#12 『ハファエル・マルチニ・セクステット+ヴェネズエラ・シンフォニック・オーケストラ/スイチ・オニリカ』
text by Takashi Tannaka 淡中隆史
『RAFAEL MARTINI SEXTET + VENEZUELA SYMPHONIC ORCHESTRA ハファエル・マルチニ・セクステット+ヴェネズエラ・シンフォニック・オーケストラ/SUITE ONIRICA スイチ・オニリカ』
SPIRAL RECORDS HITP-1101
Rafael Martini(piano, vocal)
Alexandre Andrés(flute)
Joana Queiroz(clarinet)
Jonas Vitor (saxophone)
Trigo Santana(bass)
Felipe Continentino(drum)
Venezuala Symphonic Orchestra
01. Pêndulo
02. Éter : Dreaming on Pixinguinha
03. Dual
04. Rapid Eye Movement:Dreaming on Stravinsky
05. Loops
ブラジルのミナスジェライス(全ての鉱山)、州都ベロ・リゾンテ(美しい地平線)で活動する「ミナス派」ハファエル・マルチニが、アレシャンドリ・アンドレス(flute)をはじめとする20〜30代の新世代音楽家達と共に作り上げた「夢幻組曲/夢の組曲」。ハファエル・マルチニの六重奏に71名のベネズエラ・シンフォニー・オーケストラと30名のクワイアを加えてドビュッシー、ジョビン、ピシンギーニャ、ストラヴィンスキー、ギル・エヴァンス、リゲティなどのクラシック、ブラジル音楽、ジャズといった20世紀音楽を咀嚼し、その未来を予見するシンフォニー作品だ。天才的なコンポーザー/マルチ奏者としてはエルメート・パスコアル、エグベルト・ジスモンチというブラジル音楽史を飾る巨匠達の後継第三世代による新たな展開で「現代ブラジル」というより未来世紀の音楽に聴こえる。大編成でスケールの大きい作品だがパラノイアックな表出はなく豊かな叙情性、そして純化された奇妙な静けさに満ちているのが今日的で「プログレ」的な壮大さに陥らない。このアルバムがクラウドファンディングによって制作、オーケストラパートは世界的に注目される指揮者グスターボ・ドゥダメルなどを生んだ音楽プログラム「エル・システマ」で知られるベネズエラの協力を得て完成したのは象徴的だ。SPIRAL RECORDSによる日本盤のカバーアートがマニエリスムを代表する画家アルチンボルド(Giuseppe Arcimboldo)の「四大元素〈水〉」を使用していることもまるでアルバムの南アメリカ的な擬視のマニエリズムを表現しているようだが、このような全ての制作過程がメジャーレコード会社ではありえないインディーズ独自の価値観で達成された「レコード」としてフィジカルに実現された凄みがある。
—かつてジャズがそうであったようにー 突然変異的な個性を持つ音楽家が三世代にもわたって共存して続々と新作を発表している状況は現在ではブラジルに尽きるのではないだろうか。ハファエル・マルチニ、アレシャンドリ・アンドレスの二人は2000年以降世界的な傾向といえるアコースティックで小編成の「チェンバーミュージック」のアルバム『マカシェイラ・フィールズ』(2012)を発表、2017年9月には東京WWWで行った2人だけの多楽器オーケストラとも言えるライブも素晴らしいものだった。20年後には彼等の音楽は現在の「辺境の音楽」というポジションを脱して世界的に影響を与え続ける「ブラジルのミナス・シーン」を語る時の指標となると思う。