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小野健彦の Live after LiveNo. 308

小野健彦のLive after Live #361~#367

text & photo by Takehiko Ono 小野健彦

#361 10月5日(木)
合羽橋 なってるハウス
https://knuttelhouse.com/
山崎比呂志 (ds)  加藤崇之 (g) duo

合羽橋なってるハウスにて、山崎比呂志氏(DS)と加藤崇之氏(G)のDUOを聴いた。
今夜は本来であれば、山崎氏が井野信義氏と共に鋭意協働中のTRY ANGLEに加藤氏がゲストとして招聘されていたのだが、井野氏が欠席となったため、山崎vs加藤の珍しいDUOが実現したという次第。山崎•加藤両氏の共演と言えば、井野氏も一部に参加したTBMレーベルの『GUITAR STANDARDS』を始めいくつかの音源制作があり、一方でライブの現場では、(私の接した範囲では)未だ記憶に新しい’21/6の高柳昌行氏没後30年に際した「いくつもの自転するものたちvol.2」や、目下継続活動中のOLQ(永田利樹氏 近藤直司氏との協働)があり、それらも含めて醸成された互いに対する深い敬意と信頼に基づく長年に亘る数々の創造的な関わりがあるものの、完全なるDUO公演はレアであり、それだけにこちらの期待もおおいに膨らんだ。果たして定刻19:30からややあって音が出た先ずは1stセット。始まりは静かに入った。山崎氏の小振りなお椀型のハイハットによる高音の凛とした響きが場内に鳴り響くと、すかさず加藤氏の右手がエフェクタースイッチにのびエレクトリックギターが一声いなないた。その後も加藤氏はエフェクターを効果的に使いスペイシーな音の連なりを描いて行ったが、それは私にはさながら抽象的な線描画の様相を感じさせた。一方で山崎氏は硬い打点のドラミングを中心に時にカウベルやマラカスを使いながらパーカッシブなアプローチで応えたが、こちらはいわば具象的な点描画を思わせる音像を描いたと言える。そんなふたりの抽象と具象が交錯する語らいも時の移ろひと共に次第に熱を帯びてくると特に山﨑氏の手数は次第に増して行ったがそのタッチはあくまでも至極デリケートなものであり、そこではギターサウンドの輪郭をより際立たせることに意識が注力されているように私には感じられた。さて、続いては短い休憩の後の2ndセット。こちらもきっかけは山崎氏からであったが、繰り出したのはなんとブラシによる緩やかな4ビートだった。そんな山崎氏に何か意図があったのかは知る由もないが、ひょっとするとオーソドックスを指向したかと思わせるその誘い水?に対しても加藤氏は現在の在り様を貫き毅然としてエフェクト効果抜群の抽象的なエレクトリックギターサウンドを一部鳴り物も駆使しながら展開して行った。そんな両者にとって気の畝りが次第に抗い難い局面に転じるに及ぶと、必然的に稀代のインプロヴィゼイション/フリーフォームジャズの表現者としての所作の数々を如何なく発揮して激烈の剣ヶ峰へと突き進んで行った様はいかんせん刺激的で説得力に満ち溢れた趣きを帯びることとなった。今宵のステージに接していておふたりの奏でる音の連なりはいかなる局面においても決して一本調子になることがなく、終始カラフルで緩急の自在に富んだ点は流石熟達者のなせる手際の良さと言えた。そうして、これ以上ない程の弱音の二拍子が消え去った後で我々の瞼に強く焼き付いたのは鮮烈な二幅対の画(線描画と点描画)だったと強く感じている。

最後に、終演に際しての最後の山崎氏のMCがふるっていたのでご紹介したいと思う。

「今夜は、じっくり聴いてくれてありがとうございました。井野君が来られなかったことは残念でしたが、その分、ふたりで出来ることをじっくりやらせて貰いました。」今夜はまさにこの一言に尽きるものだったと言えた。


#362 10月7日(土)

稲毛 CANDY
http://blog.livedoor.jp/jazzspotcandy/
森田修史4:森田修史 (ts) 小山道之 (g) 岩見継吾 (b) 小松伸之 (ds)

稲毛CANDYにて森田修史4を聴いた。
森田修史(TS)小山道之(G) 岩見継吾(B)小松伸之(DS)

実は今宵は各所にて気になるプログラムが重なったが、其々が現在脂の乗り切った次代を担う中堅実力者達が奏でるアンサンブルにじっくりと接したいとの想いから、遠路ここ稲毛を目指したという次第である。

果たして、C. ジョーダン作〈bear cat〉で幕開けした今日のステージでは、P.マルティーノ、(デンマークのベーシスト)T. フォネスベックに加えF. マシャード、(グランジロックの)J. パーカーや(ピアニスト)A. パークス作品等の中に森田氏のオリジナル数曲を効果的に織り込んだ意欲的なプログラム全10曲が披露されたが、全編に亘り目下自らのユニットを始めとして村上寛GやSOULSTATION(吉木稔氏  祖田修氏との協働)、更には各種セッションに引っ張りだこで今や創造性の沸点を迎えていると感じられる森田氏の奔放さと艶気を兼ね備えた独創的なブローと強いリーダーシップが効いて、バンド全体は終始締まりがあり且つ広がりと柔軟性のあるサウンドの中にあって折り目正しい音を紡いで行ったと言える。そうして忘れてはならないのは、いかなる局面においても、メンバー全員がその薫陶を受けた故鈴木勲氏が生涯貫いた心踊らされる「ウタゴコロ」が横溢していた点だろうと思う。



#363 10月8日(日)

渋谷・公園通りクラシックス
http://koendoriclassics.com/
藤井郷子『Duo vol.2』:藤井郷子 (p) 林頼我 (ds)

渋谷•公園通りクラシックスのマチネ公演にて、藤井郷子氏の『Duo vol.2』を聴いた。
藤井郷子(P) 林頼我(DS)

郷子さんにとっては当年9月、神戸に於ける小埜涼子氏(AS)との共演に続くこのシリーズの第二弾となった今回、頼我君の当公演に向けたSNSには「長めのワンセットを予定しています」の前口上が踊ったが、結果的には、このサイズ感が功を奏した様に思う。ステージは、間に郷子さんのごく短めのMCを挟み、1stムーブメント約40分、続く2ndムーブメント約10分にて構成されたが、インターバルを入れなかった分だけ、全体がひとつの物語りとして両者の間に濃密な音の交歓が生まれていったと私には感じられた。

サイズの差こそあれ、今日のステージでは全編に亘り郷子さんによる繊細且つ強靭なパーカッシヴアプローチが冴え渡り、楽器編成的にはピアノとドラムスのDUOではあるものの、それはさながら打楽器奏者ふたりによる響宴の様相を呈していった。今日、おふたりの音創りを聴いていて、私が特に強く強く印象に残ったのは、ダイナミクスに対する配慮と音場を塗り込む密度とでも言えるものであったが、前者について言えば、「打は打」、「間は間」といったように、自らの前に訪れた局面に対して鮮やかに過ぎる心遣いを施した点であり、後者は、それらの局面に対して各々が如何にも相応しい音数をもって処したということである。ふたりは「打」の局面においては水も漏らさぬきめの細やかさで、一方で「間」の局面では、その「間」を徒に性急に音で埋めようとは決してしなかった。

共に自らのアイデアの限りを尽くして、ある意味でかなり生々しく相対したふたりから発せられた音の連なりが生み出した(良い意味での)狂騒と静寂の小気味の良いバランスが互いの主張をより際立たせたことが何よりも心地良かった。肌寒さも増した秋の入り口の昼日向に咲いた小一時間の幸せ過ぎるランドスケープ、堪能させて頂きました。



#364 10月14日(土)

町田 INTO the BLUE
http://intotheblue.info/
増尾好秋オルガントリオ: 増尾好秋 (g) 金子雄太 (org) 奥平真吾 (ds)

今宵は、凡そ一年振り二回目の訪問となった町田INTO the BLUEにて、一昨日10/12にめでたく喜寿の誕生日を迎えられた増尾好秋氏のオルガントリオを聴いた。増尾好秋(G)金子雄太(ORG)奥平真吾(DS)

私自身増尾氏のナマに触れるのは約二年半振り三回目であったが、ステージ全般を通して、変わらず溢れ出す様な愛情に満ち溢れた流麗な音の連なりを描いて行った姿が特に印象的だった。聞けばこのトリオは結成から3年であり、増尾氏の帰日の機会をとらえこれまでに約10回程の協働を経て来たとのことであったが、今日のステージを聴いていて私にはまるでパーマネントバンドの様なまとまりの良さを感じさせてくれた。私にとっては今宵がお初となった金子氏は、意外に控えめなそれでいて恐らく氏にとっては必要充分な音数の中にあっても際立った説得力を。奥平氏は的確で繊細かつ時に大胆なタッチから生み出される絶妙なニュアンスを其々維持しながら各人にとっての絶好のポジョニングを終始ブラすことなくバンマスを鼓舞し手堅く支えていった点はおおいに好感の持てるものだった。

今宵のトリオから受けた、殊更にこれ見よがしなグルーヴを求めることなく、どこまでもメロディアスにサウンドすることに徹していると感じられたその姿は実に爽快で痛快なものだった。

#365 11月2日(木)
江古田 Buddy
https://buddy-tokyo.com/
Satoko Fujii Quartet:藤井郷子 (p) 田村夏樹 (tp) 早川岳晴(b/voice)吉田達也 (ds/voice)

今宵は凡そ20年振り2度目の訪問となった江古田BUddyにて蘇る獅子:Satoko Fujii Quartetを聴いた。
藤井郷子(P)田村夏樹(TP)早川岳晴(B/voice)吉田達也(DS/voice)

’96のCDデビュー以来リーダー作だけで脅威の103作を数え、ライブ活動においても直近の10〜11月だけをみても国内の東へ西へと各種プロジェクトを携え赴き、且つ更には海を渡りフランス各所を巡る旅も計画されているなど、最早創造性の異様な昂まりを見せていると感じられる郷子さんにとって今宵のユニットには強い想い入れがあることはライブフライヤーからも強く感じられた。詳細は添付写真をご覧頂くとして、先ずは以下にその文言を引用したいと思う。曰く「2008年迄の活動を休止してから15年間の沈黙。2023年1月に再演後7月には充実の日本ツア-。(中略)そうして新曲を書き下ろしての来年の新録を見据えたライブ。年齢を重ねて更に熱く厚く深く。熟成発酵のサウンドです。」と。

果たして定刻19:30に幕開けしたステージは、各セットの最終曲に旧作を配置しつつ、(1st:〈junction〉2nd:〈an alligator in your wallet〉)前口上の通り新曲を中心とした凡そ10編の楽曲が披露される構成が採られた訳であるが、全般的に感じられたのはカラフルなテンポ設定の中にあって哀切からハードボイルドに亘る多種多彩な抒情を巧みに織り込みながらスピードとダイナミクスの両面で均整のとれた決して破綻に陥らない清冽で秩序のある音の流れが如何にもデリケートにキープされたことであった。其々に卓越した表現者四人がサウンドの層とタイム感の中で絶妙に揺蕩う在り様は、建築に例えるならば、意匠より構造に対する深い配慮を効かせたものとして私の脳裏に強い印象を刻んでいった。

既にこのユニットが更に熟成を重ねその成果を新たなる盤に結実させる日が待ち遠しい。

最後に、ライブの現場とは全く関係ないが、私のライブレポには度々登場させる夕飯の一コマをひとくさり。ライブ前には久しぶりの江古田の街散策を兼ねてハコの近くの路地を歩いていると気になる暖簾と看板が目に止まった。焼き鳥屋ではあるが、鰻も海鮮も扱うらしい。早速入店して聞けば、この地にあって創業60年だという。その「鳥忠」にて、いずれも好物の鮪のぬた.鰻の肝串、焼き鳥、銀杏揚げ等でライブ前の勢いをつけたのはいうまでもない。

#366 11月4日(土)
下北沢 APOLLO
https://www.apollonoise.com/
Tone Momentum:津上研太 (as) 小林洋子 (p) 秋元修 (ds) &ゲスト:秋元修

下北沢APOLLOにて、Tone Momentum&ゲスト:秋元修を聴いた。
津上研太(AS)小林洋子(P)秋元修(DS)

洋子さん曰く、「進化し続け三年半、自身の現在の指針となっているような、描く音楽の軸となっているような気がするユニット」であり(双頭であることもその理由のひとつとして)自分にとってはある意味特に難しいDUO編成に、B)小美濃悠太氏を交えたピアノトリオ:OEN Org.でも協働する秋元氏を招いた(津上秋本両氏は「サンニン」でも協働中)今宵の編成は10/14に続いて早くも二回目の顔合わせとなった訳であるが、その様なかなり短いスパンでの再演と個々の協働の結び付きの強さを反映させてか、三者は約2時間のステージを通して意欲的且つ柔軟で融和性に満ち溢れた木目の細かいカラフルな音のタペストリーを描いて行った。今宵披露された楽曲はC. ヘイデン作〈ellen david〉とアンコールに応えたスタンダード〈moon river〉を含めメンバーのオリジナルを中心とした全11曲に及んだが、その多くが思索的で穏やかな導入部を持ちつつも時の経過による三者の気の畝りと共に解き放たれた伸びやかな飛翔を遂げて行く様が印象的だった。何の気負いも感じさせず自発的にドラマティック(時にはかなりアグレッシブ)な展開に転じるスリリングな躍動感が清々しい現場だったと今振り返り強く感じている。

#367 11月5日(日)
豊島区立目白庭園赤鳥庵和室
https://mejiro-garden.com/
「韓絃楽・滅紫月 vol.33」張理香

三年振り三度目の訪問となった豊島区立目白庭園赤鳥庵和室にて開催された張理香さんによる「韓絃楽・滅紫月〈けしむらさきのつき〉vol.33」公演を聴いた。
張理香(伽耶琴〈カヤグム〉玄琴〈コムンゴ〉、)

私自身、理香さんの演奏に触れるのは長唄唄方・塩原庭村氏の自主公演も含め今回が五回目となったが、今宵もその張り詰めた緊張感の中にあって生み出される音の連なりにより表出される屹立した気高い意志に心強く打たれることとなった。

当夜披露された楽曲の詳細と出自等については添付写真の公演リーフレットをご覧頂くとして、今宵は一部に玄琴、二部には伽耶琴と其々に風合いの異なる印象を持つ二種の楽器を一夜にして味わえたことで韓国伝統音楽の深みと拡がりをより効果的に体感出来たと感じている。全体は幾つかのパートに分かれつつも、野趣味溢れる玄琴と、対して柔らかな優雅さを感じさせる伽耶琴の響きが一夜の中でこちら聴き人の中でミックスされて、それはまるで山麓から一滴湧き出した水の結晶が数々のドラマティックな局面を経つつ大河となって大海に注がれる壮大な一巻の音絵巻を想起させられることとなった。

まあ、それらはそうとして、その音の流れの中にあって特に印象的だったのは伽耶琴パートにおける理香さんの左手の所作であった。

「ノヒョン」と呼ばれるこの独特なビブラートこそ伽耶琴演奏において演者の真価が問われる真骨頂であると今日改めて思い知らされた次第である。そのノヒョンが生み出す深い余韻はそれ自身「間」でありつつ演者の呼吸感と絶妙に相まってメロディの一部にも変容を遂げながら壮麗なる世界観(ここでは宇宙観と表現したほうがより適切か)の創出に大きく寄与していたと強く感じた。

いずれにせよ、間に15分の休憩を挟んだ約1時間のステージ、戸外の漆黒の闇と一体化した暗転した場内のそこだけが照明に照らし出された幻想的な雰囲気の中、独り舞台にあって其々の楽曲と、そうして自分自身と対峙した理香さんの音創りがこちらの耳目を片時も捕えて離さない充実に過ぎる現場だった。

※尚、今日の公演は写真撮影が不可であったため、理香さんの写真は滅紫月のHPよりご本人の許諾を得て添付させて頂きました。

因みに今夜の理香さんの衣装(チマチョゴリ)は、以下でした。

・一部→上:白、下:ロシアンブルー、・二部→上:生成、下:水浅葱色

 

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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