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よしだののこのNY日誌No. 212

よしだののこのNY日誌 第5回

text and photos by 吉田野乃子 Nonoko Yoshida

みなさま、こんにちは。今年のニューヨークは、結局そんなに気温もあがらず、終始過ごしやすい夏だったように感じます。肌寒い夜も増えてきました。

現在、私はサックスソロアルバムの制作中で、11月上旬には完成を予定しております。どうぞよろしくお願いいたします。

<白石民夫さん追っかけウィーク>

8月には、前衛音楽界の大ベテラン、サックス奏者の白石民夫さんの演奏を、恐縮ながらようやく、初めて生で拝見いたしました。アルトサックスで、とにかく高音を鳴らしまくる白石さんの一貫したスタイルのお噂はかねがね伺っておりましたし、有名な、深夜のNYの地下鉄駅でのゲリラライヴの映像は拝見させていただいておりましたが、実際のライヴでの迫力は本当に凄まじいものでした。

■2015年8月10日(月) 
Tamio Shiraishi Solo Sax @ 『Abasement Vol. 4』Max Fish

ロウアーイーストサイドのバー“Max Fish”の地下スペースで、月に一度企画されているノイズ-エレクトロアコースティック-実験即興音楽イベント『Abasement』の第4回目にお邪魔しました。トップバッターに白石さんがソロで登場。超音波のような高音を、パワー全開、ひたすら鳴らし続け、体全体で息を吸い、たまに勢い余ってフラッとよろめかれるお姿には圧倒されました。なんという緊張感でしょう。サックスだけではなく、エレクトロニクスも操作されて、時たま、スピーカーからの謎の轟音と共に演奏をされていました。

演奏終了後、白石さんに「エレクトロニクスのノイズはなんの音ですか?」と伺ったところ「地下鉄の音だよ。」と予想通りのお答えをいただきました。NYの地下鉄の音をフィールドレコーディングして使用しているアーティストは数多くいると思いますが、白石さんほど、NYの地下鉄のノイズをライヴで使うのにふさわしいプレイヤーはいらっしゃらないと思いました。

■2015年 8月12日(水) 
“大凶風呂敷” (Cammisa Buerhaus + Tamio Shiraishi) @ Trans Pecos

2日後にはブルックリンのライヴハウスで行われた、白石さんと、サウンドアーティストのカミッサさんの、来日公演も行われたデュオユニット“大凶風呂敷”を拝見しに。すっかり白石さんの追っかけです。この日、カミッサさんは自作の木製のオルガン(!?)を演奏。中が空洞になった、四角く長い木の筒のようなものが並び、(どのような仕掛けになっているのか全くわかりませんでした、申し訳ないです…。)“優しげなドローン”のといったような暖かいノイズが響きました。白石さんは背広にネクタイというお姿で登場、Trans Pecosは、ステージに向かって会場の反対側にバーがあるのですが、ライヴの前半、白石さんはそのバーカウンターの上に立って演奏をされました。もちろん超音波のような爆音高音ノイズです。お客さんはカミッサさんと白石さんに前後から挟まれてライヴを見る形に。中盤にはカウンターから飛び降り、ステージまでゆっくり歩きながら演奏される白石さん。なんとも不思議でかっこ良いデュオでした。

以前に、私のライヴを見に来てくださった白石さんが、私の演奏と音楽のバックグラウンド(全く大したことはないのですが…)に対して、暖かいお言葉をかけてくださったのですが、白石さんの芸術に対する姿勢と、決してぶれることのないスタイルの前には、「私はなにを、チャラチャラといろんな音を吹いているんだろう…」と、なんだか恥ずかしい気持ちになってしまいます。以前に、ジョン・ゾーン師匠が、「アヴァンギャルドとはスタイル(ジャンル)ではなく、生き方だ。」と言っていたことがありましたが、ひとつのスタイルを極め、長年それを突き詰めて活動するという道を選んだ、白石さんを始めとする、前衛芸術家の方々の偉大さを感じました。

>> TAMIO SHIRAISHI & CAMMISA BUERHAUS LIVE AT ISSUE PROJECT ROOM

<The Stoneレジデンシーにおける前衛音楽シーンのロックな人たち>

(※前衛ライヴハウスThe Stone(ストーンと表記)は、現在、同じアーティストが一週間毎晩連続で演奏する、レジデンシーというシステムでライヴをお届けしています。詳しくは第一回の『NY日誌』をご参照くださいませ。)

レジデンシーに任命されるのは、1人のアーティストとは限らず、クラシックのアンサンブルや、バンドが1週間を受け持つこともあるのです。7~8月にかけてのストーン・レジデンシーは前衛ロックシーンの面々が多くみられました。今回は簡単にリストアップして各バンドを紹介したいと思います。

例えば、7月第3週目(14~19日)は西海岸で活動をする、元Mr. BungleのギタリストとしてもおなじみのTrey Spruance氏率いる“Secret Chiefs 3”が演奏しました。…が、しかし!私は完全に全て見逃してしまいました。大好きなバンドなのになんたる不覚。ご存知のない方はぜひチェックしてみてください!

Trey氏のレーベルのページが一番、バンドのオフィシャルHPに近いようです。
>> http://www.webofmimicry.com/

■ 2015年7月21~26日 “Cleric”
Matt Hollenberg (guitars) Dan Kennedy (bass) Larry Kwartowitz (drums) Nick Shellenberger (keyboards, voice)

フィラデルフィアを拠点に活動をしているこの4人組のハードコアメタルロックバンドは、最近、ジョン・ゾーンの曲を様々なバンドが演奏するMasada Book IIIのプロジェクトに参加し、NYダウンタウンミュージックシーンでも頻繁に演奏してくれるようになりました。レジデンシー期間中は、通常のバンド演奏、ゾーン氏の曲のみを演奏する日、ゲストを迎えての即興演奏の日などもありましたが、難解な曲をパワフルにこなしていくメンバーのエネルギーを感じる、勢いのある1週間でした。

彼らについての情報には、Facebookのページが一番アクティブなようです。
>> https://www.facebook.com/iamcleric

>> Cleric – IMMA – John Zorn Masada Book 3 – Town Hall NYC – 3.19.14

■ 2015年8月18~23日 Mick Barr

前衛ロック即興シーンでは最速と言われるギタリスト、Mickもレジデンシーを行いました。私が見に行ったのは、インプロユニット“Overishins”(Mick Barr (guitar) Johnny Deblase (bass) Chuck Bettis (throat, electronics) Mike Pride (drums))と、ミックの所属する大人気のメタルバンド“Krallice”(Mick Barr (guitar, vocals) Colin Marston (guitar) Nicholas McMaster (bass, vocals) Lev Weinstein (drums))でした。

Mickのインプロビゼーションは、超高速奏法(所謂早弾きですね!)による畳み掛けるようなボキャブラリーが魅力で、つい前のめりになって聞いてしまいます。“Krallice”のセットは言うまでもなくNYのメタルファンによって超満員になり、熱いライヴが繰り広げられました。(でも、みんな真面目に会場の椅子に座って見てくれるので、ストーンでのロックライヴはなんとなくレアな風景になります。)

>> Mick Barr – Made in NY 2015

■ 2015年8月25~30日 Toby Driver

NY前衛ロックシーンの重鎮的存在の若手ミュージシャン、Tobyのレジデンシーには、本当に多くのお客さんが訪れました。“Kayo Dot”という彼の現在のリーダーバンドが一番有名ですが、Tobyは他にも、即興や弾き語り、クラシック作曲もこなす、多彩なアーティストで、毎晩、毎セット、彼の違った一面が見える、バラエティに富んだ素敵な一週間でした。

>> Kayo Dot オフィシャルHP

ストーンで、実に様々なジャンルのライヴが行われているということからも感じられる通り、ジャズ、ロック、クラシック、エレクトロニクス…元々の“出身”のジャンルがなにであっても、前衛的、創造的なものを目指すミュージシャンはみんな、どんどん繋がって行くようでとても興味深いです。

実のところ、私もストーンのレジデンシーアーティストに任命されておりまして、2015年11月10~15日に6夜連続でライヴを行います。お近くにお住まいの皆様、ご旅行でいらっしゃる皆様、どうぞよろしくお願いいたします。スケジュールはストーンのウェブカレンダーでご確認くださいませ。
>> http://www.thestonenyc.com/calendar.php

吉田 野乃子

1987年生まれ。北海道岩見沢市出身。10歳からサックスを始め、高校時代、小樽在住のサックス奏者、奥野義典氏に師事。2006年夏、単身ニューヨークに渡る。NY市立大学音楽科卒業。ジョン・ゾーンとの出会いにより、前衛音楽の世界に惹かれる。マルチリードプレイヤー、ネッド・ローゼンバーグに師事。2009年、前衛ノイズジャズロックバンド"Pet Bottle Ningen(ペットボトル人間)"を結成し、Tzadikレーベルより2枚のアルバムをリリース。4度の日本ツアーを行う。2014年よりソロプロジェクトを始動。2015年10月、ソロアルバム『Lotus』をリリース。現在、活動拠点を北海道に移す。

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