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Interviews特集『ピーター・エヴァンス』No. 244

INTERVIEW #173 ピーター・エヴァンス

Questions made by Akira Saito, Atsushi Joe and Takeshi Goda 齊藤聡、定淳志、剛田武
Translated by Akira Saito 齊藤聡

Q. はじめに、少年時代についての質問をさせてください。どのような音楽を好んで聴き、誰がアイドルだったでしょうか。家庭の音楽環境には何か特別なことはあったでしょうか。そのような中で、音楽を始めたきっかけは何だったのでしょうか。楽器は最初からトランペットだったでしょうか。また、音楽以外の関心分野についても教えてください。

A. 1981年10月2日、シカゴで生まれました。子どもの頃、ひとりになるための方法として、サウンドや練習にしきりに惹きつけられました。姉がヴァイオリンをやっていて触発されたのです。いまでは自分にとっての音楽の役目はかなり違ったものになっていますが、それは、世界を見たり、自分の人間性、個人的・精神的な成長、他者との関係なんかに近づいたり探索したりするやり方が変わってきたことと同じようなものです。

Q. オハイオのOberlin Conservatory of Musicではクラシックとジャズとを学んだということですが、その頃の音楽的指向性はどのようなものだったでしょうか。また、卒業後、ジャズや即興の演奏家となることを決めていたのでしょうか。

A. マーラー、ショスタコーヴィチ、バッハ、ベートーヴェンなどに夢中になりました。しかし、ジャズにこそずっとはまっていて、ストレートアヘッドなグループで演奏し、コルトレーン、ブラクストン、エヴァン・パーカー、20世紀のコンサート音楽、電子音楽なんかを聴いてもいました。ある時点で、誰かの真似をしたり、他人の音楽を演奏したりするよりも、自分自身のものを見つけるようにしなければならないと感じました。

Q. ニューヨークに2003年に進出してから、最初の活動はどのようなものでしたか。

A. 退屈なアルバイト!しかし、夜になれば可能な限り演奏しようとしていました。

Q. デイヴ・ダグラスがartistic directorを務めるFestival of New Trumpet Musicの第2回(2004年)に出場し、第3回(2005年)ではソロ・パフォーマンスも行っています。ダグラスとの関わりはどのようなものだったでしょうか。また、このとき既にソロ演奏の可能性を掘り下げる意向があり、それが後年の『Lifeblood』につながっているということでしょうか。

A. まだ音楽学校にいた21歳の頃に、ソロコンサートを始めました。ニューヨークに出てきたときには、バンドを持つことに拘らない気持ちの準備はできていましたし、ほとんど知り合いもいないのでそれで良くもありました。ソロ音楽は、ひょっとしたら自分が長いこと探索してきたからかもしれないのですが、古くからの友達や敵のようなものです。自分の発展や成長を試す鏡のようなものでもあります。

Q. ウィーゼル・ウォルターやメアリー・ハルヴァーソンとは2008年からアルバムを発表されています。かれらとの共演によってどのような刺激を得たでしょうか。また、最近のウィーゼルとの『Poisonous』はかつてよりも過激なサウンドに聴こえるのですが、どのような変化があったのでしょうか。

A. ウィーゼルは、すごく特有なアイデアをもって、作曲家としてスタジオに入ってきました。彼はレコードをつくるために、精緻な編集やミキシングに時間を費やしてくれました。協働できてとても誇りに思っています。

Q. 『Live in Lisbon』や『Ghosts』、またMostly Other People Do the Killingの諸作を聴くと、ジャズの既存の構造やヒエラルキーに対する諧謔や解体の意思があるように思えますが、どうでしょうか。また、MOPDtKを脱退したのはなぜでしょうか。

A. 単純な話、バンドに長く居すぎたから、別のことに目を向ける余裕が欲しかったのです。ユーモアについて話すことは難しいのですが、『Lisbon』や『Ghosts』といったアルバムでは、ユーモアはまったく心の中にありませんでした。個人的なものを入れ込むつもりで、素材にアプローチしようとするのです。その結果オリジナルを歪めることになっても、自分としてはOKです。

Q. 他のニューヨークのトランぺッターについて、あなたとの違いをどう見ているでしょうか。たとえば、『Instruments Vol. 1』やジェレマイア・サイマーマンのアルバムなどでも共演しているネイト・ウーリーや、昨年のマタナ・ロバーツのプロジェクトで隣で吹いたジェイミー・ブランチ、あるいは、テイラー・ホー・バイナム。

A. 私たちみんなが、自分自身の声を創り上げようとしているだけですよ。

Q. サックスの拡張的奏法をどう見ているでしょうか。またそれは、自分自身の演奏に影響を及ぼしているでしょうか。たとえば、エヴァン・パーカー、ジョン・ブッチャー、マッツ・グスタフソン、クリス・ピッツィオコス、トラヴィス・ラプランテ、ピエロ・ビットロ・ボン、アンソニー・ブラクストン、イングリッド・ラブロックについて。

A. エヴァン、ブラクストン、コルトレーン、ブッチャー、チャーリー・パーカー、ファラオ・サンダース、ジョー・ヘンダーソン、ウェイン・ショーター、ペーター・ブロッツマン、アルバート・アイラー、ソニー・ロリンズが自分にものすごく影響を与えています。

Q. 今後の活動について教えてください。

A. 今年のうちに、たくさん旅をしたり、探索したり、どこか新しい場所に行ったりしようと思っています。その中には、秋のアジアツアー(日本、韓国、インド)や、ヨーロッパでのコンサート、ポルトでの1週間のビッグバンド、自分のレーベルMore is Moreからの多くの新録のリリースも含まれます。新録とは、新しいソロアルバム、Pulverize the Soundの第2作、レビー・ロレンツォ(パーカッション、エレクトロニクス)やデイヴィッド・バード・マロウ(フレンチホルン)とのデュオ。また、ヴァイブ奏者ジョエル・ロスとの新バンドBeing & Becomingについても考えています。

Q. 日本のジャズ・即興シーンについて何かご存知でしょうか。

A. はい!沢山いますが、とりわけ大友良英、Sachiko M、巻上公一、灰野敬二、山下洋輔、石川高、吉田達也、Ground-Zeroが自分のお気に入りで、影響も受けてきました。

Q. ツアーを控えて、日本のリスナーとミュージシャンへのメッセージをお願いします。

A. もう長いこと、日本を訪れたいと思っていたのですよ。今回はじめて行くにあたって、ツアーのアレンジや共演をしてくれて、多くの偉大なミュージシャンたちとつないでくれる巻上公一さんには感謝しきれません。特に、ジャズ、実験音楽、伝統音楽など幅広いミュージシャンたちと共演することがハッピーです。石川高、今西紅雪とのトリオはとりわけ楽しみです。ギグが数回あるし、何かを発展させる本当の好機です。もっと多くの人に会うこと、日本のシーンとの長く実り多い関係のはじまりとなることを希望しています。

(文中敬称略)

※本インタビューは電子メールによって行われたものである(2018年7月21日)。

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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