#09 フランチェスコ・カフィーソ&ジョー・ブロック・デュオ・コンサート 常見登志夫
2024年1月16日(火)
九段・イタリア文化会館B1 “アニェッリ・ホール”
Francesco Cafiso(as) Joe(=Joseph Franklin)Block(p)
フランチェスコ・カフィーソ(as)
ジョゼフ・フランクリン・ブロック(p)
①I’m Confessin’ That I Love You (C.Smith) ②16 Minutes of Happiness(Cafiso)③Scenario(Cafiso)④Ain’t Misbehavin’(Fats Waller)
⑤Old Milestones(John Lewis)⑥My Shining Hour ⑦Corcovado(Jobim)⑧Rhythm-A-Ning(Monk)⑨Body And Soul(Encore)
御年95歳の北村英治(cl)の素晴らしいステージ(9月29日、千葉市ベイサイドジャズ2024)も今年のベスト・パフォーマンスに推そうと思ったが、年明け(1月16日)のこちらにした。
アルトサックス奏者のフランチェスコ・カフィーソ(35)と、ピアノのジョー(ジョセフ・フランクリン)ブロック(24)がデュオで組んだ、アジア・ツアー(この後、中国でブルーノート北京とブルーノート上海の2デイズがあった)の日本公演。
日本ではカフィーソが16歳になった直後に吹き込んだアルバム『ニューヨーク・ララバイ』(ヴィーナス・レコード)で衝撃のデビューを飾ったが、その2年前、14歳ですでにウィントン・マルサリス(tp)とツアーしている。他のミュージシャンのアルバムへの参加はさらにその前だし、数多くのジャズ祭にも9歳(!)から出演している、天才型の一人。とても可愛らしい容姿とは裏腹に、すでに完成された音がそこにあった。20年近く経った今、目の前のカフィーソは少しおじさんだけれど、さすがにイタリア人、今ではあまり使わない「ダンディ」という誉め言葉がしっくりくる、大人の色気がむんむんである。
会場にはヴィーナス・レコードのプロデューサー・原哲夫氏の姿もあった(ステージ上からも紹介されていた)。
私が大好きだったのは『ニューヨーク・ララバイ』の2年後くらいにリリースされた『黒と白の肖像』(ヴィーナス・レコード)で、ディノ・ルビーノ(tp)の伸びやかなトランペット(ヨーロッパのトランペットはとにかく音が美しい)と、野太いアルトサックスとの丁々発止としたインタープレイである。シシリアン・カルテットと名付けた、イタリア出身のアーチストで吹き込まれたローマ録音だった。これもまだ10代の録音だった。まだ若いのに円熟した音で、カフィーソの一つの完成形とも感じたものだ。その後、カフィーソが自分のレーベルを立ち上げた以降の活躍ぶりはすごく、初めてカフィーソの生音を聴けることにとても期待していた(彼自身、東京でのステージは3回目か4回目、と言っていた)。
共演のジョー・ブロック(p)はこれまで聴いたことがなかったが、かなりの天才のようである(AAJ=All About Jazz=のインタビューに詳しい)。彼もコロンビア大学とジュリアード音楽院を卒業(ダブル・ディグリー・プログラム)したばかりの新鋭ピアニスト。やはりウィントンと若くして共演している。
北京・上海ではブルーノート公演だが、こういうライブを楽しめる(無料なのである)日本(特に東京)はどれだけ恵まれた環境か、胸に刻んでおきたい。
2017年12月の来日時にも細川周平氏が当サイトに詳細なライブ・リポート(やはりピアノとのデュオ・コンサート)を寄せているが、その時もイタリア文化会館だった(大阪公演)。読むとプログラムも重なっているのがおもしろい。
当日のステージの模様を簡単に紹介しよう。
〈アイム・コンフェッシン〉はとても古い、小粋なスタンダードで名録音も多いが、スイング系のアーチストがよく演奏しているイメージがある。カフィーソもとても楽しそうに、思いっきり楽器を鳴らして楽しんで演奏している。ブロックのソロも、音数はとても少ないがよくスイングしていて、かなり音の引き出しの多そうなプレーヤーである。ぐいぐいとテクニックを見せつけるようなプレイはしない。ほどよいスイングで曲の“うた”の魅力を最大限に引き出す、ベテラン・プレーヤーの雰囲気があった。
〈16ミニッツ~〉はカフィーソのオリジナルで、ブロックのイントロ~テーマをピアノ・ソロで進める。カルテットやラージ・コンボなど色んなフォーマットで演奏しているのでカフィーソのファンならおなじみかもしれない。細かなフレーズが連続してテーマを奏でる。ピアノのテーマがサックスとのユニゾンになり、細かくソロ交換したり。何度も演奏しているのだろうか。とてもリラックスした雰囲気だったのが、どんどん緊張感が漲ってきて、ブロックのアドリブパートに。ここでも煌めくようなフレーズをまき散らしながらスイング溢れる、明るいソロである。カフィーソのソロ・パートでは、ところどころにフリーっぽいプレイやコミカルなプレイも散りばめながら熱は帯びていく。そのたびに客席から大きな拍手が湧いた。
〈シナリオ〉もカフィーソ・オリジナル。とてもゆったりとした哀愁があるブルージーなナンバーで、しっとりと聴かせた。ここでもブロックのソロが光る。決して熱くならず、物語を綴るような抑制のあるプレイ。25歳の若者の音とは思えない。少しずつ重ねるカフィーソのアルトの美しさ。
冒頭のカフィーソのロング・ソロで始まった〈エイント・ミスビヘイブン〉は、古いスイング・スタイルながらも時にフリーキーに熱く過激なプレイになったり、テンポ・アップしたりと、千変万化する。愉快な雰囲気はそのまんまだ。急速調の〈マイ・シャイニング・アワー〉など、ものすごいテクニックで流麗に吹き鳴らしている(タンギングを細かく切ったり、タンポを鳴らしたり、特殊な奏法も)が、歌心あふれるフレーズで心に響く。ボサノバやモンクと、バラエティに富んだ80分のステージだった。
冒頭のセットリストは、コンサート後にブロックにいろいろと尋ねていたら、後からカフィーソ本人がメールで送ってくれたもの(表記などは手を入れてある)。作曲家名まで付けてくれてとても分かりやすかった。
フランチェスコ・カフィーソ、ジョセフ・フランクリン・ブロック、ジョー・ブロック