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特集『ECM: 私の1枚』

工藤 遥『Eleni Karaindrou / Eternity And A Day』
『エレニ・カラインドルー/永遠と一日』

マイ・フェイヴァリット・ECMを1枚選ぶとなると難しい。これがFMPとかICPとかINCUSとかFUTURAであればわりとすんなり選べそうな気もするが、どういうわけかECMは難しい。何か1枚選ぶと全く別の1枚が脳裏にチラつく。

そんな言い訳にすらなっていない前置きをしたところで、言わずと知れたテオ・アンゲロプロスの映画『永遠と一日』サウンドトラックである。ギリシャの作曲家エレニ・カラインドルーのECM作品としては4作目。ECMのレコード番号でいうと1692番。つまりだいたい692作目ということになるが、ECMは1275番、つまりだいたい275作目あたりからいわゆる現代音楽に焦点を当てた「ニュー・シリーズ」に力を入れ始めていて、それが1984年のこと。1692番は1998年であり、すでにニュー・シリーズもかなりの蓄積がある頃だ。
自分の中でのECMのイメージを決定づけたのは、このアンゲロプロスとカラインドルーのタッグに他ならない。一昔前なら、ジャズ好きが高じてECMを聴いている人、あるいはFMPとかICPとかINCUSとかFUTURAと同じようにフリージャズ・即興音楽のレーベルとしてECMを捉えている人が大半だったかもしれない。しかしすでに21世紀になってから不意にECMという巨大なアーカイヴに出会った者にとって、ECMは決してジャズのレーベルではなかった。手始めに過去から何をピックアップするかでイメージが決まる。自分にとってはポール・ブレイとデレク・ベイリーとエレニ・カラインドルーだった、というだけの話だ。もちろん、このイメージはすぐに更新され破壊され一新されていくのだが、それはまた全く別の1枚の話である。


ECM 1692

Eleni Karaindrou
Eternity And A Day- Film By Theo Angelopoulos

Recorded March-April 1998, Athens Concert Hall
Produced by Manfred Eicher


工藤 遥 くどう はるか
1986年生まれ。首都大学東京(現・東京都立大学)にて経済学を専攻後、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了(音楽文化学)。音楽をテーマにした出版会社カンパニー社代表。​​CDやレコード、本などを扱うオンラインショップ「p.minor」運営。訳書にジョン・コルベット『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』。 http://companysha.com/

 

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