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No. 216Reflection of Music 横井一江

Reflection of Muisc vol.45 (Extra) ウォルフガング・フックス

King Übü Örchestrü

ウォルフガング・フックス@トータル・ミュージック・ミーティング2003
WolfgangFuchs @Total Music Meeting 2003
Photo & text by Kazue Yokoi 横井一江

 

即興音楽シーンで活躍していたウォルフガング・フックスが、2月3日心臓発作で亡くなった。

ウォルフガング・フックスはコントラバス・クラリネット、バスクラリネット、ソプラニーノ・サックスを吹く管楽器奏者で、1970年代半ばベルリンに移住してから、スヴェン・オキ・ヨハンソン、ポール・リットン、フィル・ヴァックスマン、ラドゥ・マルファッティ、フレッド・ヴァン・ホーフなどのミュージシャンと共演する他、ハンス・コッホとペーター・ヴァン・ベルゲンでコントラバス・クラリネット・トリオを結成、ブッチ・モリスのコンダクション、セシル・テイラーのワークショップ・アンサンブルにも参加するなど即興音楽シーンで活躍。近年の代表的なプロジェクトにはシュ・フェンシアとロジャー・ターナーとの「ニュー・フラッグス」が挙げられる。また、他の芸術分野との様々なマルチメディア・プロジェクトにも参加、2001年からはFMP主催のトータル・ミュージック・ミーティング(TMM)の音楽監督も務めた。フックスが音楽監督を引き継いだ今世紀初頭は、新しい即興世代を指してベルリン・リダクショニストとかニュー・ロンドン・サイレンスなどの言葉が使われ始めた頃だ。フックスによるプログラミングは、旧来のFMP仲間だけではなく、ベテランから若手まで、バックグラウンドの違いを超えて、より広い視野で即興音楽シーンを捉えようとしていたように思う。ただし、時代性の違いや財政面の問題もあってか、TMMの規模も縮小し、2008年が最後となったのは残念である。彼自身の演奏もステレオタイプの即興演奏の概念にとらわれない開かれた感性を感じさせるものだった。

多彩なフックスの活動の中で、特筆すべきは1983年に結成したキング・ユビュ・オーケストラだ。キング・ユビュというオーケストラ名はアルフレッド・ジャリの戯曲『ユビュ王』のタイトルからとられたもの。断続的な活動だったが、20年に亘ってこの即興オーケストラが続いたのは奇跡的である。私は運良くその20周年のステージを観ることができた。ヴァン・ベルゲン、マルファッティ、ヴァックスマン、リットンなど長年共演してきたコアなメンバーを中心とした演奏家に、ゲストとしてボリス・アルジノヴィック(俳優)、フィル・ミントン(ヴォイス)、イレーナ・バート・グレイナー(ソプラノ歌手)と3人のヴォイスを加えた構成だった。劇に倣って導入文の朗読、続いて「シャイゼ!(くそったれ!)」という言葉でステージが始まる。弧を描くように並んだミュージシャンが、入れ替わり、立ち替わり、パタフィジカルな即興演奏が展開。3人のヴォイスが加わっていたためか、音楽による即興劇という印象が残った稀に見るステージだった。写真はその時に撮影したもの。左端にいるのがフックスである。

近年は彼の演奏活動について耳にすることがなく、体調も思わしくないということは人づてに聞いていたが、突然の訃報には寂しいものがある。1949年生まれ、享年66。

King Übü Örchestrü

 

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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