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このパフォーマンス2019(海外編)No. 261

#02 Peter Kolovos 来日公演 2019 feat. 川島誠/内田静男/山㟁直人/橋本孝之

2019年11月7日(木)東京・千駄木Bar Isshee

Text by 剛田武 Takeshi Goda
Photos by turbo

Peter Kolovos : guitar
川島誠 : alto sax
内田静男 : b
山㟁直人 : perc
橋本孝之 : alto sax, harmonica

アンダーグラウンド・カルチャーの保護と実践。

日本の地下音楽の代表的レーベル「PSFレコード」のカタログをアナログ盤で再発しているアメリカのレーベルBlack Editionsの主宰者ピーター・コロヴォスが来日した。今回の来日の主目的はPSFレコード関係アーティストや関係者に会って、今後の作品リリース予定を話し合うことのみならず、過去の音源や素材を整理して保管する方法を相談することだったという。11年前ロサンゼルスのユニバーサルスタジオの火事で多くの歴史的マスターテープが焼失したというニュースが今頃になって報道された上に、最近発生したロサンゼルスの山火事を目の当たりにしたコロヴォスが、地震や台風被害が多い日本にあるマスターテープや写真素材を保護しなければならないという使命感に駆られて飛んで来たのである。いわば地下音楽遺産保護の義援隊と呼べるだろう。

コロヴォスが主宰するBlack Editions GroupにはPSF再発中心のBlack Editions、欧米のアンダーグラウンド・ミュージックをリリースするThin Wrist Recordings、実験音楽中心のVDSQの三つのレーベルがある。Black Editions以外は、現在進行形のアーティスト/ミュージシャンを扱っている。つまりコロヴォスは単なる異国趣味・回顧廚ではない。それは彼がレーベル・オーナー/プロデューサーだけではなく、自らも90年代からロサンゼルスを中心に活動する即興ギタリストであることでもわかるだろう。

そんな“ミュージシャン”コロヴォスの初にして一夜限りの日本公演。共演者選びは9月にコロヴォスのアレンジでアメリカ・ツアーを成功させた川島誠が協力し、コロヴォスが使用するギターは橋本孝之が自分のギブソン・レスポールを心良く提供したという。ミュージシャンの横の繋がりで実現したコンサートである。平日の木曜日の夜にもかかわらずソールドアウトの超満員。著名なミュージシャンや音楽関係者の姿もあり、日本の音楽シーンとコロヴォスの繋がりの深さを実感した。

●橋本孝之SOLO
サックス一本銜えて屹立するダンディズム。真剣のような切れ味をもつハイトーンの一振りが期待の上の上を過ぎ去り際に聴覚シナプスを刺激する覚醒感。

 

●内田静男SOLO
打って変わって低音弦の弄りから発生する質量の波動が地下倶楽部の空気を浄化して、忘却に似た無我の境地を垣間見せるが、その隙間に弓が放つ嚆矢。

●ピーター・コロヴォスSOLO
レスポールのボディ上部のトグルスイッチを是ほど酷使するインプロヴァイザーはおるまい。シューゲイズしたまま音色と時間と空間を切断する執行人の如し。

●川島誠SOLO
情念の重みをひとり背負っていた曾ての面影は消え軽やかに飛翔するサックス奏者の姿があった。ヘヴィネスをコントロールし音に光を宿す術を産み出した喜び。

 

●山㟁直人SOLO
ドラムでもパーカッションでもなく皮を張った共鳴体になったスネアを摩擦するオブジェが熱を帯びて発火する前に音ヘ昇華し冷ます技はどんな轆轤(ろくろ)職人でも敵うまい。

●All Members Session
くせ者揃いの5人が一斉に音を出すと、アンプ増幅された音だけしか聴こえない現象に陥る恐れがあったが、いかなる技か見事なバランスで観客の聴覚をやさしく蹂躙する集団即興マジックを披露した。

過去を振り返るばかりでなく、現在進行形の音楽に注目し世に出すための活動をしているコロヴォス。この日のライヴ演奏はミュージシャンとしての現在進行形を示すことに成功した。自分も観たり聴いたり論じたりするばかりではなく、実践者として現在進行形のシーンに関わらなければならない、と背筋を正される思いがした。(2019年12月14日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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