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R.I.P. 林 聡No. 320

追悼・林聡さんのこと 能勢伊勢雄

林聡さんとの出会いは、大阪のCosmic Galleryで行ったバックミンスター・フラーのレクチャーがきっかけでした。このレクチャーは、主宰者の三浦泰理さんの要請で実施したもので、シナジェティクス(Synergetics)の概念について語ったものです。

講演を終えたとき、ただ一人、熱心な拍手をしてくださった方がいました。それが林さんでした。そして、握手を求めて近づいてきた彼との出会いが、私たちの長いお付き合いの始まりでした。

林さんは、京都国際映画祭のアートディレクターを務めていたおかけんたさんのお誘いで、その場にいらっしゃったそうです。私の話に共感してくださり、一瞬でお互いを理解し合えるような感覚を共有できたことを今でも覚えています。

その後、Gallery NOMARTの存在を知り、大阪のアートシーンとの新しいつながりが生まれました。また、林さんは、FACTORY HOUSE SOUNDブランドのオーディオ開発にも携わり、「創造とは、すべての感覚が関連し合っている」という理念を掲げ、ギャラリー運営のコンセプトを「SENSES COMPLEX」と名付けられました。このコンセプトの解説文を書かせていただいたことも、思い出深い経験です。

「SENSES COMPLEX」の理念

2018年9月のメールには、こんな一文が残っています。

「聴覚は視覚を喚起し、視覚は忘却していた聴覚を呼び醒ます。全ての感覚の共感性を「SENSES COMPLEX」と呼び、この感覚をベースに達し得た音が.esにはある。それは全ジャンル統合の新たなオルタナティヴな雛型である!!!!」

このような感覚は、私が松岡正剛さんとの交流から生まれたもので、「情報は一人ではいられない」という彼の考えにも通じています。孤立した情報は「寂しがっている」という。また、「遊学」という概念についても、「ジャンルを跨ぎ、専門化を排し専門的に、それらの本質を結びつけてやること」を追求する姿勢を持っておられました。

林さんはまさに、このような感覚を持ち、ジャンルを越えて物事を結びつけるギャラリー運営をされていました。そのギャラリーがNOMARTでした。

NOMARTでの関わり 

深く関わったのは、NOMART25周年イベントの時期でした。半年間にわたり、展覧会も含め5つのイベントを実施しました。

その中の一つが、拙書『新・音楽の解読』(disc union books刊)に基づくトークイベントでした。このイベントでは、『新・音楽の解読』で紹介した音源を、林さんが製作された「FACTORY HOUSE SOUND SYSTEM」による試聴会も行われました。さらに、中原浩大さんや名和晃平さんなど、様々な作家の展示とともに開催された展覧会も忘れられません。

また、2014年11月には、NOMART25周年記念と大阪ドイツ文化センター設立50周年記念関連企画として、私の写真展『能勢伊勢雄 写真展 −ゲーテ形態学から』を開催させていただきました。その関連イベントとして大阪ドイツ文化センター設立50周年記念「ゲーテ色彩論」の講義も行い、さらには公開レコーディングやシルクスクリーン作品、CDのリリースといった多彩な取り組みを展開しました。このような展開こそが「SENSES COMPLEX」だといえます。

最後の出会い

林さんに最後にお会いしたのは、2024年10月11日、私が主宰する岡山のライブハウスPEPPERLANDの50周年イベント『SPARK・archaïque modernism』でのことでした。

PEPPERLANDは、フルクサスの実験的表現を引き継ぎ、音楽、映像、現代詩、演劇、舞踏、パフォーマンス、アートなど、多様な表現が相互に影響を与え合う場を目指してきました。

音楽とアートの境界を越えた新しい表現の場を提供するという理念は、林さんが語る「SENSES COMPLEX」とまさに一致するものでした。そのような共通の理念を抱く林さんがPEPPERLANDのステージに登壇し、自らの思いを語ってくださったことは、特別な意味を持つ出来事でした。

その後、大阪に戻られて一ヶ月も経たないうちに訃報を耳にしました。今振り返ると、この出会いが奇跡的なタイミングだったと感じます。

イベント当日、PEPPERLANDの場内で車椅子に座られていた林さんを背後から撮影した一枚の写真があります。なぜか正面から撮ることができない気配を感じたのですが、その一枚は、今でも私にとってかけがえのない林聡さんの”おもかげ”となっています。

林聡さんを偲んで

NOMARTで林さんが追求されていたのは、「五感を超え、感覚が交差・拡散する地点」を基盤にしたものづくりでした。それはアート、サウンド、デザイン、さらにはその他の多くのジャンルを結びつけ、現代に必要な世界を形作り指し示すものでした。

林さんの理念と情熱を、これからも忘れることなく心に刻んでいきたいと思います。


能勢伊勢雄

1947年生まれ。写真家、美術展企画、Live House PEPPERLAND主宰。『龍の國・尾道-その象徴と造形』(尾道市立美術館開館20周年記念展)監修、『X-COLOR グラフィティ in Japan』展(水戸芸術館)、『スペクタル能勢伊勢雄 1968-2004』(2004年 岡山・倉敷市連携文化事業)、『OPAM×能勢伊勢雄 シアター・イン・ミュージアム』(2016年 大分県立美術館)『能勢伊勢雄写真展「PORTOGRAPH」』展(Photographers’Gallery企画)、『能勢伊勢雄写真展』(奈義町現代美術館)等多数。山形国際ドキュメンタリー映画祭の“日本ドキュメンタリー映画の格闘-70年代”部門に『共同性の地平を求めて』撰出上映。岡山遊会主宰。著書『新・音楽の解読』(diskunion社)、写真集『ISEO NOSE: MORPHOLOGY 能 勢伊勢雄 : 形態学』(赤々舎)など、多数。福武教育文化振興財団より「福武文化賞」を受賞。慶應義塾大学アート・センター収蔵作家。

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