#165 平林牧子 Makiko Hirabayashi
平林牧子 Makiko Hirabayashi
piano/composer
1966年生まれ。4歳でピアノ、9歳でヴァイオリンを始める。映画音楽に興味を持ち奨学金を得てバークリー音大に入学。在学中、ジャズとインプロヴィゼーションにより興味を抱く。卒業後コペンハーゲンに移住、デンマークを中心に日欧で活動を展開。最新作『Where the Sea Breaks』(ENJA/Muzak)。
https://www.facebook.com/MakikoHirabayashiMusic/
Interviewed by JazzTokyo, October 2017
♩ マリリン・マズールとクラウス・ホウマンとのトリオ・アルバムは4作目
JazzTokyo:『ホエア・ザ・シー・ブレイクス』はトリオにとって何作目のアルバムですか?
平林牧子: 4作目です。
JT:トリオ結成の経緯を教えてください。
平林: マリリン・マズールのバンド、FutureSongをデンマークに移り住んでからまもないころ聴いたのですが、そのミステリアスでかつプリミティブな感じのするサウンドにとても魅せられました。
その後、96年にヨーロッパ各地のコンサヴァトリーからメンバーを集めたビッグバンドのツアーに参加する機会があって、そのときのプログラムがマリリン・マズールとレイ・アンダーソンの音楽でした。マリリンも指揮者としてツアーに加わったので、彼女に出会うきっかけとなり、最高に楽しいツアーになりました。
2001年に自分のプロジェクトを考えた時にマリリンに声をかけたら、幸いOKしてくれて、ベーシストにパートナーのクラウスを薦めてくれたわけです。
JT: クラウスとマリリンはそれぞれどんな人柄ですか?
平林: もともと彼らはデンマークのヒッピー時代に育ったので、とても自由で、クリエイティブな人たちです。Klavsは、とても忠実で、頼りになる人です。Marilynは、暖かい人柄で、すごいパワーの持ち主です。
JT: 新作は、平林さんとマリリンの楽曲で構成されていますが、どのようなコンセプトでそうなりましたか?
平林: 私の音楽にないものを引き出してくれるので、コントラストとして昔からマリリンの曲を何曲か入れてレパートリーを組んでいます。特別なコンセプトがあったわけではありません。
JT: ゲストにトランペットとフリューゲルのヤコブ・ブキャナンを加えた理由は?
平林: 3枚トリオとしてアルバムをつくったので、今回は何か新しいサウンドを入れようというのが、レーベルEnjaとの話し合いで決めたことでした。ヤコブは北欧的なサウンドを持った素晴らしいトランペッターで、実は何度かマリリンのプロジェクトに一緒に加わったことがあり、音楽的に息が合うことはわかっていました。
JT:最近、トランペットのエンリコ・ラヴァとも共演されているようですが、エンリコとの出会いの経緯は?
平林: 2016年に、イタリア日本国交150周年を記念して「Enrico Rava meete Japanese Friends」という企画が組まれ、エンリコと日本人のリズム・セクションで日本ツアーを行ったのですが、そのときピアニストとして参加しました。
JT: エンリコの音楽のどんなところが好きですか?どんな人柄でしたか?
平林: 心から溢れる音楽で、計算されたところがひとつもないところが素晴らしいと思います。彼は、常に満足がいく音が出るかどうかという不安を持ちながら、謙虚に音楽に向かっている感じです。他人に対しても自分を押し付けずに、よいところを引き出してくれる、素晴らしいミュージシャンです。
JT: トリオで連名の楽曲は2曲収録されていますが、これはいわゆる即興ですか?
平林: そうです。
♩ レインボウ・スタジオのヤン・エリックは信じがたいほどの速さで彼の世界を創る
JT: レコーディングの進行具合はどうでしたか?
平林: 2日あったのですが、スムーズに進み、最後は予定時間よりも前に終わってしまいました。
JT: ミックスにレインボウ・スタジオへ出かけていますが、その理由は?事前にエンジニアのヤン・エリック・コングスハウクのミックスを聴いていましたか?
平林: ミックスは、音源をレインボウに送ってヤン・エリックがミックスをし、メールでやりとりしながら進めました。もちろん彼がミックスをしたCDは何枚も聴いているし、以前ビノキュラーというアルバムをレインボウで録音、ミックス、マスターした経験があります。今回の音楽には彼の音が最適だと思いました。
JT: ミックスのやりとりは順調に進みましたか?
平林: 彼から送られたものを私のうちのスピーカーで聴いたり、ヘッドフォンで聴いたりしたので、聴き方によって印象が全然違い、戸惑ったりしましたが、結果的には初めに送られてきたものが一番よく、変えようとしたものも元に戻しました。
JT: ヤン・エリックの印象は?
平林: とても穏やかで、静かな方ですが、仕事にかけては、信じがたいほどの速さで彼の世界が創られていき、間違えることがほとんどありません。
JT: デンマーク(コペンハーゲン)とノルウェー(オスロ)の違いを感じましたか?
平林: そうですね、国柄、文化、気候、自然、音楽など、何をとってもかなり違います。
JT: 新作をジャズと呼んでほしいですか?
平林: いろいろな要素が入っていると思います。ジャンルにはこだわっていません。
JT: トリオで来日の予定はありますか?
平林: 10月にデンマーク・日本国交150周年のオフィシャルイベントでトリオが東京で演奏したのですが、これはクローズド・イベントでした。今のところ次がいつになるかは分かりません。
JT: トリオで来日していたのに一般公演がなかったのはとても残念ですね。
At The Village Recording 11 . Engineer:Thomas Vang
♩ ボストンでジャズや即興に興味を抱く
JT: 音楽に恵まれた家庭に生まれましたか?
平林: はい。姉や従姉妹がピアノを習っていたので、当たり前のようにして自分も4歳の時に習い始めました。
JT: 初めて興味を持った音楽は?何歳でしたか?
平林: 音楽は、興味を持つというより、ごく自然に私の生活の一部としてあり、ピアノや、9歳の時に始めたヴァイオリンを通して自分の感じたことを音にすることを身につけていったと思います。
JT: 作曲はどういうきっかけで何歳ごろから?
平林: 小学校のころからピアノのレッスンの後にイヤー・トレーニング、セオリーのレッスンがあって、そのときに作曲もやっていたと思います。
高校時代、YMOとか、坂本龍一の映画音楽に興味を持って、シンセサイザーを買って、4チェンネルの録音機で音楽を作り始めました。
JT: バークリーでは何を学びましたか?
平林: もともとはサウンドトラックなどをつくる勉強をしようと思ってバークリーに行ったのですが、ボストンにいたおかげでジャズに出会い、そのころはともかくライブ演奏を本当によく聞きに行って、即興の基礎みたいなものを吸収していったと思います。
JT: 同期でプロになった仲間はいますか?
平林: 直接知っていた人は少ないですが、同じ頃に Jeff Keezer、Roy Hardgrove、Anders Mogensen、Hans Andersson、大西順子さん、大坂 昌彦さん、山田穣さんなどがいました。
JT: デンマークに移住した理由は?
平林: バークリーで、デンマーク人のギタリストに出会い、後に彼と結婚したのがきっかけです。
JT: デンマークでの活動は?
平林: トリオのほかにもデュオ、ソロ、ワールド・ミュージック系のバンド、フリージャズ系のバンドなどを組んだり、サイドマンとしてもマリリン・マズールの率いるプロジェクトを含めていろいろなバンドに参加しています。
JT: 今後の予定は?
平林: 11月にトリオでドイツ公演があり、マリリン・マズールのShamaniaという女性10人にダンサーを加えたプロジェクトでLondon Jazz Feastivalに出演します。そのあと、マリリンのカルテットでデンマーク・ツアー。12月はトリオで Danish Music Awardsの授賞式で、Jacob Buchananを加えて出演します。スウェーデンのシンガー、Josefine CronholmのCD録音にも参加します。来年は、トリオのヨーロッパ・リリース・ツアー、マリリン・マズールのクァルテットにNorma Winstoneを迎えてツアーがあったりと、また忙しくなりそうです。
JT: ノーマ・ウィンストンは毎年日本でも公演があり、とても高い評価を受けています。
JT: デンマークではまだCDショップがありますか?
平林: かろうじて数店あります。
JT: ジャズ・クラブはどうですか?
平林: 数店あります。
JT: 日本に帰国しての印象は?
平林: 音楽に限らないのであれば、食べ物がおいしいとか、親切な人が多いとか...。
タワーレコードで、6階までCDがあってびっくり、試聴コーナーで自分のCDを見つけてまたびっくり、嬉しかったです。
JT: 日本での演奏は?
平林: とても熱心に聴いてくださる人が多いですね。ピットインなんかだと、手応えがあってやっている方にもいい刺激になりますね。
JT: 最後に夢を聞かせてください。
平林: これからも素晴らしいミュージシャンと共演し、作曲家、ピアニストとして、音楽を通して新しいことを発見していければ最高です。