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InterviewsNo. 332

#293 緊急インタビュー/Krzysztof Gradziuk (クシシュトフ・グラジュク、RGGのドラマー)

Interviewer:岡崎凛 Ring Okazaki
Interpreter:小見アンナ Anna Omi

ポーランド国内だけでなく、世界的に高い評価を受け、来年に結成25年を迎えるピアノトリオ、RGG。エッジカッティングなジャズ創出への熱意と、ポーランドが誇るクラシック音楽への深い理解を共有する3人は、これまで多くのトリオ作や共演作を世に送り出してきた。
今年(2025年)8月末に初来日した彼らは、一年後の来年秋ごろに、再び日本を訪れたいと考えているという。筆者はRGGのドラマー、クシシュトフ・グラジュク(Krzysztof Gradziuk)からのメッセージを11月半ばに受け取り、これを多くの人に届け、RGGトリオの日本ツアーの実現につなげたいと切に願っている。

<RGGは2026年の秋、日本でのコンサートツアーを実現させたいと考えている>
今年(2025年)の関西万博とその関連イベントのために来日し、素晴らしい演奏を聴かせたRGGは、大阪以外の地域(東京など)での公演を行うことはなかった。しかし来年は日本ツアーのために訪れたい…そんな言葉をトリオのドラマーであるクシシュトフ・グラジュクから聞いたのは9月頃だった。そのときは直接の連絡を始めたばかりで、「ぜひまた来てほしい」と伝えるぐらいだったが、先月11月にワルシャワでグラジュクと会う機会を得て、彼のアイデアの詳細を聞くことができた。

Krzysztof Gradziuk
Krzysztof Gradziuk

「私たちは来日し、大阪で公演し、そして恋に落ちた」グラジュクは、大阪での体験にどれほど感銘を受けたかを熱く語り、 ‘we fell in love’ という言葉が、ごく自然にこぼれ出した。今年の8月末に関西万博(EXPO2025)のポーランド・パビリオンや大阪市の心斎橋パルコ14階のホール、「SPACE14」で公演したRGGは、初めて訪れたこの地がすっかり気に入ってしまったという。3人は2度目の来日ではいくつかの都市での公演開催を希望しているが、再び大阪で、という思いは強いようだ。

<ワルシャワでクシシュトフ・グラジュクとの会見が実現したいきさつ>
私が音楽家を海外から招聘する仕事をしていないことを、グラジュクはよく理解している。ポーランド帰国後しばらくは連絡がなかったが、私が先月11月前半に中欧を観光旅行した際に、ポーランドに滞在中だとFacebook投稿に書き込むと、投稿を目にした彼が「ワルシャワにいるなら、会えるね」と連絡してきた。11月11日、今年6月のポーランドへのジャズ研修旅行でお世話になった通訳者のAnna Omi(小見アンナ)さんと会う予定があったのだが、急遽彼女に頼んでグラジュクとのトークに加わってもらった。
私の拙い英語では対応しきれないグラジュクの説明は、アンナさんによって英語またはポーランド語から流暢な日本語に訳され、言葉の壁を乗り越え話が進んでいった。この日のインタビューの成功は小見アンナさんのお蔭である。(厚かましく通訳サポートをお願いしたが、彼女は日本のテレビ局の仕事も担当する優秀なプロの通訳者である。急な依頼に応じてくれた彼女に心から感謝の意を伝えたい)

RGG trio,(from left) Krzysztof Gradziuk, Łukasz Ojdana, Maciej Garbowski
RGG trio,(from left) Krzysztof Gradziuk, Łukasz Ojdana, Maciej Garbowski

トリオ結成25周年を迎えるRGGとショパンにインスパイアされたジャズ作品への取り組み
今年(2025年)の関西万博でポーランド館の「ショパン・ウィーク」に登場した彼らは、ショパン曲に想を得ながらRGGらしい独自の演奏をするという、新たな取り組みを始めていた。そして斬新なアプローチとショパン曲らしい美しさの入り混じる見事な作品を創り上げていった。RGGとショパンの音楽、さらに国立ショパン研究所とのつながりについて、クシシュトフ・グラジュク(以下KG)が詳細を語ってくれた、

Q.なぜRGGはショパンとの取り組みに向かったのですか?

KG:以前にはショパンをジャズの題材にするには違和感がありました。しかし私たちはショパン作品を弾きながら、自分たちの音楽を演奏しているという実感が湧くようになったのです。私たちの感性から生まれる音楽に、ショパンの楽曲を題材にするのは、けっしてこ彼の名を濫用することにはならないはずです。スウェーデンのコントラバス奏者、アンダーシュ・ヨルミンが、かつて私たちについて、こう語りました。「RGGの音楽を聴くと、なぜポーランドでショパンの時代からの美しさが保たれてきたのか、分かるような気がする」 つまり私たちの音楽とショパンの音楽は、どちらもロマン主義的な要素を共有している、またはそうした接点があると言っていいでしょう。

Q.RGGは今年、国立ショパン研究所を通じて関西万博に出演しました。今回の成果はどう引き継がれますか?

KG:実は、クラシックのピアニストである私の妻が国立ショパン研究所に籍を置いています。それが理由で私たちが日本に派遣されたわけではないのですが、妻がこの研究所に関わっていることは、とても心強いです。再来年の2027年はショパンコンクールの100周年に当たるため、その関係行事が予定されており、RGGトリオも参加することになると思います。
国立ショパン研究所による企画は、これまでクラシックのみでしたので、ジャズを取り上げるのは初めての試みでした。そして、今年2025年の関西万博ショパンウィークに関連して開催された4組のグループ(トリオ)によるコンサート※は、大成功でした。評判が良く、私たちの新しい活動の契機となったと考えています。

大阪での成功を機に、ポーランド本国でも4組のグループによる同様のコンサートを開き、ショパンの生家を会場にするという計画が持ち上がっています。そこに私たちRGGも出る予定です。また私たちの結成25周年を記念した新アルバムの録音場所をショパンの生家にする計画もあります。25周年を記念する新作のために、ただスタジオに入ってレコーディングをするだけではなく、スペシャルな要素を盛り込みたいのです。(アルバム録音は2026年の1月15、16日に行い、4月末にリリース予定)

Q.再来日実現のために、筆者岡崎に期待することはありますか?

私は何か下心があって(筆者に)会うことにしたのではありませんよ(笑)。しかし、もしかしたら、日本で公演するために、誰に何を連絡したらいいか、具体的な情報が得られるかもしれないと思いました。来日の希望についてポーランドで誰かに相談する前に、公演場所などについて、ある程度のめどが立っているほうがいいと考えました。
(彼のこの発言については、アドバイスを得るのにふさわしい人物や、公演候補地などについて、その場で思いつく範囲の意見を、私と小見アンナさんから返答した)

Q.この会見のまとめとして、日本のファンへのメッセージをお願いします。

「RGGトリオのドラマー、クシシュトフ・グラジュクからのお知らせです。
私たちのトリオ結成25周年となる来年の2026年に、これを記念する企画を考えています。今年のEXPO2025(関西万博)でのポーランド・パビリオンの「ショパン・ウィーク」期間中、国立ショパン研究所のサポートを得て、私たちは大阪で素晴らしいコンサートが開催できました。ショパンの音楽からインスピレーションを得て、アレンジを重ねました。この時の演奏が大阪のオーディエンスに感動を与え、高い評価を得たことから、ニュー・アルバムのリリースを決意しました。RGG出来上がったばかりのレコードや CDを引っ提げて、日本でトリオ結成25周年記念ツアーを行いたいと考えています。再来日して、RGG の演奏ができるなら、これほどの喜びはありません


文中の※については、<4Jazz Chopin Concerts 8/30-31(関西万博「ショパン・ウィーク…)>を参照。RGGの演奏動画も紹介している。)
Facebookの2025年6月28日にThe Fryderyk Chopin Institute(国立ショパン研究所)が掲載したRGGの紹介は、トリオの特徴と今回の取り組みを端的に記している:
RGG – 2025年8月31日(日)17:00(開演)
RGGはジャズトリオという古典的編成におけるポーランド・ジャズ界の最も重要なグループの一つであり、ポーランド・ジャズのレジェンド、トマシュ・スタンコとカルテットを組んだ最後のトリオでもある。彼らの「サウンドスケープ・オブ・ショパン」プロジェクトは、古典的ジャズ演奏という領域を遥かに凌駕するもので、ミュージシャンらはショパンの楽曲の響きを一新し、既知のメロディーや和声構造を幾重にもわたる示唆的な音体験に置き換え、アンビエントなテクスチャーや自由な即興を通じてそれらを変容させていく。彼らにとってジャズはジャズそのものなのではなく、古典的感受性と現代的響きを橋渡しするための媒体であるのだ。


<RGG Trioの2025年新作について>
今回のインタビューでは触れなかったが、今年(2025年)リリースされた、RGGの最新作『Planet LEM/惑星レム』について記しておきたい。筆者は関西発信の無料ジャズ誌「Way Out West」の10月号の新譜紹介欄で本作を取り上げた。詳細について、ポーランドの音楽ジャーナリスト、Krzysztof Komorek(クシシュトフ・コモレク)が、UK JAZZ NEWSに『Planet LEM』に関する英文記事を寄せているので、興味のある人は読んでほしい。

'Planet LEM' album cover
‘Planet LEM’ album cover

『Planet LEM』は前作とのつながりが深い。2021年リリースの『Mysterious Monuments on the Moon』の続編と考えてもいいだろう。ここに〈Planet LEM〉という曲があった。2021年はスタニスワフ・レムの生誕100年に当たり、これを記念した関連イベントにRGGトリオも出演した。
この3曲目の〈Planet LEM〉の演奏に、舞台俳優が共演し、スタニスワフ・レムの小説を読むという企画が2021年に始まり、RGGのピアノトリオにロベルト・ヴィエンキェヴィチの朗読を合わせたコンサートがポーランドの各地で行われた。
この企画がアルバム化されたのが本作だ。俳優とピアノトリオによる「惑星ソラリス」のポーランド語原文の朗読+即興のパフォーマンスである。熱を帯びる俳優の声の背後で、ウカシュ・オイダナのピアノが幻想的に響く。SF小説ファンやタルコフスキーの映画ファンにはぜひ聴いてほしいアルバムである。翻訳本をめくりながらの鑑賞も楽しいはずだ。
前作の『Mysterious Monuments on the Moon』については、筆者の記事を参照のこと:
https://jazztokyo.org/features/my-pick/my-pick-2021/post-72516/
(小説朗読の動画や、トリオの略歴についても記載している)


<急逝したゲラルド・レビク (Gerard Lebik、ポーランドのサックス/エレクトロニクス演奏家)とザモシチの街>
クシシュトフ・グラジュクは、彼の来日に関する話題のほかに、彼が15歳のとき加わったジャズ・トリオのサックス奏者が、数日前に亡くなったという話をした。彼の名はゲラルド・レビク (Gerard Lebik)。当時彼らは、ポーランドの南東部でウクライナに近い町、ザモシチ(Zamość)のジャズクラブに週1回出演した。最初は数人だった聴衆が、1年後にはクラブを満員にするほどになったという。
「30年前の私たちはLPを出すこともなく、カセットテープで録音するぐらいでした。当時はクラシック音楽を学んでいましたが、このトリオで初めてジャズを演奏するようになったのです」
「その後私たちはそれぞれの道を進みました。いつかまた演奏しようという約束をしていましたが、それは叶わなかった。今週の土曜日に彼の葬式に行きます」

COOKIE JAZZ TRIO (Krzysztof Gradziuk, Gerard Lebik, Sebastian Słupski)
COOKIE JAZZ TRIO (Krzysztof Gradziuk, Gerard Lebik, Sebastian Słupski)

グラジュクがフェイスブックやインスタグラムにこの写真を挙げると、反響は大きかったという。→https://www.instagram.com/krzysztofgradziuk/
ゲラルド・レビクは、ポーランドの即興シーンや電子音楽方面での重要人物である。保養地の町、ソコウォスコで開催され、多くのサウンドアーティストが出演するSanatorium of Sound Festivalの創始者であり、これまで多くのアルバムをリリースしてきた。
例えば2015年録音のアルバムには、パウル・ローフェンス(ds)とジョン・エドワーズ(b)が参加し、3人の静かな「対話」が交わされるかと思えば、激しい即興の嵐が吹き始める。
Lepomis GibbosusーLebik / Edwards / Lovens https://sluchaj.bandcamp.com/album/lepomis-gibbosus

その後グラジュクは、ザモシチ(Zamość)がどれほど美しい町かを語り始めた。
「ウクライナに近いけれど、イタリア人の設計による町で、東側の文化の影響がない建物が立ち並んでいます。戦禍に見舞われ破壊された場所が多かったのですが、この街を訪れたノルウェーからの観光客が、修復するべきだと母国で訴え、ノルウェーから修復基金がもたらされました。その後はEUからの援助を受け、ほぼ元通りになりました。とても美しい街ですよ」
クシシュトフ・グラジュクはザモシチの近くで生まれ、彼の親戚縁者がこの街で暮らしているという。
こうして、また一つ、ポーランドで訪れたい場所が増えた。

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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