Live Evil #48『アノード・カソード』再発記念イベント
text & photos by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
2024年2月11日(日・祝)15:30~
下北沢 Bonus Track「Pianola Records」
金野 Onnyk 吉晃 (sopranosax, flute, 口琴)
剛田 武 (flute, toy recorder)
Mark Grusane (DJ)
JazzTokyoの至宝ふたりの共演を直前に知らされ建国記念日の午後下北沢へ足を向けた。ネットで検索したところ目的地は小田急線の「世田谷代田」と「下北沢」駅のほぼ中間に位置することが分かり、地元の「読売ランド前」から乗車、手前の「世田谷代田」で降り、徒歩で向かうことにする。「世田谷代田」駅の東口は小さな木立を想定した雰囲気の中にあり人工的とはいえ勝手に「世田谷らしい」なと納得する。遊歩道のような小路を歩いていくうちに「下北沢」駅に着いてしまう。両駅の隔たりを掴んだ上で中間点を目指して今来た道を引き返すと、賑わいが増した地点で目指す「Bonus Track」の看板が目に入る。「Bonus Track」はいわゆる “コンプレックス”と言われる複合施設で時間が許せば冷やかしが楽しそうな“クセ”のありそうな店が入居している。たどり着いた「Pianola Records」はすでに店外にまで人が溢れている。人並みの隙間から店内を覗くと、金野onnyk吉晃と剛田武のふたりが和気藹々と談笑中。初対面のはずだが “地下水脈”で通じ合っているのだろう。漏れ伝わってきたフレーズは、Onnykの「エヴァン・パーカーが盛岡に来たとき、300人の聴衆が集まり驚いた」だけ。テーマの『アノード・カソード』については門外漢の僕には手が負えず “戦友”の剛田武がCDレヴューとして謎解きに挑戦する予定なのでそちらを参照願いたい。僕は編集者として至宝の共演を見届けに来た存在に過ぎない。
Onnykの口琴演奏に導かれてリスナーが店内に入場する。スタンディングで十数人も入れば定員だろうか。トークと違って楽器の演奏は店の外でも充分音が届く。事実、足を止めて耳を傾ける歩行者も少なくない。折りしも「下北沢演劇祭」を開催中とのことで界隈に人出が多い。Onnykのソプラノ・ソロが終わりフルートに持ち替えたところで、剛田のフルートが加わる。もちろん流れはすべて即興である。二人の後ろにDJのマークが参加、トリオの演奏となる。アメリカのNPR (National Public Radio) で時折り 「Tiny Desk Concerts」を放映しているが、まさしく in-store live の雰囲気。但し、NPRの場合は演奏を収録してアーカイヴとして放映している。店頭のリスナーだけに聴かせるだけでは勿体無い。世界中のリスナーがアクセス可能なのだ。やがて、Onnykがフルートをサックスに変身させ、トリオの色が変わる。フルートの開口部にサックスのマウスピースを装着したのだ。マルチ・インストゥメンタリストで手製の楽器も創作するというOnnykの片鱗を見せたというところだろうか。いつもはネット・メディアを中心に情報を発信しているふたりが、リアルに音を出した。盛岡から駆けつけたOnnykから、「危篤だった義母が翌朝息を引き取った。上京を躊躇する自分の背中を妻が押してくれた」というメールが翌日届いた。久しぶりに再会したOnnykとは祝杯を交わすまもなく別れた。祝杯は5月の防府での「金大煥追悼コンサート」までお預けだ。