優勝出来なかったがワイルドカードを獲得し、9月終わりにリーグ優勝決定シリーズ進出を決めた。その後、リーグ優勝決定シリーズでも勝ち進み、ついに10月21日からのワールドシリーズに29年ぶりの出場に至った。ワールドシリーズの対戦相手はナショナル・リーグの覇者『サンフランシスコ・ジャイアンツ』。過去7回のワールドチャンピオンに輝き、ナショナル・リーグ最多23回のリーグ優勝を成し遂げた、ロイヤルズにとっては超強敵である。

ワールドシリーズ(7回戦制、4勝先勝でワールドチャピオン)の最初の2戦はロイヤルズのホーム、カンザス・シティのカウフマン・スタジアムでロイヤルズ1勝1敗。その後、ジャイアンツのホーム、サンフランシスコのAT&Tスタジアムに移り、ジャイアンツが3勝目を上げ、2勝のロイヤルズはもう後がない状態でホームのカウフマン・スタジアムへ戻って第6戦。この第6戦のカウフマン・スタジアムの熱気は凄まじかった。約3万8千人の観客はほとんどがロイヤルズファン。皆、チームカラーのロイヤルブルーのスエットシャツやパーカを着てロイヤルズコール。観客の声でフィールド上の選手達同志はお互いの声が全く聞こえないだろう、とNHKの解説者が言っていた。チームはホームに戻った勢いで10対0で快勝し、最終の第7戦へ。最終戦ではジャイアンツが7回のワールドピオンに輝いた意地を見せて3対2で勝利した。ロイヤルズは惜しくも1点差でジャイアンツに敗れ、結果的に3勝4敗でチャンピオンの座は逃したものの、過去4年で2度のワールドチャピオンを誇るジャイアンツを追い詰めたシリーズだった。

私は今年のワールドシリーズは他の事をおいてもテレビで観戦しない訳にはいかなかった。何と言っても29年ぶりのロイヤルズの快挙である。カンザス・シティの人達は、野球ファンでなくても《ロイヤルズファン》になり、毎日の話題のほとんどは《ロイヤルズ》。ロイヤルズファンでない人達はカンザス・シティ市民にあらず、といったところだろう。地域と球団がこれ程密接になって盛り上がるのはアメリカならではの事だろう。 29年ぶりの大事に街を上げてのお祭りムードなのは当然。 街はロイヤルズカラー一色。ロイヤルブルーの服を着た人達も、相当数いたようだ。ナイトスポットを始め、人が集まる所はロイヤルブルー(KC Star 誌はエレクトリック・ブルーと表現していた)に変わり、また、ロイヤルブルーにライトアップされた噴水や夜の街はとても美しく、そんな映像や写真をインターネット上で随分見た。 市内を走る観光バスもロイヤルズのイラストにデコレーションされていた。カンザス・シティにはアメリカン・ジャズ・ミュージアム内に『ニグロ・リーグス・ベースボール・ミュージアム(Negro Leagues Baseball Museum)』がある。ここへ観光客を誘致するのにもロイヤルズの活躍は一役買った様だ。

多くの友人達が日本人外野手、青木宣親選手の活躍を誉めたメールを私に送ってきた。私のカンザス贔屓を知る日本の友人達からも随分励まされた。こんな事はそれまでの私の日常にはなかった。 どんなスポーツでも、応援するチームや選手がいるとゲーム観戦が俄然面白くなって来るものである。私もどんどんワールドシリーズにのめり込み、すっかりロイヤルズ熱に冒されてしまった。

♪ Take Me Out To The Ball Game〜私を野球に連れて行って

応援に音楽はつきものだ。 各球団には《非公式の応援歌》があり、それを試合の途中に流す伝統がある。サンフランシスコ・ジャイアンツのホーム、AT&Tスタジアムでは70年代後半にサンフランシスコで結成されたロックグループ、ジャーニーの『Don’t Stop Believin’〜 信じる事をやめないで!』と、ジャイアンツが勝っている時には『Lights』を流す。面白い事に『Don’t Stop 〜』はロイヤルズのファン投票によって、カウフマン・スタジアムの曲にもなっている事を初めて知った。 AT&Tスタジアムのジャイアンツファンが、ジャーニーの『Lights』をスタジアムの大スクリーンに映ったスティーヴ・ペリーの映像と共に大合唱する場面は圧巻だった。相手が敵とは言えとても感動的だった。

You-tubeやフェイスブックにも、楽しい事柄がいくつかあった。 カウフマン・パーフォーミング・センター・オブ・アーツのことは、以前このコラムで紹介した。(http://www.archive.jazztokyo.org/column/takemura/part033.html
カウフマン・センターを設立したカウフマン財団の創始者、アーウィン・カウフマンが、カンザスシティ・ロイヤルズの初代オーナーであり、カウフマン・スタジアムの創設者だ。カウフマン・センターはロイヤルズの親戚の様な存在、ということになる。 このカウフマン・センターで働くスタッフ達が、センター内のヘルズバーグ・ホールでパイプオルガンの演奏をバックにウェイブをしながら、『Take Me Out To The Ball Game 〜 私を野球に連れて行って!』を唄っている映像をYou-Tubeで見つけた。私はすぐにリンクをフェイスブックに投稿したところ、Jazz Tokyoコントリビューターの及川公生さんから瞬時に「あのホールですか?」とコメントを頂いた。「そうです!永田音響設計のカウフマン・センター・フォー・ザ・パフォーミング・アーツです。野球はやっぱりアメリカ。こういうアメリカ人の底抜けの明るさ大好きです!」と私が返す。「どんな状況の録音かは判りませんが、重低音の響きの重厚さにビックリ、いいホールですね。」と、及川さん。「このビデオ・クリップって完成度が高いと思われませんか?映像も音も。」「計算され尽くした演出と、ちゃんと音を捉えていて、機材も相当なモノを使っていると思われます。」と、こんなやり取りをした。以下、そのリンク。

*Kauffman Royals
https://www.youtube.com/watch?v=bSIWi2fyUms

やっぱり、やる事のスケールが違う!とちょっと感心し、数日後フェイスブックをチェックしていたら、さらに楽しいビデオクリップを見つけてしまった。 カウフマン・センターのヘルズバーグ・ホールはカンザス・シティ・シンフォニー(KC シンフォニー)の本拠地である。オーケストラの総ディレクター、マイケル・スターン氏(ヴィオリニスト、アイザック・スターンのご子息)が「へイ、KCスポーツファン!僕達はロイヤルズ・フィーバーにかかっちゃったよ!僕達は29年間これを待ってたんだ!Go ロイヤルズ!」というコメントに続き、オーケストラメンバー達が次々に「Go ロイヤルズ!」のかけ声で登場。KCシンフォニーのオーケストラとコーラス隊が、同じ曲『Take Me Out〜』を演奏し唄っているのだ。 さすがアメリカ!さすがカンザス・シティ!さすがKC シンフォニー!さすがカウフマン・センター!とすっかり嬉しくなった。この映像は何度観ても文句無く楽しい。

*Take Me Out To the Ball Game ~ The Kansas City Symphony
http://www.youtube.com/watch?v=laQt8b1li3o

KC シンフォニーはカウフマン・スタジアムでの第6戦の試合前、素晴らしいアメリカ国歌を演奏していた。マイケル・スターン氏は第6戦の前に、自信たっぷりに『もし、サンフランシスコ・ジャイアンツが最終戦に勝ったら、ジャイアンツのジャージーを着て、次のコンサートに望む!』と、宣言している。その後どうなったか、友人達が知らせてくれることになっているが、まだ返事はない。 KC シンフォニーの演奏ですっかり調子に乗り、きっとこの街のジャズミュージシャン達はクラブで同じ事やっているんじゃないか?と思いサーチした所、ポール・ロバーツ率いるファウンデーション627ビッグバンドもやっていた。

*Take Me Out To The Ball Game – arr Paul Roberts – Foundation 627 Big Band http://www.youtube.com/watch?v=uCNT10lmmKs

地元中堅シンガーのキャサリーン・ホールマンは大の野球好き。彼女は自己のCD にもこの曲を録音しており、クラブのライブでは毎回唄っている。きっとこの頃、街中のミュージシャンが演奏し、唄っていたと想像する。 今さらこの曲の解説も必要ないだろうが、MLBでは試合中7回表の後にこの歌を皆が唄う習わしがある。試合観戦で固まった体を唄いながらストレッチしてほぐす事から、『セブンス・イニング・ストレッチ』と呼ばれる。近年、日本のプロ野球でも演奏される様になり、ポピュラーになって来た。オリジナルは1908年に作られた。1949年の同名のミュージカル映画でフランク・シナトラとジーン・ケリーが唄っている。以下は球場で唄われるパーツの歌詞である。野球の楽しさがこの短いフレーズと歌詞の中に詰まっている。

*Take Me Out To The Ball Game 〜 私を野球に連れて行って(邦題)

作曲:アルバート・フォン・ティルザー
作詞:ジャック・ノーワース
訳:NHK BSより

Take me out to the ball game,
Take me out with the crowd;
Buy me some peanuts and Cracker Jack,
I don’t care if I never get back.

私を野球に連れてって 観客席へ連れてって
ピーナッツとクラッカージャックも買ってね
家に帰れなくったってかまわない

Let me root, root, root for the home team,
If they don’t win, it’s a shame.
For it’s one, two, three strikes, you’re out,
At the old ball game.

さあ地元のチームを応援しよう
勝てないなんて許せない
ワン、ツー、スリーストライクでアウト
それが野球なんだから

♪ ロイヤルズからもらったもの

現地時間の10月29日水曜の夜。今シーズンすべての試合終了後、カンザス・シティの人々はきっと全員がサンフランシスコ・ジャイアンツの勝利を祝福し、ロイヤルズの健闘を讃えて感謝しただろう。と同時に、多くの人達がカンザス・シティ市民である事を誇りに感じたに違いない。

翌30日木曜の朝、カウフマン・スタジアムで催された2014年のシーズン・セレブレーションにも多くのファンが集まっていた。 地元紙KC Starには、『Kansas City and Royals: Not an end, but the beginning of a beutiful friendship(カンザス・シティとロイヤルズ:終わりじゃない、美しい友情の始まり)』という見出しと共にこんな記事があった。(以下抜粋)『球場にいるすべての人は、最初から最後まであり得ない夢物語を信じ続けた。そしてすべての人々は、試合を通じて、結果は単に優勝の王冠を勝ちとる為だけのものではなかった事、気の狂う様な29年ぶりの復帰を成し遂げた事を理解したと思う。どんなスポーツにも勝利は想定されるが、水曜の最後の試合の失望感を除けば、ロイヤルズは昔からのファンにも新しいファンにも勝者の喜びを味わせた。然し、ファンは今や知っている。如何に各選手達がチームを作り上げる為に努力してきたか。ロイヤルズとカンザス・シティはかつてない程密接になった。心臓破りの戦いの後、2014年ロイヤルズシーズンは、美しい友情の始まりに戻った。』

アメリカはワールドシリーズの後、11月4日に中間選挙を控えていた。オバマ大統領の支持率が低迷した先行き不安の中、カンザス・シティがこの1ヶ月、ロイヤルズの驚くべき活躍で大きく湧いた。街には以前にはないエネルギーが溢れていただろう。 私も、友人達とチャットしながら彼らと一緒にリアルタイムでワールドシリーズをTV観戦し、とても楽しかった。 一つ一つの試合運びの面白さに加え、数々のドラマがあった。MLBの選手達の名前も随分覚えた。 野球はアメリカ合衆国発祥のアメリカ国技ーアメリカが生み出した最高のエンターテイメントの一つである事を再確認した。

今頃になり、野球ってこんなに楽しかったかな〜、と思う。一昨年カンザス・シティに滞在した時に、友人のベテランシンガー、キャロル・コマーに「ロイヤルズの試合のチケットがあるけど、行かない?試合後の選手との交流パーティのチケット付よ!」と誘われたが、「No, thank you!」とあっさり断わり、キャロルをがっかりさせてしまった。あの時行ってたら良かったなぁ・・・!今度カンザス・シティに行ったら、誰か私を野球に連れて行ってくれないかしら!? カンザス・シティでは、まだまだ当分ロイヤルズ・フィーバーは続きそうだ。 (11月5日記)

*関連リンク

カンザスシティ・ロイヤルズ
http://kansascity.royals.mlb.com/index.jsp?c_id=kc

ニグロ・リーグス・ベースボール・ミュージアム
http://www.nlbm.com

https://www.youtube.com/watch?v=dejm8vJ2pUA

キャサリーン・ホールマン
http://www.kathleenholeman.com

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に2016年から不定期に寄稿。

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