Live Evil #37 クリスチャン・ランダル・ソロ@新宿Pit Inn
text & photo by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
2018.9.9 (日)15:00~ 新宿ピットイン
発売まもない新作『Absence』(ECM2586)を試聴し、楽しみに日曜日のマチネに出かけたのだがソロとはいえやや肩透かしを喰った演奏が展開された。ECMのレーベル・デビューとなった『Absence』は、ECMからもリーダー作がリリースされているNY出身のギタリスト、ベン・モンダーとフィンランドのドラマー、マルク・オウナスカリのトリオ。ランダルのオリジナル楽曲がベテラン・モンダー (1962~) の表に出たり裏に回ったりの巧みな立ち回りとプロデューサー、マンフレート・アイヒャーの見事な手綱さばきにより変化に富んだコンテンポラリー味を効かせたジャズ・ピアノ・トリオ・アルバムに仕立てられている。加えて、最近絶好調のペルヌ=レ=フォンテーヌ(フランス)、スタジオ・ラ・ビソンヌのエンジニア、ジェラール・デ・アルホが水も滴るような耽美な世界を創り上げている。
そんな甘美な酔いから現実の世界に連れ戻してくれたのがその日のクリスチャン・ランドルのソロだった。彼は何度か曲目紹介でエストニアのフォーク・ミュージックに想を得た古い作品であることを告げた。左手で繰り返されるアルペシオからそっと顔を覗かすようなシンプルなメロディ。原題をエストニア語で告げてから英語に訳してみせた。エストニアで純粋培養されたピアニストかと勘違いするようなジャズの語法とは縁遠い演奏だったが、彼は少年の頃ドイツに移住、ロンドンやニューヨークの音楽学校で学んでいることを知ると、どうやら今回は「エストニア建国100周年記念」の派遣ピアニストであることを強く意識していたようだ。プロフィールではエストニアの現代音楽の
作曲家エルキ・スヴェン・トゥールとトゥヌ・クルヴィッツ(共に、ECMで作品を発表)メンターとして挙げている。早々にエストニアを離れたものの当然のこととはいえアイデンティティとしてはしっかりエストニアンなのだ。
エストニアといえば、僕らの頭にまず浮かぶのは現代音楽の作曲家アルヴォ・ペルトだ。ECMが創立25周年を記念したスタートさせた記譜された音楽のための「New Series」の看板スターである。ECMデビュー作の『タブラ・ラサ』(ECM1275NS)がたちまちクラシック音楽の世界を席巻。何度か来日も果たし、2014年には高松宮殿下記念世界文化賞を受賞している。
ジャズの世界では、NYからエストニアに移住したギターの川崎 燎が昨年エストニアのバンドを引き連れ帰国、丸の内のコットンクラブで演奏している。
川崎 燎インタヴュー;
https://jazztokyo.org/interviews/post-12996/
https://jazztokyo.org/interviews/post-14066/