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My Pick 2024このパフォーマンス2024(国内編)No. 321

#01 『SCHUBERT “Winterreise und Die Zeit”/波多野睦美&高橋悠治』 伏谷佳代

Photos: Dowland & Company

2024年11月25日(月) 東京・代々木上原MUSICASA

波多野睦美(メゾソプラノ)
高橋悠治(作曲/ピアノ/翻訳)

シューベルト:『Winterreise/冬の旅』op.89. D.911 (全24曲) 詩:ヴィルヘルム・ミュラー
『Die Zeit/時』(詩:シューベルト/作曲:高橋悠治)*初演


2016年よりスタートした波多野睦美と高橋悠治による『冬の旅』。2017年の新春に聴いたときは、言葉と音との輪郭を限りなく近似値に近づけたような印象をもったものだが、今回はさらに進んで「時の輪郭」の融合とでもいえばよいか。解釈芸術という縛りでのクオリティはもちろん、太古より変わらぬ人間の心情の普遍性を保持したまま、演じられている今この瞬間が第一波として寄せてくる。手探りのように訥々と湧き出る高橋悠治のピアノの変幻自在なテクスチュア―うららかな春陽から泡沫の諦念まで―に、ひいてはスコアを凝視する高橋の姿そのものに、聴き手の耳目は逐一釘づけにされる。あたかも錬金術の源を探るかのように。一方、波多野睦美の声が湛える「在る」という真実味。そのまろやかな声質や包容力の核にある知的で怜悧な観察眼が、作曲家が描く情景と我々の日常の景色とを情感ゆたかに、かつ最短で繋いでしまう。

さて、シューベルトが1813年、母の死の一年後に詠んだ詩「Die Zeit/時」はこの日が初演。高橋悠治が楽曲化したことで新たな生命を吹き込まれた詩は数あるが、この詩もしかり。言葉とその外形(響き)、意味と感情とが、理想的な符合を遂げつつ「波多野の声そのもの」として収斂される。淡雪のごとき刹那性と深い余韻が同時に現出。

ライヴや演奏会ではなく、まさに「パフォーマンス」という括りでレヴューするにふさわしい。
音の狭間に揺らぐ深淵と、東京の冬の木漏れ日がリンクした超時的な昼下がり。(*文中敬称略)


関連リンク:
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-49570/

http://hatanomutsumi.com/
https://suigyu.com/yuji_takahashi/
https://dowland.info/
https://www.amazon.co.jp/%E5%86%AC%E3%81%AE%E6%97%85-%E9%AB%98%E6%A9%8B%E6%82%A0%E6%B2%BB-%E6%B3%A2%E5%A4%9A%E9%87%8E%E7%9D%A6%E7%BE%8E/dp/B075RMVCJY

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。欧州に長期居住し(ポルトガル・ドイツ・イタリア)各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評(月刊誌/Web媒体)、演奏会プログラムやライナーノーツの執筆・翻訳など多数。

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