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Jazz and Far Beyond

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このディスク2019(海外編)No. 261

#01 『Marshall Allen, Danny Ray Thompson, Jamie Saft, Trevor Dunn, Balazs Pandi, Roswell Rudd / Ceremonial Healing』

Text by 剛田武 Takeshi Goda

世界の癒しはフリークアウト精神から産まれる。

2019年9月16日 神奈川県川崎市東扇島東公園・特設会場で開催された『渋大祭〜渋さ知らズ30周年』にサプライズ・ゲストとしてサン・ラ・アーケストラが出演した。実はこの日は筆者の推しの地下アイドル・グループから中心メンバーが脱退する卒業公演の当日だった。夕方早めの公演なので、終演後物販を干して(参加しないで)ダッシュで向かえばアーケストラに間に合うかと思ったが、会場が川崎駅からバスで20分、バス降車場から会場入口まで徒歩で10分以上かかる遠隔地のため到底間に合わず、ステージまで辿り着いた時にはトリの渋さ知らズで満場の観客が踊り狂っているときだった。遠いステージでソロを取るマーシャル・アレン師の姿を一目見ただけで、アイドルに会う時以上の胸の高鳴りを覚える。30人近い大所帯の中でもひと際映える赤いラメのガウン。踊るように身体を揺らせながら、右手の甲でアルトサックスを擦って悲鳴をあげさせる。嗚呼サックスになりたい!と心の中で叫んでいた。

思えば40年近く前、18歳の時にカット盤で初めて買った『San Ra & his Archestra / Live At Montreux』の自由奔放な演奏の中で、最もメチャクチャ/デタラメ/フリークアウト度の高いプレイを聴かせていたのがマーシャル・アレンだった。彼のプレイに触発されて、大学入学と同時に大久保の石森楽器で中古のセルマーMark VIを買って、デタラメに吹き散らかしはじめた。しかしメチャクチャをやり通すには鋼の体力と鉛の気力が要る。次第にサックスを吹くのが面倒になり、滅多に吹かなくなってしまい、仕舞に数年前にセルマーも売り飛ばしてしまった。そんなダメダメな筆者を尻目に今でも元気闊達にメチャクチャをやり続けるマーシャル・アレンを目に(耳に)する度に、人生なんかに負けるものかと心に闘志の火が灯る。マーシャル・アレン師を中心に6人の猛者がフリークアウトを極めた本作は、混迷する世界の癒しの儀式のサウンドトラックなのである。(2019年12月16日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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