JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 5,301 回

My Pick 2023このパフォーマンス2023(海外編)No. 309

#03 TrioSAN @公園通りクラシックス

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

ピアノの藤井郷子、ヴィブラフォンの齊藤易子、ドラムスの大島裕子の3人で結成された「TrioSAN」。SANはもちろん「3」を意味しているのは言うまでもない。藤井は現在は日本に居住しているが、かつてはベルリンに居を構えていたこともあり、パートナーの田村夏樹 (tp) と欧米を股にかけ、席の温まる暇がない。齊藤はベルリン、大島はストラスブールを拠点にしているのだから、この邦人トリオの演奏を海外部門の<My Pick>に入れても異論はないはずだ。さらには、彼らは2022年にヨーロッパで結成され、デビュー・アルバム『Hibiki』はヨーロッパで録音され、ヨーロッパのレーベルからリリースされた。
2019年、齊藤が里帰りし藤井とデュオ「Futari」でツアーを組んだ。公園通りクラシックスで聴いたでゅおの演奏をCDで聴きたいと思った。CDでリリースすべきだと思った。しかし、録音はされていなかった。ツアーの最後に愛媛のスタジオで録音された『Beyond』を聴いた。よく言えば練れてはいたが、あのライヴの胸が高鳴るほどの緊張感には欠けていた。そこにドラムの大島が割り込んだ。当然のことだが音楽は変わった。Futariは極めて内向的だったが、SANは外向的になった。せめぎ合いから解き放たれた藤井と齊藤が音楽を楽しんでいる。SANはSUNをも意味しているのかもしれない。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください