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特集『ECM: 私の1枚』

うめもと實『Sinikka Langeland / The half-finished heaven』
『シニッカ・ランゲラン/ザ・ハーフ=フィニッシュト・ヘヴン』

最初に断っておくが、俺は普段、楽しみとしてのレコードやCDはあまり聴かない。

それどころか俺がレコードをむさぼり聴いたのは高校1年生の頃がピークである。

2年生になった頃には音楽部の練習と演奏会、それと並行して音大受験の為のレッスンや個人練習、そして副科のピアノを懸命にやっていたからなかなかレコードを聴く時間もなくなっていた。
結果、楽しみでレコードを聴くような時間の余裕があったのは高校1年生頃が最後だ。

そして、桐朋音大生の頃はもっぱら自分たちの演奏に明け暮れていた。

そんな生活はその後のドイツに行ってからも続いた。聴いたり観たりしていたのは生のコンサートやオペラの舞台ばかりだった。

この稿はECMの話をしようとしている。

例のキースの『ケルン・コンサート』は1975年録音と記録にある。それは俺がちょうどケルン音大にいた頃のことだ。いま思えば歴史的なチャンスだったのに立ち会えなかった。同じ街にいたのに残念だった。

今、俺は「横浜エアジン」の店主をしている。創業者の兄が交通事故で亡くなり、エアジンを引き継いだのは1980年初頭のことだ。この引き継いだエアジンはライブ専門店なのでLPを楽しみの来客は居ない、はずだ。生演奏を楽しみに来店している、はずだ。

いきおい、ライブ前や休憩時間のBGMは不必要なのだが、時には店内の緊張をほぐすためのCDを流す時がある。
そう、そんな時にはECMレーベルからのセレクションが多い。
やはり、あのゆったりとしたECMサウンドは聴く人の心をゆっくりと解放してくれる。

エアジンは海外からのミュージシャンの出演も多い。その中にはECMアーティストも多く含まれている。時に彼らはサウンドエンジニアを同行してくる場合もある。こんな時にはあのECMサウンドの秘密を見ることができる。低音をバッサリとカットしたり、高音の微妙なバランス作りなど、PA卓のツマミを調整する指先を見てるだけでも楽しくなる。
ともかく気持ち良いくらい音作りは潔(いさぎよ)いのだ。これはエアジンも大いに参考にさせて貰っている。

さて、「私の選ぶECMこの1枚」だがこんなテーマは誰でも困惑するに違いない。
そんなことは無理に決まっている。目をつぶってどんな1枚を引き抜いてもそこからは素晴らしい音楽が流れてくるからだ。

今回、目をつぶって引き抜いた1枚はSinikka LangelandのCDだ。エアジンでライブをした時にプレゼントされた時の1枚。北欧の民族音楽とクラシックとジャズが融合された暖かく深い音楽は聴く者をゆっくりと異国の世界へと誘ってくれる。

どうだ、この一枚。
Sinikka Langeland(カンテレ/歌)
『The half-finished heaven』 (ECM2377)

横浜エアジン店主
うめもと實 。 2023.3.3.


ECM 2377

Sinikka Langeland (kantele, vocals)
Lars Anders Tomter (viola)
Trygve Seim (tenor saxophone)
Markku Ounaskari (percussion)

Recorded January 2013 at Rainbow Studio, Oslo
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Produced by Manfred Eicher


うめもと實 うめもとみのる
横浜エアジン店主。藤沢市生まれ。逗子開成学園、桐朋音大を経て新日本フィルやN響などで活躍後、ドイツ・ケルン音大へ留学。専攻はトランペット。現代音楽祭、教会などでの演奏の他キッシンゲン(ドイツ)オーケストラの首席奏者として活動。’80年初頭の帰国。横浜エアジンの創業者である義兄の死去によりエアジンを引き継ぎ、横浜本牧ジャズ祭や横浜ジャズプロムナードなど多くのイベントの立ち上げに参加。NYジャズ祭やパリ、ローマなど海外でのプロデュースも多い。また、横浜エアジンを拠点に『バッハ祭り<春><夏>』や『横浜国際なんでも音楽祭<春><秋>』などユニークな音楽祭のプロデュースや海外ミュージシャンの招聘も積極的にしている。横浜エアジン公式ウェブサイト

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