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Jazz and Far Beyond

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特集『私のジャズ事始』

イパネマの娘  高橋正廣

Jazz Tokyo 20周年、誠におめでとうございます。稲岡編集長との思いがけないご縁で最近執筆者の末席に加えて頂きましたことは50年以上Jazzを聴き続けてきた筆者にとって大変刺激的な体験となっています。改めて稲岡編集長にお礼申し上げます。

さて「私のジャズ事始」を書けとの稲岡編集長からのご依頼。これと言った目的も将来の希望もなく、ただ地元というだけで入った大学時代は正に”モラトリアムの時代”そのものでした。そんな中で就職先を決めなければならない時期が迫ってきたとき、頭に浮かんだのがレコード会社に入ってJazzのレコードの制作を遣りたいということでした。今考えれば余りにも世間知らずで無謀な妄想に過ぎなかったと冷や汗ものですが、知り合いにトリオ株式会社(現JVCケンウッド)の仙台営業所勤務の社員の方がおられ、その方の紹介という形で同社を受験しました。同級生たちの殆どが金融機関や公務員志望の中で新興のオーディオ・メーカーを希望したのは恐らく筆者だけだったと思います。トリオに入社した文系の新入社員の殆どがレコード事業部志望だったと聞かされたのは入社後暫くたってからのことでした。入社後は希望叶わず、ステレオの販売部門へ配属され、その後はレコード事業部との接点もなく定年まで過ごすことになったものの、Jazzとの付き合いは一度も途切れることなく続いています。(後に知ることですが、稲岡氏は筆者の入社4年前には既にトリオのレコード事業部に入社されていたので先輩にあたっていたのです)

こんな風に就職先を選ぶにあたってJazzの存在は筆者にとって非常に大きいものでしたが、その「事始」をComing Outすると、ラジオから流れて来た「イパネマの娘」に他なりません。小島正雄氏がディスクジョッキーをされていた番組だったと記憶していますが、アストラッド・ジルベルトの可憐(というよりは素人っぽい)な唄声に魅了されたのがJazzへの接近の第一歩だったのです。ネット社会の現在ならば”推し”の情報を得ることは簡単でしょうが、当時は音楽雑誌から得るのが精一杯。アストラッドの記事を探しまくってようやく見つけたのが「スイング・ジャーナル」に載った半ページ程の小さな記事だったのです。折角買った雑誌ですから隅々まで読まなければ損と思って読み始めたJazzの世界は実に刺激的でした。それまで同世代で流行していたベンチャーズを嚆矢とするエレキギター・ブームやビートルズによるロックの台頭には殆ど興味が湧かなかった高校生に全く新しい音楽の世界が拓けたのです。それはまるで砂漠に水が沁み込むようにどんどんJazzの知識が体内へ入ってきたことを覚えてきます。

更にJazzへの傾倒を決定的にした事実があります。それは「スイング・ジャーナル」誌の新年号「お年玉プレゼント」の企画でした。同誌で健筆を振われていた評論家油井正一氏と録音技師岩味潔氏が興したRockwellレコードの「守安祥太郎Memorial」を同レコードでテナーサックスを吹いておられた宮沢昭氏が出品されたものでした。まさか当たるとは思ってもいなかったのですが、17歳の高校生の応募を珍しく思ったのでしょうか(今も昔も公正中立な抽選などあり得ない)、2月に入って送られてきた時は吃驚仰天。(この年の運はこれで使い切ったのでしょう、大学入試は見事失敗し浪人生活となりました。)世界で200枚しかプレスされなかった「守安祥太郎Memorial」を通じて守安祥太郎の天才を示す音源に接したことは、筆者にJazzへの道を歩ませるに充分な「宝」であったことは言うまでもありません。

それから既に半世紀以上の歳月が流れましたが、毎号Jazz Tokyoを閲覧していると、まだまだ未知の領域があることを知らされるばかり。その傍ら、これまで筆者が聴いてきたアルバムをもっと多くの人に知ってもらいたく始めたブログ「泥笛のJazzモノローク」も”毎日更新”を目標に続けており、これも一つのライフワークになっているものです。機会があればご覧頂ければ幸いです。

「泥笛のJazzモノローグ」 http://blog.livedoor.jp/dolphy_0629/

高橋正廣

高橋正廣 Masahiro Takahashi 仙台市出身。1975年東北大学卒業後、トリオ株式会社(現JVCケンウッド)に入社。高校時代にひょんなことから「守安祥太郎 memorial」を入手したことを機にJazzの虜に。以来半世紀以上、アイドルE.Dolphyを始めにジャンルを問わず聴き続けている。現在は10の句会に参加する他、カルチャー・スクールの俳句講師を務めるなど俳句三昧の傍ら、ブログ「泥笛のJazzモノローグ http://blog.livedoor.jp/dolphy_0629/ 」を連日更新することを日課とする日々。

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