#120 内橋和久 ギター&ダクソフォン
2013年9月7日 東京にて
Interviewed by 横井一江
Photo: Courtesy of Kazuhisa Uchihashi & Kazue Yokoi(ダクソフォン)
内橋和久(うちはし・かずひさ)
1959年、大阪府生まれ。
ギタリスト、ダクソフォン奏者、コンポーザー、アレンジャー、プロデューサー。レーベル「イノセントレコード(旧 前兵衛レコード)」主宰。インプロヴィゼーショントリオ/アルタードステイツ主宰。
83年頃から即興を中心とした音楽に取り組み始め、国内外の様々な音楽家と共演。劇団維新派の舞台音楽監督を20年以上にわたり務めるなど映像作品や演劇などの音楽も手掛ける。95年から音楽家同士の交流、切磋琢磨を促す「場」として即興ワークショップ「ニュー・ミュージック・アクション」を神戸で開始、その発展形の音楽祭フェスティヴァル・ビヨンド・イノセンスを96年より毎年開催(2001年のみ休止)。近年はこれらの活動と併行してUAやくるりのプロデュース、ツアーメンバーとしても活動。また、2002年から2007年までNPOビヨンド・イノセンスを立ち上げ、大阪フェスティバル・ゲート内でオルタナティヴ・スペース、BRIDGEを運営した。
ソロプロジェクト“FLECT”ではエレクトロハーモニクスの16セカンドディレイマシンとサステナーを内蔵したゴダンのギターを駆使し、ギターを超越したサウンドスケープを作り上げる。一方自己のバンド、アルタードステイツでは、パワーと独創性に満ちたギター的アプローチで、インプロヴィゼーション(即興)とコンポジション(楽曲)の境界を消し去っていく。また、親友でもあるギタリスト/ハンス・ライヒェル発明による新楽器ダクソフォンの日本唯一の演奏者としても知られている。
現在はベルリン、東京を 拠点に活躍。
最近作はミハオ・グルチンスキとのデュオ『Michal Gorczynski & Kazuhisa Uchihashi』(Innocent Records)。
2011年、内橋和久はポーランド人ミュージシャンを招聘し「今 ポーランドが面白い」というイベントを行った。今年10月、その第二回目が東京、大阪、その番外編が京都で行われる。ポーランドは中東欧の大国だが、西欧諸国と違って一般的にはなかなか馴染みがない。映画や文学は識者の間では知られているが、音楽ではショパンが生まれた国という認識がある程度である。内橋とポーランドとの交流、このような企画を立てるに至った経緯やその意図、そして彼の目でみたポーランドの音楽シーンについて語ってもらった。
「今 ポーランドが面白い」についての詳細情報は:
http://ameblo.jp/joszynoriszyrao/entry-11597210790.html
♪ ポーランドとのきっかけはアルタードステイツ
KY:内橋さんがヨーロッパに住むようになって随分経ちますよね。
内橋:8年かな。
KY:ヨーロッパにいると色々な国のミュージシャンとの出会いがあると思うのですが、どういうきっかけでポーランドのミュージシャンと知りあったのですか。
内橋:最初にポーランドに行ったのは2001年。ワルシャワ・サマー・ジャズ・デイズというフェスティヴァルにアルタードステイツ(内橋和久、ナスノミツル、芳垣安洋)で呼ばれた。その時の盛り上がりは凄かった。向こうの人はウェイン・ホーヴィッツやニューヨークから来た連中のことは知っていたんだけど、日本人のバンドって全く知らなかったんだ。それが評判になったことから、その2,3ヶ月後に僕はソロでまた行くことになったの。それからツアーすることが多くなった。その時にいろいろな人と接触して、知りあったんだ。
KY:そのワルシャワ・サマー・ジャズ・デイズはどのような傾向のフェスティヴァルだったのですか。
内橋:スポンサーがもちろんいて、その人たちを喜ばす日、例えばアル・ディメオラやマーカス・ミラーが出る日が一日あって、あと二日間はアヴァンギャルド系かな。ウェインもそっちのほう。今は変わってしまったけどね。
KY:2回目に行かれた時はソロですか。ポーランドのミュージシャンと共演もなさったのですか。
内橋:完璧にソロ。その後のツアーも基本はソロ、あとは現地のミュージシャンと組んだユニット。コンサートが終わったあとに地元のミュージシャンとセッションするということもちょこちょこやっていたんだ。10年前にセッションしに来た若いギタリストが今は有名になったりしているよ。そうしているうちに色々と知り合いになって、ワークショップをやってくれないかなと頼まれたのが5,6年前かな。ワルシャワやヴロツワフでやるようになった。僕の中ではポーランドは一番よく知っている国、年に2,3回ツアーしているから。今年はもう3回行っている。
KY:ポーランドの音楽シーンについてお話ししてもらえませんか。大きな国なので、やはり地域によって異なるコミュニティがあるのでしょうか。
内橋:結構違うね。どういえばいいのかな。ヴロツワフではそこの人たちのコミュニティがある。そんなに結束が固いわけではないけど。ワルシャワには色々な人がいる。マチオ・モレッティというドラマーがいて、LADO ABCというレーベルをやっていて、そこから結構沢山CDを出しているんだけど、それぞれ音楽が全然違うんだ。やってることが全く違うんだけど、どんどん出している。クラシックよりのものからパンクまで、音楽的な共通点はどこにもない。ハードコア、ノイズもある。それが面白い。こんだけ種類があるんだって。日本だと似たようなことをする人たちが集まるのだけど、そうじゃない。僕は大阪的だと思う。大阪ってみんな勝手に違うことやっているんだけど、みんな結構仲がいいし、お互いにちゃんと見ている。見ているんだけどやっていることは全然違う。独立している。コミュニティといってもジャンル分けされたコミュニティじゃない。もっとトータルなものなんだ。
KY:東京はジャンル分けされているというか、同じようなことをやっている人が集まる傾向がありますよね。
内橋:他の人と交じろうとしない。ずっとその中の人たちとやっている。それが安心なのかもしれないけれど、それはつまんない。ワルシャワは大阪的。かけ離れたことをやっているのだけど、仲がいいんだよ。
♪ 今年の「今 ポーランドがおもしろい」
KY:2011年の第一回「今 ポーランドがおもしろい」では、音楽的にはバラバラというか、いろいろなミュージシャンが出ていたわけですね。
内橋:バラバラだったでしょ。あれは特にバラバラだった。そういう人選だったから。今回はジャズよりの人が多い。ちゃんと楽器をあつかえる人というか、器楽奏者を集めた。
KY:前回は初日はポーランド人のユニットで演奏、二日目は日本人も含めたセッションでしたよね。
内橋:今回もそれを目論んでいたけど、それをやるのは相当難しくて。前回は2人のバンドが多かったけど、今回は3人、4人のユニットでやっているミュージシャンだから、それをやると8人どころじゃなくって16人くらい呼ぶことになる。予算的に全部呼べないので、幅広く見せるためにはバラけるしかない。だから考えを変えて、個人ひとりひとりを呼んで、初日はエレクトリック系、2日目はアコースティック系の日本人とセッションというように分けた。今年は前回より日本人を多く呼んでいる。
KY:ポーランドと日本のミュージシャンのセッションを考えたわけは。
内橋: いろんな組み合わせを楽しんでほしい。何が起こるかわからないけれど、それが楽しみなんだ。セッションが好きなんだよ。全員知っているのは僕だけ。この人とこの人が演ったら何が起こるかなというのを楽しみにしているんだ。それが大好き。これをこうやったらこうなるとわかっていたら絶対組まないよ。この人とこの人に彼を入れたら何が起こるだろう。そういう期待感。それぞれみんな優れたミュージシャン、ちゃんとしたところまで持っていく力量のあるひとたちだからだから期待できる。
KY:そもそもどのようなきっかけでこのイベントを始めたのですか。
内橋:もともとは向こうからのオファー。ポーランドのアーティストを外に出すというプロジェクトが2011年に始まったんだ。日本だけじゃなくて、色々な国にね。その年は、僕のイベントの他に(六本木)スーパーデラックスでもイベント(Exploratory Music From Poland)があったし、「東京JAZZ」にもポーランド人が出演した。
KY:2011年はポーランドがEU議長国になったこともあって、各国で文化省傘下機関AMIが主催するポーランド文化を紹介するイベントが行われましたね。ベルリンジャズ祭もポーランド特集があったし、日本でも演劇やグラフィック・デザインなどのポーランド文化を紹介する企画をやっていました。
内橋:そこのインスティチュートの人が僕が初めてポーランドに行った時からの知り合いで、ツアーを全部オーガナイズしてくれた人なんだ。それでやってくれと頼まれたわけ。去年は予算が下りなかったのだけど、今年は出たのでやることになった。
KY:今回来日するミュージシャン、それぞれ注目株なのでしょうが、その中で特にこれはという人を教えて下さい。
内橋:ベテランはイェジー・マゾル(cl, bcl) だけ。10年前に最初に演奏したポーランド人が彼なんだよね。その後2年ぐらいして、まったく音沙汰なくなって、みんな彼が何をしているのかわからなかった。最近やっと復活して、すごく元気な顔していたので嬉しくなったんだ。ワークショップに来てくれて、やっぱりセンスいいなと思った。そうそう、ユレク・ロギェヴィッチ(ds) やピョトル・ドマガルスキ(b) は、近藤等則さんと一緒に来ているんだよ。
KY:前回はアルトゥール・マイエフスキ(tp) が一番印象に残ったかな。
内橋:彼やクーバはヴロツワフのミュージシャンだよ。
♪ ポーランドでは、みんな認識している音楽が幅広い
KY:ワルシャワとヴロツワフではミュージシャン同士の交流があるのですか。
内橋:行き来して何かやるというか、一緒にプロジェクトをやっているという感じじゃない。列車で5時間くらい、結構離れているから。EUに入って、お金が沢山入ってきて道路がすごくきれいになったので、今では車移動がすごく楽になったけど。10年前に車で移動した時は普通の道路しかないからすっごく時間がかかった。普通の道路なのにみんなめちゃめちゃみんな飛ばすんだよ。アウトバーンじゃないのに100キロ以上で飛ばすからコワイ。頼むからスピード落としてくれて言っても、これはポーランドでは当たり前だって言われた。今年久しぶりに車でツアーした時は道が本当にキレイになって楽だったなぁ。
KY:ヨーロッパの他の国々のミュージシャンとはどうなのでしょう。
内橋:スウェーデンのマッツ・グスタフソンやノルウェーのポール・ニルセン・ラヴとかは、他の国のミュージシャンとのユニットで演奏しているけど、ポーランド人が他の国のユニットに参加しているという話は聞かないな。
KY:ポーランドでは現代音楽も盛んですが、そちらのミュージシャンとも繋がりはあるのですか。
内橋:現代音楽のアンサンブルをやっていて、即興もやる人もいる。基本的にみんな、特に管楽器の人はクラシック音楽のバックグラウンドがある。バックグランドとしてはクラシック、それは染みついているというか、根底にあるもの。基本の基本だね。日本でいうクラシック音楽というのとは違う。
KY:ポーランドではクレズマーのフェスティヴァルがあったりしますが、そのようなミュージシャンとはどうですか。
内橋:今年の「東京JAZZ」にマルチン・マセツキのバンドが出ていたよね。10人編成で民族音楽をアレンジしたブラスバンドですごく楽しい。民族音楽のベースもあるし、クラシック・現代音楽のベースもあるし、それにジャズとか入っていて、別々のものなのだけど切れていない。繋がっている。だから幅広くなるのかな。みんな認識している音楽が幅広い。クラシックを演奏しているのに、平気でハードコア聴いている人とかいるんだから。面白い、面白いと言ってね。普通だったら、真逆というか違う世界でしょ。でも認めている。
KY:視野が広いのですね。
内橋:それだけキャパ広いから、いろんなことが起こる、いろんな人が出てくるのかな、と。あるプロジェクトひとつ聴いても、その中にはいろんな要素がつまっているんだと思う。「型」をやっているわけではない。「型」としての音楽は当然知っているわけだけど、自分たちのやっている音楽はそうではない。いろんなものが混じりあって不思議なものを作っている。
KY:当日の演奏が楽しみになってきました。
内橋:楽しみ。演奏をするのも楽しいけど、組み合わせを考えるのも楽しい。大好きなことのひとつ。僕は組み合わせを考えるのがすごく上手なんだよ。
KY:そういえば内橋さんは「フェスティヴァル・ビヨンド・イノセンス」を最初は神戸、そして大阪でやっていましたよね。
内橋:あれは即興しかやらなかったけれど、僕が全部組み合わせを考えたんだ。コイツとコイツとコイツ、この人とこの人を演らせたい。この人の何かを引き出したいとか。この人とこの人が演ったら、この人の何かが出てくるのではないかとか。それに期待したい、それが見たいからやっている。出てこなかったら、コイツ逃げたとか...。ドラマがあるわけでそれが楽しい。音楽だけじゃなくて、人間同士のせめぎ会いとか、葛藤みたいのが音楽を通して見えるから面白い。演出しているんだ。
KY:そうか。内橋さんは演出家でもあるのですね。それではフェスティヴァルでの演奏を楽しみにしています。
関連リンク;
http://www.jazztokyo.com/column/special/001.html
*初出:Jazz Tokyo #190 (2013.9.29)