#012 「織茂サブ/地無し尺八ソロライヴ」
2014.12.07@鎌倉「onariya」
text & photo: 稲岡邦弥 Kenny Inaoka
2年ほど前、織茂サブのアルバム『鎌倉十二所』を耳にする機会があり、その独特の音色と音楽に興味を持ち、直接本人に質問をぶつけたことがある。織茂の音色はいままで聴いてきたどの尺八ともまず音色が違っていた。古くは海童道祖(わたつみ・どうそ)、横山勝也、山本邦山から近年では田辺頌山(たなべ・しょうざん)、ごく最近では“野性尺八”を名乗る大由鬼山まで。当時織茂はまだ30代前半の青年で、すでに一家を成した大師範クラスとは違って当然なのだが、僕の疑問は、彼が手製の竹を吹いているという答えで氷解した。
「onariya」はJR鎌倉駅を出て御成り通りを左へ10メートルも行ったところにある小さなカフェ。店の奥が裁ち落としの竹の葉やもみじ、南天などで里山の風情を醸し出していたが、これは庭師でもある織茂のアイディアだという。なるほど、テーブルの上に置かれた数本の尺八はどれも切り出した尺八に穴を開けただけのような地無し尺八。そのうちの1本は黒く変色している。海岸で拾った流木ならぬ“流竹”? 一部ひびが入っており限られた音域で短い曲が息を潜めて演奏された。解説によると、地無し尺八とは節を抜いただけで漆なども塗らず、いわば素のままの竹をいう。音程は竹任せではなく、奏者が竹の素性を見抜いて微妙に調整する。自然農法に興味を持ち庭師を生業とする織茂が地無し尺八を選んだのは当然と言えるかも知れない。織茂の演奏はどれも静かで鎌倉の古刹の竹林を渡る風の如し。大地と自然と共存する織茂ならではの境地である。自作曲と思いのままに吹くインプロヴィゼーションを織り交ぜてのプログラム。まさに禅の鎌倉を象徴する音色で、いつかは自分でも手にしてみたいと思わせる枯れた優しさではあった。
(初出:2015年1月27日 JT#204)